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咲也・此花STEPS!! 2~訳ありフリーターだった俺が伝説の砂漠で一国一城の『にゃるじ』になるまで!~  作者: 日向 るきあ
STEP7.Beautiful Name~ナマエハ、キズナ~

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STEP7-4 Beautiful Name~ナマエハ、キズナ~

「ちっ、闇オーブコンボで逃げやがったか。

 ご丁寧にトレースジャマーまで仕込んである。ボクのナイトウォークでも追えないな。すまない」

 奴が消えた後の床に手を触れ、しあなが舌打ちをする。

 これをざっくり訳すると、『奴はアイテム使ってテレポートで逃げた。行き先を追跡することはできそうもない。ごめん』ということだ。



 俺の脳内に、今朝ゆきさんからうけたレクチャーがよみがえる。

『じゃ、次のページ。

 この闇オーブというのは、闇を発生するチカラをガラス球などにこめた便利アイテムよ。

 これをどこかに叩きつけて割れば、その場に数秒間、小規模な暗闇が出現するわ。

“目立たない目くらまし”になるから、潜入作戦のときなんかには重宝するものなんだけど……』

 ゆきさんはここで、妖しく微笑んだ。

『わたしやしあな、アズールのような“先祖がえり”が持っていたら、確定で“闇オーブコンボ”が来ると思いなさい。

 発生させた闇を利用して『闇歩き(ナイトウォーク)』を発動し、不意打ちを仕掛けてくるわ。もしくは、さくっと逃げることもあるけどね』



 闇歩き(ナイトウォーク)というのは、夜族の種族固有スキルというべきものだ。

 闇の中ならすばやく自在に移動でき、ちょっとした厚さの壁や障害物なども、移動先に闇があるならばスルーできてしまうという、これまたかなりチートな技だ。

 もっとも時代の下った今では、そんな芸当ができるのはそれこそ『先祖がえり』ぐらいのものだが――


 つまりいまアズールがやった『闇オーブコンボ』とは、闇オーブで発生させた闇の中でナイトウォークを発動し、どこか地下の空洞あたりに逃げ去った、ということだ。


「いいよ、深追いはよそう。奴のことだ、なんか仕込んでても不思議じゃない」

「……だな」

「それよりみんな、早く帰って休もう。

 警察の人とかには、俺とサクが残って説明するよ」

 ナナっちとロクにいさんが手を上げる。

「俺も残る。あんだけハデにドンパチやっちゃったしさ」

「私も。奈々緒をおいていくのは心配ですから」

「サキがのこるならあたしもー!」

「スノーは生まれたばかりなんだから、まずはゆっくり休む。それからでいいよ。

 無理してなんかあったら困るからな」

「ぶー……」

 ハイテンションで抱きついてきたスノーだが、頭をなでてやると膨れながらも納得した様子。

「ちょっといいかなサクっち。

 スノー……花菜恵、ちゃん? どっち行ったらいいのかな。

『スノーフレークス』としてはサクっちのとこだろうけど、親御さん的にはやっぱり……」

 シャサさんの言葉に見れば、吾朗おじさんはさびしんぼの顔でこっちを見ている。

 どうしよう、やっぱりこの人が朱鳥で一番怖い人とかって思えなくなってきちまった。

「…………い、いいんだぞ。は、花菜恵が、いいほう、で…………」

 スノーにそういってやるおじさんは、目を潤ませながら、ちいさくぷるぷるしてすっごいがんばってる。

 渡辺さんと一部の七瀬メンにいたっては、ほっぺに手を当てて萌えている。いや気にしない、気にしてはいけないところだこれは。


 しかしスノーは、どっちがいいんだろう。

 やっぱり、スノーフレークスの花があるユキシロがいいのか。それとも人工授精でとはいえ、血のつながった親元がいいのだろうか。

 俺的にはやはり、愛する人には側にいてほしい。それがたとえ、4歳の子供の姿であったとしても。

 まあ、同居とかしたら、それはそれでいろいろと……いや、俺には紳士な趣味はない。小さい子供はかわいいと思うが、不埒な感情はわきあがらない。その自信がある、というかそう信じている、が……


「あたし、父さまたちのとこがいい」

 さくっと答えを出したのはスノー、いや、花菜恵だった。

 あまりにさくっというので、むしろ驚いたほどだ。

「だって、“あたし”の名前は花菜恵だもん。

『ぜったいたすける』ってそのつもりで、母さまたちと考えてくれた名前。

 この名前をもらったあたしは、父さまと母さまのこどもだもん。

 だからあたしは、七瀬のおうちにかえりたい。いいよね?」

 はっ、とナナっちがおじさんを見る。

 吾朗おじさんはというとしばらくのフリーズの後、爆発した。

「は……花菜恵――!!」

 ぎゅーっと抱きしめて、涙を流す。

 うしろでは何人もの七瀬メンがうおおおおっとなっている。

「わが、わが、わが、子が……七瀬に、かえり、たいと……

 初めて……聞いたっ……」

 涙でぐしゃぐしゃになった顔で、おじさんは問う。

「いいのか、父さまたちは、みんなから怖がられてるおじさんだぞ?

 幼稚園や学校で、お友達にいやなことをいわれるかもしれないんだぞ?」

「そうならないよう、父さまたちはがんばってるんでしょ?

 ずいぶん前の代から、徐々に“表”のビジネスの幅を拡大して、チカラの源泉を切り替えようとしてるの。女神であるわたしにはわかってるよ。

 ユキシロとの連携も、チャンスとして真面目に考えてるのも。

 あたしはだいじょうぶ。そうやってちゃんと説明するもん。

 それでもからかってくるような子は、こうして笑わせちゃうんだもん!」

 スノーは小さな手でおじさんの涙を拭くと、すっとその手をわきの下に突っ込んで――

「?! っ、ちょ、やめ、やめなさ、あは、あはは、ははははは……」

 吾朗おじさんは笑い転げた。涙を流して大きな声で。

 おかえしだぞー、なんていいながらくすぐり返すその姿に、地下研究所はあたたかな笑いに包まれた。

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