STEP1-2 ~『秘密』がばれてた神の子は三枚下ろしの恐怖におののくようです(上)~
2019.10.03
文章表現の改修を行いました!
最初の“異変”を耳にしたのは、今日の昼。
引越し作業をやっと終え、本社ビル中二階・ティーラウンジで一服しているときだった。
* * * * *
壁掛け時計の針が指すのは、11時10分ちょっとまえ。
早番の昼休みにもやや早い、こんな微妙な頃合いとなればむりもない。
白いテーブルを並べたティーラウンジは、ほとんどスカスカだった。
人の話し声もほとんどなく、何かのピアノアレンジがかすかに流れる。
そんな中に、俺とナナっちは座ってた。
2、3人掛けの丸テーブルに、いつものように向かい合って。よく冷えた、ペットのお茶を飲みながら。
ナナっちは――優しい顔をした優しい男は、うれしさと申し訳なさをない交ぜにした表情で、また俺に謝ってきた。
「ありがとサクやん、手伝ってくれてほんと助かったよ。
でもごめんな、お前にはお前の、本来のシゴトだってあったのにさ……」
「だーから、これが“本来のシゴト”なの。
いまのサクやんは社長様直属の下僕だぜ。
いますぐ処分を解いてやるから、しっかりナナっちのめんどーみてやってくれ、頼んだぞってのたまわれちゃー、ハイごしゅじんさま喜んでって言うしかなかろ?
だいたいさ、大の親友で恩人なお前が、同じ会社の寮に越してくるんだ。行かなかったらうそだろ、マジさ」
「サクやん……!」
「ま、万一やつが手伝うなとか抜かしてたら、カミサマ権限発動してでも手伝い行く気だったけどな?」
もちろん、半分は冗談だ。
確かに今の俺は、社長直属の特務技官。すなわち業務においては、まず第一にやつの命令が優先される立場にある。
だが同時に俺は、やつにとっての主であり、友でもある存在なのだ。
はるかな昔、俺は『サクレア』という名の神だった。
そしてやつは、俺の信徒の筆頭であり、いつも守ってくれた一の騎士であり、なにかと世話をしてくれた兄貴分でもあり、なんでも話せる大親友だった。
その絆は、生まれ変わった今でも続いてる。
つまり相手の意志を無視した命令なんか、やつにはできず、俺にもできない。
そしてそのことをナナっちもわかっている。
あれからナナっちには、俺たちから事情を説明したから。
『あのこと』だけを、除いては。
「あはは。ほんと仲いいな、メイちゃんとおまえ。
それに、ほんとに優しい。
ううん、お前たちだけじゃない。スノーさんも、ほかのみんなも、ほんとにほんとに優しいよ。
奴に脅されてとはいえ、お前を拉致する手引きをした俺たちを、こんな暖かく迎え入れてくれて。仲間として力まで、授けてくれて。
俺、がんばる。これからは、お前たちのチカラになるよ。
三島奈々緒として。そして、七瀬奈々緒として」
ナナっちが笑い、澄んだ瞳を輝かせる。
それは何度見ても見事な、透きとおるようなブルーグリーン。
生まれ持った暖かいブラウン。河神の末裔・七瀬のあかしの清らかなブルー。どれも綺麗だったけど、やっぱり……
「ってちょっと待て!
いまおまえ『スノー』っていったよな?!
それ、誰から聞いた?」
「えっ?」
そのとき、俺は重大なことに気付いた。
まさか、ばれているのか。
『あのこと』が。
俺とスノーが守ってきた、命がけの秘密が。
Today's Character Data:
ナナっち……七瀬 奈々緒 ななせ ななお
Former Name:七瀬 奈々希 ななせ ななき
Class:朱鳥国建国王、『七瀬の七番目』
Element:水・大地(七瀬由来)+植物・生命(サクレア由来)
Battle Type:万能系
Skill Name:アクアヴィータ、水操作
Belongs to:ユキシロ製薬株式会社CEO直属特務ネゴシエーター(七瀬家担当渉外要員)
Strain:人間・朱鳥人(中原地方旧七瀬本領)
Hair Color:ブラウン
Eye Color:ブルーグリーン
サキの親友。七瀬家出身ゆえ高一までは周囲から避けられていたが、優しく明るく愛らしい。
とある悪党によってサキ拉致作戦に利用されるが、それを契機にユキシロ入りした。
血族の特殊な特徴ゆえ、現当主に次ぐパワーを有する。つまり国内最強クラスの男。
サキを『サクやん』、サクを『メイちゃん』と呼ぶ。女性陣に対してはさん付け。
スノー……スノーフレークス
(※すべて生前のデータである)
Former Name:--
Class:サクレアの半身
Element:植物(種族特性)・生命(種族特性・先天)・伝心(先天取得&後天強化)
Battle Type:?
Skill Name:元気になーれ!、ココロコトバ
Belongs to:ユキシロ製薬株式会社地下隔離ファーム栽培・製薬用ハーブ(最高機密)、スマホ用アプリ『PSE』AIコア
Strain:神樹 (ユキマイ)
Hair Color:人型顕現時は白銀
Eye Color:人型顕現時は緑
古代の植物スノーフレークスの意識体。とある悪党が作ったウイルスアプリと融合して明確な自意識と言葉を得、サキと交信、恋に落ちた。だが、アプリのプログラムにより機密である自らの持ち出しを指示させられ、その罪滅ぼしのために、神樹もろとも焼け滅びることを選んだ。
後を追おうとしたサキに生きる意味=自らの綿毛と『いずれ転生する』という遺言を残した。