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咲也・此花STEPS!! 2~訳ありフリーターだった俺が伝説の砂漠で一国一城の『にゃるじ』になるまで!~  作者: 日向 るきあ
STEP4.花嫁(0歳)を救い出せ! ~未来の王様はヒーローになります!~

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STEP4-4 ~サクの“むちゃぶり”に俺は度肝を抜かれたようです~

『ああいっとくけど~、ナナちんはぜったいだめよ~。ナナちん死んだら俺この一帯焼き払う。人質になんか使っても同様だ。

 異論は認めねえぞ。瑠名るめいも七瀬も皆殺しだ。

 それが嫌なら、俺の下に来い、ナナキ。そうすればやつらも命だけは助けてやる。

 以上だ。』


 相変わらずサングラスをかけたまま、それでもハイな様子でやつはまくし立ててきた。

 しかしそれまでのノリノリトークがうそのように、最後は冷たい、底冷えすらする声音が流れ――きっぱりと、断ち切られるように動画は終わった。


「ナナキって、……そっか、前世の俺、か……」

 またしても、言い訳聞かないほどきっぱりと、名指しされたナナっちは納得していた。

「これで納得行った。実は変な気はしてたんだ、あいつが俺を指名するとかさ。

 だってあいつ、俺のことすっごいバカにしてたんだ。軟弱だ、弱虫だ、甘ったれの役立たずだって。

 前世の俺と、あいつ。一体どんな関係だったんだろう。

 偉名帝国の実質の支配者と、そいつに抜擢された福祉大臣――

 一時は、学友だったともいわれてるけど――」

 ナナっちは“自分がナナキである”ってことくらいしか、まだ記憶が戻っていないらしい。

 まあ、時間の問題かもしれないが、ともあれ現時点、それがわかる者はここにはいないということだ。

 そのときふいに思い出した。

「そういや何回かあいつに連れられて、ナナキに会ったことがあったな俺。

 いつも急用が入ったり、俺が眠くなったりして、ほとんどまともに話せてないけど……」

 こめかみに手を当て、さらに記憶を探る。そのとき、ナナキはどんな顔をしていたっけ。そして“るーちゃん”、猫かぶり状態のアズールは?


『聞こえるか、わたしだ』

 と、サクの声がして俺は目を開けた。

『社用車で近くまで来た。これから門前で説得パフォーマンスを試みる。

 合図したら、そのまま飛び込め』

「らじゃ!」

「はいっ!」

 シャサさん、渡辺さんが陽気に元気に了解。

「いやいやいやいや?!

 サクさん? そのままって、まさか車で?」

『そうだ』

「おい?!」

 いやそれは、まずいを通り越してヤバくないか?!

『大丈夫だ。

 サキ、お前はシャサにつけ。見せ場でだけ前に出す。けして突出するな』

「ちょ……」

『奈々緒はわれらが突入した後に出ていき、七瀬の説得を。

 七瀬は確実にかかってくる。それでも言葉と力と慈愛を尽くし、真正面から勝て。

 七瀬の王としてふさわしい姿を示すのだ。

 陸星ろくせいは側で奈々緒を守れ。お前は王の一の騎士として、誇り高く忠実に、最善を尽くせ』

「わかった!」

「かしこまりました!」

 ナナっち、ロク兄さんは意気込んで返事をした。

 だが、俺は予想外すぎる指示に食って掛かった。

「おいちょっとまて無茶だろそれっ!!

 あの人数の前にナナっちとロクにいさんだけで放り出すってのか?!

 相手はプロ揃いだろ! 相手にイツ兄さんだっているんだ! だいたいナナっちはついこないだ殺されかけて入院」

『“市民軍”と機動隊、バックアップ部隊は奈々緒の側となる。そして誰も、奈々緒を殺せん。

 お前たちはルナの『アクアヴィータ』で完全に回復されている。

 そうでなくとも、この事態でやれないものに国は成せん』

 たしかに、そうかもしれない。

 でも、ナナっちは俺にとっては友達だ。

 普通の暮らししてたころには、人をぶったこともなかったに違いない、優しすぎるほどの。

「……あんだけいる中の誰かがバカやんないって保障はあるのか」

『そのために陸星がいる。

 ユキシロから他の者はつけられん。我らと奈々緒がグルと思われれば、作戦は瓦解する』

「っ……」

 そうなんだけど。そうなんだけど……

 泣き出しそうな恵理子さんの顔が浮かぶ。いまならわかる、彼女の気持ちが。

 俺たちはあんなふうにかっこつけず、もっとこそっと出てくるべきだったかもしれない……

「サクやん」

 そんな、思考と感情の渦から俺を引っ張りあげたのは、ナナっちの声だった。

「俺ならできるよ。信じて。

 さっきはみっともないとこ見せたけど、俺は七瀬の七番目だよ。

 ロクにいも一緒にいる今なら、親父にだって勝てる。

 俺たちには、お前たちの加護もある。負けないよ、絶対に」

 ナナっちの笑顔はそして、穏やかながらも明るく、自信に満ちたものだった。

 さっきやいつぞやの顔とは大違い。おもわず大丈夫と思えてしまう。

『サキ。お前の最も重要な役目は、われらを鼓舞するカリスマ、そして加護を与えるパワーソースとしてあることだ。

 お前とスノーがどちらかでも欠ければ、我々に待つのは破滅のみ。

 お前たちさえ無事ならば、我々はいくらでも立ち上がり、勝てる。

 それを踏まえての最善の手だ。やってくれるな』

 そうだ。サクは俺が知る限り、誰より冷静で賢明だ。

 まあむちゃぶりはたまにとんでもねーが、それでも本当に無理なことを強いたりはしない。

 俺は素直に頭を下げた。

「……わかった。ごめんサク。お前の作戦、信じるよ」

「決まりだな」

 ナナっちが、ロク兄さんが車を降りた。


「いってらっしゃい」

「帰ったらうまいもん食おうな!」

 最後にこぶしをうちあわせ、一旦俺たちは左右に分かれた。



 ナナっちたちを後に残し、俺たちは車を飛ばし、東雲研究所へ。

 やがて、車止めと武装した警官隊による、ものものしい規制線が見えてきた。

 先行していた車はもう止められ、窓を開けて警官たちと会話している。

 やがて俺たちの前にも警官が現れた。

 ほかの警官たち同様、白いヘルメットをかぶり、引きつり気味の顔をした青年だ。

 激しく笛を鳴らして、俺たちの前に両手を広げる。

「タロっち、あたしあたし。しゃちょー来てる?」

 しかしシャサさんがひょこっと車窓から顔をのぞかせると、彼はどっと息をついて手を下ろした。

「シィさん!

 ……いらしてますよとっくに。

 メイ社長からご連絡は受けてます。どうぞ、こちらへ」


 若狭さんというその警官の誘導で、俺たちの乗った車はゆっくりと規制線の前に出ていく。

「これってだいじょうぶなんですか?」

 ぴりぴりしたムードの警官たちの間をとおりつつ、俺はシャサさんにきいてみた。

「ああ、だいじょぶ。うちの警備、警察や機動隊とも民間協力者として連携してるから。

 ……もっともほんとのチカラは出せないけどね」


 あたりまえのようだが、俺たちのような力はこの世界では『異能』。ほとんどの人は持っていないし見たこともない。つまり公式には『ないもの』とされている。


「できるのは、しらんぷりして『奇跡を起こす』ことぐらい。

 でも、そんなのはもう終わりにしたい。

 おとぎの砂漠に、あたしたちの夢の国を作って。

 このことは、そのための足がかりにする。

 ……ぜったいまけない」

「ああ」

 そんな風に話していると、それは始まった。


 両軍の間にしずしずと、真っ白な乗用車が滑り込んできた。

 パールのような輝きを宿す側面には、落ち着いた緑色でユキシロ製薬のマーク――花と若枝で編まれたリースにかぶさるようにして、『Yukishiro Pharmacy』の文字が記されている――がペイントされている。

 白の車はこの朱鳥国ではありふれている。しかしこいつはまるで別物に見える。

 同じようなカラーリング、同じようなフォルムでありながら、各部にさりげなく上質の輝きを宿している。

 実際別物なのだ。戦車砲の一、二発ぶっこまれてもびくともしないとか、もはやそんなの乗用車じゃない。

 一体どうやって車検通したのかと疑問がよぎるが、それは今はおいとこう。

 いまそこから、もっとすごいのが降りてきたから。


 大人の落ち着きを形にしたような、モカブラックの靴。安心感とすがすがしさを兼ね備えた、ブルーグレーのスーツ。

 スーツのボタンの縁取りや、ネクタイピンは陽光を受けて、やわらかな金色に輝く。

 純白のワイシャツに、スーツよりすこし暗い色合いで揃えられたネクタイが清廉な印象。

 金色がかった亜麻色の短髪が風にふわりときらめけば、黒にも近い深緑の瞳は闇を切り抜く。

 いったいどこの王子様だ。いやむしろ王様じゃないか。見守るものたちはみな息をのむ。

 そんな反則レベルのイケメンは、静寂の路面に靴音を響かせひとり、殺気立つ男たちに相対した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鈴森荘にゃんこカフェ ワタクシも黒スーツにエプロンで給仕されたいです~ ほんわか~からの~突き落とし! アズールの外道っぷり……嫌いじゃないです(笑) [一言] しゃちょー、属性カリスマ…
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