STEP4-3 チーム・にゃんツアーと車中のエトセトラ~一応決戦に向けて走っています!~
2020.07.18
M対にメディアたいおーのルビを振りました。
ほか、数か所地の文をまとめたり、順番などを変更しました。
改行ルールを見直しました。
俺を連行してきた社用車にそのまま乗り込み、滑るように発進。
行きはそれどころじゃなくて気づかなかったが、前後にユキシロ警備の車が付いていてくれている。
もちろん鈴森荘もばっちり守ってもらっているし、心強いことこの上ない。
後部座席には俺とナナっち。その間にロク兄さんがはさまる。
運転席には警備員の渡辺さん。特徴は童顔にショートカットの元気っ子系女子だ。
助手席ではシャサさん。無線にむかってどこか陽気にしゃべってる。
「しゃちょー緊急! チームにゃんツアーA班B班はシノケンに突っ込むから!
サクっちナナっちロクっちも一緒。M対どうする?」
『東雲関連ではハマナ工業が今日納品だったはずだが、巻き込まれているか』
「ばっちし。社長さんが帰ってこれてない」
『よし。ハマナはうちも世話になっている。その件を公表し、わたしが抗争の停止を呼びかける』
「らじゃ!」
そこで俺は声を上げた。
「あ、サクいいか。
門の前についたら、俺とナナっちもハデにパフォーマンスして、奴らの『代理』としてとっこもうと思ってる。
そうすれば衝突を遅らせ、にらみ合いを骨抜きにでき、突入もできるだろ。いいか?」
『悪くないが、我々の到着を待て。
パフォーマンスはわたしがするのがベストだ。奈々緒では話がこじれる恐れがあるし、お前が何者かを理解させるには説明が要る。
それに……』
サクの声はここで、すとん、と低くなった。
『あの腐れ外道の始末は、お前たちだけでは手に余ろう。
朱鳥の公僕に委ねるなどもはや生ぬるい。この手で、東雲の闇に消し去ってくれる』
「サ、サクさーん……?」
突如冷気をまとったその声音。もはやどっちが大魔王というレベル。
これは、やるきと書いて殺る気である。
サクは前世、戦士として剣を取っていた。戦場にも何度も出た。だから『その』覚悟は、数千年前にもう固まっている……のだろう。
けれど。
「そ、それはさすがにまずくない? あんなのでも一応、ヒトのカタチしてしゃべる生き物だよ? たぶん人権とかもある存在だよ?」
確かに奴は俺も嫌いだ。
だまされた。殴られた。親友やその家族を脅されて、利用された。
つか、前世にはさんざっぱらこき使われては殺されてるらしいし。
だからといって、暗殺していい、などとはみじんも思えなかった。
「だったら俺たちで捕まえて、俺たちでちゃんと反省させよう。
それができなきゃ、新しい国なんてやってけない。俺はそう思うし、俺の国にはそれができる国であってほしい。
そのために、いま俺は東雲に向かってる。
ダメか? それじゃ」
きっとそれは、青臭い理想だろう。
そのうち俺も、現実の厳しさにくすんでいくのかもしれない。
けれど、今の俺はそうじゃない。言ったことの責任は、きっとこの手でとって見せる。
奴を捕らえて、正面から話をし。いつか反省させてみせる。
サクは沈黙した。
長い、長い。長い沈黙。
その後に来たのは、はあ、というため息。
『ダメか? は余計だぞ、われらの王。
それに甘すぎるな。40点』
「やっぱり……」
『だが、お前はそれがいい。特別ボーナス60点。
俺たちを率いてゆけ、わが主。お前の理想、自由の大地へ。
命令しろ。俺たちにベストを尽くせと」
俺の返事は? もちろん、すでに決まってる。
「それはいやだ。
『頼む』、サク、みんな。
東雲研究所にいる全員に、幸せな未来を、すくなくともその可能性を約束したい。
力を貸してくれ、俺の仲間として!」
『もちろんだ、サキ。
1000点超えて判定不能。我ら全員、全力で行くぞ!』
笑みを含んだサクの声は、即座にYESをかえしてくれた。
サクは近くまできたら連絡する、それから動き出せといいおいて通話を切った。
まもなく、複数の動画サイトでサク――『メイ社長』の説得動画が配信された。
アズールに一歩も劣らぬバリバリのイケメン、しかも新進気鋭の世界的有名企業CEOが、いち関連企業の社員(社長ということはあえて伏せた)を気遣い、自ら争いをやめてくれ、研究所内にいる、一般の人たちだけでも家に帰らせてやってくれとじきじきに訴えかける。
そんな胸熱動画は秒速でバズった。
東雲ライブカメラをみると、動きは研究所の門前でも起きたようだ。
後方でメディアチェックをしていた情報係と思しき者たちが、全力でもうやめようと叫びだしたのだ。
まるで、逆に何かお薬でも飲んでしまわれたのかという勢いで、愛と平和を唱えてる。
「ど……どうなってんのこれ?
サクってもしかして、ファミリーな方々的にどストライクとか……?」
ちなみにロク兄さんは俺の隣で頬を染めてため息ついてる。
シャサさんはけろりと言った。
「あ、サクっちまだ知らなかったんだ。
しゃちょーの属性『カリスマ』なんだ。
それも、人間や動物だけじゃない。植物、機械、物体。
はては物理法則、因果律さえ魅了する。
基本的に生き物には使わないんだけど、場合が場合だからね。
あ、ちなみにサクっちには使えないんだって。サクっちはしゃちょーのパワーソースだから、下手なことはできないっぽいよ、どうにもならない場合を除いて」
「はあ……」
画面の中で、両軍のリーダーと思しき男たち(七瀬はイツ兄さん。“市民グループ”側はホスト風白スーツのチャラ男だ。こいつは服装の選択を、というか人選をミスっている気がする)が、叫んでいる男たちを一発殴った。
そして、見るな、精神攻撃だ、と一喝。
ハッ! とわれに返った様子で、仕事に戻る彼らだが、やっぱりまだちょっと頬が赤い。
「サクの未来が心配になってきた……いろんな意味で……」
「そのてーど何とかできなきゃ、社長になんてなれないよ?」
「いやいやいやいや?!
社長って確かに大変だけど、これは明らかにちがうとおもうよ?!」
「サクっちは王様になるんだし、もっとたくさんのひとからああしてため息つかれるんだよ。
前のときもそうだった。でもきみは、ぜーんぜん気付かずニコニコしてて……」
シャサさんの微笑みに、ほろ苦い色がふり落ちた。
どきり、とした。
今になればわかる。あの頃から俺は、シャサさんの気持ちにてんで気付いてなかった。
ただただ、たよれる優しいお姉さんとしてしか、見ていなかった。
そして……
「でも、王様はそのくらいでいいんだよ。
いちいちみんなの愛に真正面からこたえていたら、体がいくつあったって足りないからね。
そこんとこはわかっといてよ、サクっち?」
「え、ええと、はい……善処します……」
昔から、みんなは優しくしてくれた。
それは、みんなが俺のことを好きだから。そう言われたし、そう思ってた。
大好きなみんなが、俺を好きでいてくれることはとてもうれしくて、俺の誇りでもあった。
でも、俺はその『好き』を、ちゃんとわかっていなかった。
シャサさんの『好き』も。ルナさんの『好き』も。
そしてあいつ、アズールの“好き”も。
俺は、それを繰り返さないでいられるだろうか。
今度こそ偽りに負けず、無情に誰かを泣かせることなく――みんなで笑って、幸せになれるだろうか。
「やれるよ、サクやん。
メイちゃんだって、俺たちだってついてる。
きっとみんなで、幸せになれる」
気付けば、ナナっちが優しく微笑んでいた。
「そうだな、きっと」
いまならいける。そんな気がした。
車ももう、現場から徒歩数分ほどの路肩に止まってる。
でも、サクを待つという約束なのだ。しばらくは待たねばならない。
「あ、そうだ。あの動画、ほんとは続編あったんだろ?
いま見ておこうよ。少しでも情報がほしい」
「おう!」
ロク兄さんのひざをひきつづき借り、俺たちはそれを見た。
画面の中の場所は、先ほどのものと同じよう。
奴は先ほどとまったく同じ格好で立ち、同じように話をはじめた。
『おっ、ちゃーんと続き見っけたんだね~。感心感心!
それじゃあごほーびに教えてあげよーう!
『画像ライブ中継してる』。このイミわかる、オニイサンたち?
ぶっちゃけ人権どーこーカンケーなしに、罪なき市民、罪なき研究所、罪なき赤ん坊をこんだけどーどーアレしたら、今度こそ暴対指定待ったなしってことなんだなあ!
今度こそ、社会に居場所もなくなって……あー、そっちはもとからかゴッメーン☆
おっとと、もしかして一番目から六番目、どれかの息子ちゃんが犠牲になってお父さんと妹ちゃんを守ってくれるのかなァ? それもアリっちゃアリだねえ!
そんときゃぜひとも俺のもとにカモン! せーぜー優しく死なせてあげましょー!!』
ここで奴は両手を広げ、あっはっはーと笑った。
「こっの野郎……」
だがそれに続く言葉に、車内は凍りついた。




