表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/85

STEP1-3 ~『秘密』がばれてた神の子は三枚下ろしの恐怖におののくようです(下)~

2019.10.03


文章表現の改修を行いました!


 ここユキシロ製薬は、設立後数年でいくつもの新薬・特効薬を開発してきた。

 その多くの原材料となるのが、スノーフレークスといういにしえのハーブ。

 可憐な姿、数々の強力な薬効をもちつつも、人の手により絶滅(正確には、ほぼ絶滅状態)においやられた植物だ。

 そうせざるを得なかったのは、強烈すぎる生命力と繁殖力ゆえ、といわれているが――


 本当の理由を、俺は知っている。

 それはスノーフレークスが、人と心を通じる力を持っており、ときの権力者がそれを疎んだためだ。


 長きにわたる徹底的な“弾圧”で、スノーフレークスは人を恐れ、『声』を失っていた。

 ときの権力者たちが死んでも。彼らの国が、海と砂漠に滅しても。

 スノーフレークスは沈黙し続けた。

 それから数千年後、ふたたび古代遺跡で見出され、隔離ファームで芽をふいて、世代を重ねるようになってからも。

 そう、一週間とちょっと前までは。


 その日、ここの地下製薬ファームで俺は、隔離栽培されていたスノーフレークスに激しく魅せられ……

 スノーフレークスの精神体は、そんな俺を頼って交信を試みてきた。

 つたないメールを送り、俺に呼びかけてきたのだ。

 わたしをたすけてほしい。いつかまた、ほんとうの空を見たい、と。


 しかし、精神体――スノーは、同時に懇願してきた。

 俺以外の人間はまだ怖い。わたしが“話せる”ことは秘密にしておいてほしい、と。

 俺はそれを快諾し、その夜から俺たちは、種を超え互いに特別な存在となった。


(その言葉を発したのは、とある悪党が作った会話アプリだったのだが、その後現れたほんもののスノーは、事態を把握していたし、確かに俺を愛してくれていた。

 つまりスノーはあのアプリが稼動し始めてすぐ、それと融合し、俺と交信していたのだろう。その点についてだけは、奴に感謝せざるを得ない)


 それから俺は、『そのこと』をずっと、秘密にし続けてきた。

 スノーフレークスに、人のようなココロがあったこと。そして、人と完全にコミュニケーションをとる能力をもっていたことを。


 そのためには、スノーの存在自体を、隠さなければならなかった。

 もちろん、ナナっちにも打ち明けていない。

 なのに、なんで、知っている?!


 知るのが恐ろしい気がした。

 それでも聞かねばならない。

 これは、そう、今この場で。

 俺は、しばし言葉を選び――ゆっくりと口を開いた。


「ナナっち。お前の属性って、何だ?

 もしかしてお前も精神で、読心とか……」

「え? 俺は七瀬だから、水と、大地だけど。

 いまはスノーさんに力もらって……」

「いつ?!」

「ほら、あのとき。アズールと戦ってお前がピンチになったとき、俺の頭のなかに声が聞こえて、スノーフレークス、長いからスノーでいいわって名乗って……」

「えっ」


 そういやナナっちは言っていた。

『スノー、さんていっていいのかな。彼女が融通してくれた』

 そう、俺は確かに聞いていた。

『(前略)だって俺もうスノーさんの力で』


「ロクにいもそんなかんじで、スノーさんから呼びかけられて力もらって、だからほら、俺たち目の色こうなって。

 あ、そのまえにメイちゃんたちもさ、スノーさんからサクやんがあぶないたすけにきてーって呼びかけられて、だから別の病院とかじゃなくってここに……サクやん?」


 俺はテーブルに突っ伏していた。

 なんてこった。なんてこった。

 俺はゆうべこれを必死で隠そうとしていたが、そのときすでにみんなは知っていたのか。

 というか、ちゃんとそのこと聞いてたのか俺。


 今考えれば納得がいく。

 スノーのことを伏せつつ、『いつか関係者を説得し、事情を話すから』と俺が言ったときの、社長サクの言葉の微妙な間。

 スマホのデータサルベージをしてもいいか、とわざわざ聞いてきたのも、そう、俺が自分から打ち明ける機会を作るためだったのだ。


 ああ、なんてこった。だっていうのに俺は……

 ちいさな『?』に納得のいく、しかし別の面では納得いかないこたえを得てしまい、全身から力がぬけた。

 俺が普段ぷるぷるのグミ型スライムだったら、今は椅子の上から床まででろーんと垂れ下がっているに違いない。


「あ、あのさ。スノーさんけして悪気じゃないと思うよ? あくまでサクやんを助けたい一心で……サクやんきこえてる? おーいサクやん!」

「なあナナっち。ココロってさ、だいじなときにはつながらないものなんだよな……あは……ははは……」

「サクやーん!! もどってこーい!!」


 そのとき、後頭部に衝撃が走る。

 振り返らなくてもわかっていた。下手人はそう。


「サク――!!!

 おまえ、おまえさ!! なんでいってくれなかったのスノーのことー!!

 そしたら土下座とか、あわわごほんごほん、そんなはずかしーことしなかったのにー!!」


 跳ね起き詰め寄れば奴は、超くそまじめにのたまった。


「………… 大の男にそこまでされて即『知ってました』とは言えんだろう。」

「…………………………………………」

「サ、サクやーん……」

「ところでお前たち、引越し作業は終わったのか? ルナへの報告は済んでいるな?

 まさかと思うがわたしの天使と、密室で二人きりになったりなどは」「してませんっ!!」


 テーブルの上、もはや完膚なきまでに撃沈してしまった俺に、遠慮のないお言葉が飛ぶ。

 そのごうじゃすすぎる声音に、俺はふたたび跳ね起きた!


 この男、実は末期のシスコンなのだ。

 これさえなければ完璧なのに、と社内の全員が口をそろえるレベルの。

 ルナさんといい雰囲気になろうとしたとして、にこにこ笑顔でからまれた男性社員は数知れず。俺なんかはこの二週間ほどで何度チョップをくらったか、もはや思い出せないほどだ。

 やっかいなことに、ルナさんは総務・インフラ部門のチーフである。つまりどうあっても、しょっちゅうお世話にならざるを得ない存在だ。

 そしてその度こいつはこうなるのであって……


「ほんとうか?」


 そらはじまった。こうなると奴はマジでたちが悪い。

 ナナっちもぱっと立ち上がり、一生懸命に言う。


「ほんとだよメイちゃ……じゃなかった、本当です社長!

 俺たちふたりでご報告に行って、もちろんドアは開けてましたから!」

「………………………………」


 じぃぃぃぃっと、微動だにせず、俺たち二人を観察するサク。

 いやーな汗が背中を伝う。下手したら俺はこのまま三枚おろしにされるんじゃなかろうか。つまり奴はいま、俺たちをどこから解体するのが効率的か探ってるんじゃなかろうか。

 いや俺たちこいつの友達だったよね? つか俺、こいつの主君で信仰対象で、パワーソースでもある神様(の転生)だったよね?!

 そのはずなのだが、口に出したら超否定即滅殺されそうな気しかしない。


 そんな、生きた心地皆無の時間がどれほど続いたことか。

 奴はおもむろにうなずき、重々しくのたまった。


「奈々緒が言うなら信じよう。」

「なんでー?!」


 * * * * *


 そう、このときまだ俺は、夢にも思っていなかった。

 ことがそこまで大きくなっているなどと。

 そして……。


 * * * * *


Today's Character Data:


アズール……蒼馬梓そうまあずさ※本名不明

 Former Name:アズール(封じ名であり、本名は不明)

 Class:偉名帝国宰相(実質の建国王)、『伝説の大悪神』

 Element:夜気(夜族生得)+精神+炎(後天・捧身契約(右目))

 Battle Type:万能

 Skill Name:ナイトウォーク(闇)、必殺パーンチ!(炎&幻惑)

 Belongs to:?

 Strain:改造夜族(出身不明)

 Hair Color:黒

 Eye Color:黒(左目)、赤(右目)

右目を炎神との契約部位として捧げられ、炎の追加属性を持たされた『改造夜族』。

世界的ロックアーティストっぽいワイルド系。無敵に近い戦闘力と悪魔的な狡猾さをもつ。

高速バス爆破作戦、PSE&ユキシロ本社爆破作戦でサキを拉致しようとした。

前世ではサクレアの仲間を全員暗殺、サクレア本人をだまして利用し、大陸全土を制覇した。



ルナ……Luna Iwanaga May ルナ・イワナガ・メイ

 Former Name:ヴァル・ルーナ

 Class:竜神と神樹の巫女

 Element:水・生命(先天・竜神由来)+植物・生命(サクレア由来)

 Battle Type:聖魔法士

 Skill Name:アクアヴィータ、ブルーミスト

 Belongs to:ユキシロ製薬株式会社総務・インフラセクションチーフ/常務取締役

 Strain:人間(アユーラ国ウエストアイランド)※アユーラ人と朱鳥人のハーフ

 Hair Color:漆黒

 Eye Color:深緑色(※サキ、サクよりは明るい色)

おっとり可憐な天然お嬢様。16歳の天才美少女。仕事ぶりはきわめて有能、常に優しく冷静で、皆のことをまず考えるため、人望はあつい。兄・サクには溺愛されている。

彼女にとって、サキは『理想の王子様』であるらしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ