STEP5-2 ~突入・東雲研究所!~
眼下にはぼーぜんと俺たちを見上げる人人人(一部テレビカメラついでにわんこ)。
そう、俺たちは、俺たちの乗った車列は、空を飛んでいた。
振り返れば、車列があったところの路面には、踏み切り版のような板。
つまり、アレを使ってA班B班+サクの車の総勢5台は、研究所門前の人群れとバリケード、門そのものすら飛び越した……ということらしい。
あぜんとした俺の耳に、渡辺さんの高笑いが響いてくる。
「はーっはっはっはー! どーだおどろいたか此花ちゃーん! これがユキシロ警備隊の実力だああ!!」
「渡辺さんのキャラがああ!! っていうかどこの怪盗アニメだよこれええ?!」
「サクっち耐ショック体勢! 着地するよ! まあ死ななければだいじょぶだけどさ!!」
叫んでいると再びシャサさんの声が飛んだ。
そう、そうだった。高く飛んだらあとは落ちるだけってどっかのえらいひとも言っていた!
つまり……
「ぎやああしぬうう!!」
迫りくる地面。いくら車のタイヤがゴム製で、サスペンションなんかもはいってて、シートもそれなり柔らかいったって、この高さ、この衝撃、ふつうに無理だろ!!
「どりゃあああ!!」
そのとき、ふたたび渡辺さんの怒号が車内を圧し――ぼよーん。
「……うあ?」
ぎゅっと目を閉じていると、浮遊感に変わってなんだか、奇妙な感触が突き上げてきた。たとえるならば、トランポリンにでものっかったような。
おもわず目を開ければ、そこは見覚えのない施設の前庭。
計五台の車列は、いまや綺麗に整列して停車しているようだった。
空中にではない。ちゃんと、地面に。まるで、何事もなかったかのように。
「え、っと……?」
「結論から言おう、サクっち。我々は突入ジャンプとその後の着地に成功したのだよ。
さーあこっからが本番だ! 秘密の地下研究所までとっこむぞー!!」
「ええっ、もうそんなとこまでわかってるんですか?!」
「ああ、こういうのってだいたいテンプレだから!」
「おぉい?!」
「ふっふっふ。テンプレになるのはそれなりの利点があるからなのだよ。
地下は温度湿度の変化も少なく、通年で安定した環境を維持しやすい。繊細な作業をするにはもってこいなんだよ。
ほら、うちだって製薬セクションは地下だし!」
「あ……」
シャサさんは(キュートな)ドヤ顔だが、これは素直に感心せざるを得ない。
そんなところまでサラッと考えてるとか、さすがは、警備セクションチーフ。
「ほれほれ見とれてない見とれてない! いくよ!」
「はい!」
俺たちは車を降りて一旦集合した。
「A班B班、揃っているな。
B班はわたしと通用門方面へ。宣言どおり、浜名氏、および同様の身の上の人々を救出する。
A班は地下ラボを目指せ。
敵の殲滅は考えなくてよい、がとにかくカメラは潰せ。
アズールの元へいたるまでに、わたしも合流しよう」
「らじゃ!」
「心得ました!」
「はい!」
「りょーかいだ!!」
えーと、救出作戦を終えて引き返し、敵が残った研究所内を戦いながら、先行させといた俺たちに追いつく……だって?
いや、ヤツならやるだろう。突っ込んでも仕方がない。
どーせ敵が来たってあのちょーしでメロメロにするのだろう。突っ込んだって不毛なだけだ。
おもわずじとっと見ていると、サクは俺に聞いてきた。
「どうしたサキ、わたしの顔に何かついているか?」
「いーえ。」
「……そ、そうか」
思わずぶっきらぼうに返事してしまったが……あれっ? サクのやつ、なんかちょっとたじろいでる?
まわりの皆がくすくす笑い、サクは咳払いで取り繕う。
「それでは、作戦を開始する! 一時間後をメドにカタチをつける! いいな!!」
「おう!」
まあ、そもそも今はそれどころじゃないのだ。
シャサさんについて、俺たちA班は動き出した。
* * * * *
A班のメンツはシャサさん、渡辺さん、俺、松田さん、湯島さんの総勢五名だ。
見た目で言うと、警備の制服(えんじ色)、警備の制服(紺)、シャツにジーンズの普段着、グレーのスーツにハンチングと眼鏡、フリフリの黒ゴスロリ(!)という、まるで漫画かラノベのような取り合わせだ。
だが、俺以外は全員、ユキシロの警備員正。つまり、最新装備の軍人200名以上を相手取れるつわものだ。
しかし、ならば相手もそれなりの実力の持ち主に決まってる。そしてラスボスは、あのアズール。
……正直、不安はないでもない。
というか、不安要素はひたすら俺だ。
ぶっちゃけ俺は『勇者パーティーに混じった駆け出しの修道僧』みたいなもの。
格闘も補助も回復もできる。しかし実戦経験も訓練歴も貧弱、みんなとの連携もできてない。
そこんとこはおねーさんたちがなんとかするよ、とシャサさんたちは言ってくれるが……
「サクっち、スマイルスマイル。
君がスマイルくれるなら、ぼくらは悪にもなっちゃうぞ、なんて☆」
「悪になってどーすんですか!」
どっかできーたよーなフレーズを口にして、シャサさんは笑ってみせる。
そんな彼女に思わず突っ込めば、ふと気持ちが軽くなっていることに気がついた。
「よーし、肩の力抜けたねっ。
まっちーどう?」
シャサさんはそして、ぽんぽんと俺の背をたたくと、エントランス方面をじっと見ている眼鏡青年――松田さんに声をかける。
グレーの帽子にスーツ。スタンドカラーのクリーム色のシャツ。ちょっとレトロな銀縁眼鏡。
穏やかな表情とやせ気味の体格とあいまって、漫画で見るような書生さんを思わせる風情だが、この人も警備員である。
松田さんの属性は光。赤外線ほかあらゆる波長の『光』を『見る』ことができる力を生かして、どちらかというとサポートが得意であるそうだ。
そんな松田さんは、眼鏡をなおしつつ答える。
「エントランス周辺、施錠、敵影、トラップなし。
マーカー投げます」
「OK!」
シャサさんがOKを出すと、松田さんがエントランスの扉をすこし開き、赤いボールを投げこんだ。
早足くらいの速度でゆっくりと飛んでいったそれは、ふわふわとエントランス中央に滞留する。
放熱マーカー。体温くらいの温度をたたえて飛び、熱感知式、および赤外線感知式のトラップを反応させるために使われる、ユキシロ社製の秘密兵器である。
発光させてライトとして使うこともできる、便利なものだ。
さらには内部に仕込んだ粉末を噴射させて、めくらましにも使えるというのだからもう。
もしもファンタジー異世界にもってけば、冒険者たちに売りまくってたちまちひと財産築くことができそうな便利っぷりだ。
もっともこのマーカー、自動で動いてるわけではない。
操気法――俺たちが持って生まれた『パワー』を操るスキル――を用い、マーカーに力を流し込んで飛行および発熱させるのだ。
運動制御系の訓練にもってこいなので、俺もやったことはあるが……結果はいわずもがな。
しばらくは、回復&補助&格闘で戦う、地味な立ち回りにとどまることになりそうだった。
* * * * *
松田さんが『下見』をし、マーカーを投げては進む。
カメラがあったら破壊して、巡回がいたらそれから対処。
最初の『中ボス』が現れたのは、それを10回ぐらい繰り返した頃だった。
たどり着いた、薄暗がりのエレベーターホール。
地下研究所につながるらしい、エレベーターの前。
「……そうか。
ここまでたどり着いたということは、やつらを皆、撃破してきたということか……」
そこに、そいつは――
薄闇の中にあってなお鋭い眼光をたたえ、山のような体躯を誇るその男は、じっ、と静かにたたずんでいた。
Today's Character Data:
松田さん……松田 明
Former Name:マーズ・ラフーラ
Class:神王の騎士
Element:光・変換+植物・生命(サクレア由来)
Battle Type:補助・攻撃
Skill Name:スペクトラムアイ
Belongs to:ユキシロ製薬株式会社警備セクション・警備員正
Strain:人間(中原地方)
Hair Color:葦色
Eye Color:若草色
書生さんふう優男。もちろんきちんと鍛えているので並み以上の体力はある。
視線を媒体とし、あらゆる波長の『光』に干渉する。そのため普通では見えないところも見ることができ、また逆に変換した光で電子機器を操作することや「めからびーむ」も可能。
性格は穏やか。正反対のしあなとは仲がよく、いつもサポートしている。
和装のたもとやふところには、しあなお手製の秘密兵器がいろいろ眠っている。
しあな……湯島 しあな(ゆしま しあな)
Former Name:?
Class:天才美少女とでも呼んでくれたまえ
Element:夜気(夜族生得)+植物・生命(サクレア由来)
Battle Type:戦闘? そんなものボクはしないよ
Skill Name:イブニングウォーク
Belongs to:ユキシロ製薬株式会社警備セクション・警備員正
Strain:夜族・夜天種(中原地方)
Hair Color:白銀
Eye Color:トルマリングリーン
白銀の髪をぱっつんショートにし、右目を前髪で隠したエキセントリックな天才美少女。
愛用の黒のゴスロリのなかにはお手製の秘密兵器がいっぱいのボクっ娘。
夜族の先祖がえりゆえ、家族の配慮とサクの招きでユキシロに入社した。
親戚のゆきさんとはお互いタメぐちだが、シャサさんは姉貴分として慕っていて、彼女の言うことだけはなんでも素直に聞く。松田さんとは兄妹のような関係。




