STEP5-1 ~属性カリスマの反則王子が非常時対応交渉すると何かがおかしくなるようです~
「お……っおう! てめえ、何しに来やがった!!
じゃ、邪魔だてすっとただじゃおかねえぞこの、イケメン野郎!!」
どっかできいたような言い草で、青い両目に黒スーツの男が恫喝しようとする。
しかし、彼はリーダー――イツ兄さんの一瞥を受けると、ぴたっと口を閉じてしまう。
「お前らは黙っていろ。
部下が失礼した。我々は七瀬家の者。私は現当主吾朗の五男、出香と申す。
この隊の代表は私だ。私が話をしよう」
青眼に黒スーツという特徴は同じだが、やはりこれだけの人数の先頭に立っている男。
サクへと会釈を送っても、いちミリもその威厳と気迫が揺らがない。
対してサクも、腰を折るように軽く一礼。こちらもまた、過ぎるくらいの堂々ぶりだ。
「丁重な挨拶、痛み入る。
ユキシロ製薬株式会社CEO、サクヤ・イワナガ・メイ。
弟君がたには先日、悪党に狙われたわが社と社員を救っていただいた。改めて御礼を申し上げる」
ちなみにその悪党というのは当時七瀬に所属していたアズールだ。
奴自身はそいつを明かしていなかったものの、大した先制パンチだ。
もっとも、感謝の意はしっかりこもっていたから背後の部下さんズも「……お、おう」としか反応できないようだったし、イツ兄さんも動じないのだが。
そこへ、反対側から野次が飛ぶ。
「おいおい今更オハナシゴッコかァ? 逃げ帰りてえんなら見逃してやんぞ!」
いかにも大工さんといったハチマキ姿のおっさんが冷やかせば、さきの動画で見たリーダーらしきチャラ男――首元を大きめに開けた赤系のカラーシャツに白スーツ、金のペンダントに紫のメッシュ入りの茶髪とこてこてに取り揃えた『ホスト系小ボス』だ――がサクに歩み寄る。
「そこのいけてるニイチャン。いま俺たちだいじな『おはなし』してんだわ~。
トーシロはとっとと帰ってミルクでものん……ゲホッゴホッ」
肩に手をかけようとして、深緑色の鋭い視線が飛べば、急にその男は咳き込む。
「……チッ、ここは空気が悪くてやってらンねえぜ!
そのスカした車どかせや! おれたちゃ守るべきものがあるんだよ!」
そうだそうだ、と“市民グループ”が声を上げる。
「わたしも同じだ。
このなかに、助けを待つものがいる。
言ったな、ハマナの社員がとらわれていると。そして」
「社員~? 浜名ってそいつ社長じゃーん!」
「結局さー“社長だから”助けるんでしょ、しゃちょーサーン?!」
印象操作のため、社長であると知りつつもあえて、社員と言った。作業着の若者らはそこをついてきた。が。
「同じことだ。」
深みのある声できっぱりと、サクは押し切る。
そして、助けなければならないのは彼だけではないんだぞ、と、ぶったぎられた主張をさりげなくつなげつつ、つよめの調子で諭してゆく。
「“彼ら”には家族がいる。ともに働く仲間がいる。ここにいる我ら皆と同じだ。
あれほど忌み避けてきた七瀬の娘を案じることのできるお前たちが、なぜ同じ町の同じ仲間を気遣えん?」
「っ、そ、れは、……」
その男らを直視し、サクが問いかければ、彼らは口ごもる。
つぎつぎと、視線を写してゆけば、そのだれもが答えることができない。
「そんなはずはないな?
道をあけてくれ。わたしが彼らを助けに行こう」
「っ……」
顔を見合わせる“市民グループ”メンバーたち。
しかし、チャラ男はさすがの反応速度。
「ダメだ。ココをあければ奴らがアンタを追って研究所に入るだろ?
そーか、アンタやつらとグル」「冗談、だな?」
静かな怒りを含んだ言葉は一発で男を沈黙させた。
しん、と静寂が訪れれば、それは再び破られる――サク自身の熱い叫びで。
「七瀬の中にも娘を持つ親がいる! そんな男たちに、赤ん坊を殺させるわけに行くか?!
お前たちはそのためにここを固めているのだろう。違ったのか?!」
「!」
「うぐっ……」
驚いた様子で、サクを見つめるイツ兄さんたち。
思いも寄らない形で、ワンランク上のヒーローにされてしまった“市民グループ”も同様だ。
「だったら根性見せろ! 我々は全速力でとらわれし者たちを助けに行く。あのテロリストと、やつがばら撒いた悪の手下を倒して!
その間ここを固めろ! そのつもりでここにきたんだろう! 七瀬より先にたどり着きバリケードまで張って! 違うのか!」
「それはっ……!」
一方で複雑な表情になったイツ兄さんは、しかしそれをかみ殺す。
「メイ殿。我らはとどまるわけには行かない。
そのものらを鼓舞し、スノーフレークスを生かすというのであれば、敵とみなさざるを得んぞ」
一転静けさをとりもどし、振り返るサク。
じっと、イツ兄さんの瞳を見つめる。
まるで、悩める同志に対するように、率直に深く、穏やかに。
「貴殿らには異なる選択肢があるはずだ。なぜそれを取れない、出香殿」
「……それは、言えない」
「そうか。
アズールを倒せば、光は差すか」
「……」
肯定の言葉を、口に出せないイツ兄さん。
いたわるように、サクは告げた。
「わかった。
……ともあれ、あの男は我ら皆にとり、してはならないことを行っている。
倒すのは同じだ。“先に”行かせてくれるな」
「…………いいだろう」
「ありがとう」
友に対するように笑み、会釈するとサクは、全員に向けて声を上げる。
「東家と南原家がこんな場にまだ来ていないのは奇妙だが、いずれくるのだろう。そちらについては我らは何かをできないが、……」
さらにくるっと、サクはチャラ男リーダーに向き直った。
「え、な、なに……」
すい、と手を伸ばし、奴の頬に触れる。
腰をかがめるようにして(というのはサクの方が奴よりだいぶ背が高いからだ)、一寸の迷いもなく顔を近づける。
「きゃああああああ?!」
その瞬間、あたりが――もちろんこの車内も渡辺さんの――黄色い悲鳴に包まれた。
なぜかあのふたりのバックに真っ白いバラが散ってるように見えたんだが、何だろうねこれ。
「……やはりか。
お前たちの多くが黒のカラーコンタクトレンズをしているが、ちゃんと眼科医の処方を受けてはいないだろう?
世の健康を案じ、薬を扱うものとして見逃せん。まずは可及的速やかに、これを使用するといい。
いいか、ひとりひとつずつだぞ。使いまわしは厳禁だ。いいな」
そしてどっからかとりだした自社製目薬入りの袋(人数分あるようだ、ほんとにどっから取り出したんだ)をチャラ男の手に握らせる。
「あ、はい……どうも……」
チャラ男がおもわず素直に受け取っちゃうと、サクが優しく微笑む。
うん、あの男もなんだか顔が赤いけど、まるで少女マンガのように触れ合ったばかりの両手を胸の前でぎゅっと握り締めてるけど、もう気にしないことにしよう。
まわりのおっさんにーちゃんおばちゃん(改めてみるとなんか女装にしか見えないけど)がうらやましそーにしてるのも……うん、もういいや。
「でっ?! でもっ、ちょっと待って?! 車は無理だよ物理的に!!
あなたひとりぶんくらいなら何とかできるけどっ……」
すっかり乙女野郎と化したチャラ男が粘る。
「わかった、ならば善処しよう。任せておけ」
「はいっ!」
あーもう気にしない気にしない。サクを見送る奴のポーズが旅立つ勇者を見送る村娘なのもシャサさんがけらけら笑ってるのも渡辺さんがキャー後で画像データもらわなきゃーとかいってるのも、サクのやつめがちょっとドヤ顔(他の奴にはわかんないだろうが幼馴染をなめてはいけない)かましてるのも。
『A班B班突入、行け!』
だが、そのドヤ顔王子はすたすたと車に乗り込むと、やおら車を発進させた。
いったんバックさせたはいいけれど、そこからかける、遠慮なしの加速!
「ちょ?!」
「合図来たー! サクっち歯を食いしばれ!!」
「っておいやめっ、あんなやつらでも」
「おるあああああ!!」
それ今言うシャサさん?! それ以前にやばいまずいしぬる轢かれる、門前のヒロイン野郎のかたまりがあああ!!
加速度でシートにたたきつけられながらも俺は、必死でその惨劇を止めようとした。
だが渡辺さんは聞く耳持たず、とんでもない掛け声とともにアクセルをべた踏み。
「わああああああ……あ?」
そのとき車窓から見た風景を、たぶん俺は一生忘れないだろう。
ぐんっ! と何かに乗り上げる感触が全身を突き上げる。
続いて来たのは浮遊感。
そして、窓の外の景色は。
「ええええええ?!」
――お空になっていた。
Today's Character Data:
渡辺さん……渡辺 美穂
Former Name:?
Class:神王の戦乙女
Element:大地・運動+植物・生命(サクレア由来)
Battle Type:格闘・補助
Skill Name:エクストラムーブ
Belongs to:ユキシロ製薬株式会社警備セクション・警備員正
Strain:人間(中原地方)
Hair Color:黒
Eye Color:若葉色
ショートカットに童顔、ちょっと小柄な元気っ子系。でも成人女性。
移動補助術の大家。攻撃強化、防御障壁などのサポート系も得意とし、格闘もこなす。
性格は明るく健気ないい子。ちょっとミーハー。大技を使うと反動でしばらくキャラが壊れる。




