STEP4-2 ~未来の王様はヒーローになります!~
2020.07.28
一部表現、改行など修正いたしました。
「ダメだナナっち!」
俺は必死でナナっちを抱きとめた。
もしここで、始まってしまえばどうなるか。
市民グループの多くが七瀬に殺傷される。
七瀬は警官隊ともみ合いつつも、研究所内に突入。
しかしそこでアズールらに討たれ、スノーが誕生し、親父さんが天に召される。
後を八方丸くおさめることができるのは、七瀬の七番目として生を受けた、そして現七瀬と距離を置いていたナナっちだけ。
それまでの七瀬は滅び、あたらしい七瀬を再興する事が容易にできるようになる――いや、なってしまう。
それはナナっちにとって、絶望のシナリオでしかない。
そんな血塗られた玉座につく位なら、アズールのもとに下り、全てを収めてしまったほうがマシだ。
だって、奴が呼びかけてきたのはこの俺だ。奴の目的は俺だから、そうすればきっと……
そう考えていることは、痛いほどわかった。
俺は震えるナナっちを、必死に抱きしめて繰り返した。
「これはあいつの罠だ。絶対そうだ。あいつのイケニエにナナっちがなっても、あいつが皆を助けてくれると決まったわけじゃない!
諦めるな。まだ諦めるな。俺がなんとかする。何とかしてやるから……!!」
情けない。一瞬でも思わせてしまった。自分が犠牲になろう、って。
俺は、王様になるのに。ナナっちのことも、俺が守らなきゃいけないのに!
スノー、親父さん、町の人たち、七瀬、そしてナナっち。
全員助けるためには、誰も見捨てないためには、俺は一体どうしたらいい?
どうしたらいい。どうしたら!!
わらをもつかむ思いでテレビの画面に目をやった、そのとき不意に違和感にとらわれた。
名状しがたい感覚に顔をしかめれば、ロク兄さんが冷静な様子で話し出した。
「咲也さんもお気づきになったようですね。
そのとおりです。あの市民グループは“偽者”です。
一般市民を装っていますが、あれはアズールの配下です」
「えっ、どういうことですかそれ?」
俺と浜名さん、ナナっちは驚いてロク兄さんを見た。
「七瀬は特にこういう動きには敏感です。敵対勢力に不意打ちを食らうことのないよう、リアルにネット上に、いつも網を張っています。
それなのに、『偶然に動画を見たあと』『お互いに声を掛け合って集まった』だろう一般の方々が、『先に現場に集結』して、これだけしっかりとした『バリケードを張り終えている』。
そんなことは絶対にありえません。そうならないように、常に体制を整えているのが七瀬なのです」
言われてみればそのとおりだ。
ほかの何もかもを犠牲に家族を守ろうとする『プロ』が、そうカンタンにアマチュアに出し抜かれるわけがない!
ごめん、ナナっち。俺が馬鹿だった。
さいしょから、ロク兄さんに話を聞けばよかった。自分だけで判断するのが無理ならばそう、助けを求めればよかったのだ。
ごめんの気持ちでもう一度、ぎゅっと抱きしめれば、ナナっちの震えは小さくなった。
そしてナナっちは、ありがとう、おちついたよと微笑んで、俺の腕から抜け出した。
ロク兄さんは優しい目でそんな俺たちを見、言葉を継いだ。
「さらにあの方々は、目の色が全員『同じ黒』です。
いくら朱鳥人は黒髪黒い目が基本とはいえ、あの人数の一般市民の両目が、全員色合いまで同じということはありえません。つまり、……
敵味方を識別しやすくするために、一括支給されたカラーコンタクトレンズを着用しているのです。
ということは、背後にそれを成しうる誰かがいる。順当に見てそれはアズールということになります」
「ってことはつまり、研究所内部もあらかじめ、『あいつらの同僚に』制圧されたって……
浜名さんが帰れなくなったのは、そのせいだってことなんだな?!」
「そんな……おとうさん……!」
ロク兄さんが申し訳なさそうに肯定すれば、血の気のうせた顔で呟く浜名さん。
その肩を、お玉さんが抱く。
「あっ!!」
そのとき、ナナっちが声を上げた。
ひとさし指で示しているのは、ちょうどアップになった黒スーツ。
七瀬の先頭に仁王立ちし、すさまじい気迫をほとばしらせる、ロク兄さんをちょっとだけ年上にした感じの男性。
けれど、そのひとの顔もまた真っ青だった。
いまここで震えている、浜名さんと同じくらいに。
ナナっちは声を震わせた。
「イツにい……イツにいだ。
だめだ。イツにいにこんなのやらせちゃ。
そんなことしたら、二度とももかちゃんに会えなくなる!」
ももかちゃんは、イツ兄さんの幼い娘さんだ。
だがもちろん、そんな説明は要らなかった。
浜名さんは、切なそうに畳に握りこぶしを叩き付けていたからだ。
なんてことだ。なんてことだ。猛然と、腹が立ってきた。
こんな企みとは何のかかわりのない、心優しい父親が、娘さんの下に帰れなくなって。
幼い女の子の父親が、その子との絆を犠牲にする覚悟をしてまで、もっと小さな女の子を殺しに行かねばならなくなって。
そしてそれを、父親をとらわれた被害者の女性が哀れみ、さらに心を痛め。
そんな酷い状況を作り出した外道は、ひとり安全地帯で、整った顔をゆがめて嗤ってる。
こんなこと、絶対に――
「ゆるせねえ」
俺たちはうなずきあう。
「ぶっ潰す、このふざけた状況を!!」
俺たちは同時に同じことをひらめいていた。
「とにかくあすこでハデにパフォーマンスかまして、所内に鮮やかに飛び込むっ!
そうすりゃあんなにらみ合い形無しだ。浜名さんを助け出すこともできる!」
「そしてアズールを倒せば、スノーさんの誕生のタイミングを調整して、おやじも助けることができる!」
「もしもドンパチはじまったところで、あの住民グループがにせものだと明かせば、七瀬だけが悪者にされることもなくなる! 警官隊や機動隊だって堂々止めに入れる!」
俺たちはふたり一緒に立ち上がる。
いや、立ち上がろうとした。
「むちゃよ!」
そのときぐいっと、シャツの袖が引っ張られた。浜名さんだった。
その顔は真っ青で、手も指も震えていた。それでも彼女は言ってくれる。
「あの人……とにかく怖い人なんでしょう?
手下の人も、所内にいるって……
……気持ちはうれしい。でも無茶するのはやめて。
きみたちまで捕まったりしたらどうするの。きっとひどい目にあうわ。お父さんもそんなこと、ぜったいに望まない……!!」
俺は、浜名さんの前にひざをついた。
視線を合わせて、微笑みかける。
とらわれの父の身を案じ、瞳に涙をにじませながら。
それでも、年下を気遣う優しいヒロイン。
これを助けない勇者なんか、いるだろうか?
いや、むしろいっぱいいるかもしれないが、そんな主人公願い下げだ。
だって、俺たちは。
「だいじょぶです。俺たちを信じて。
俺たちは伝説の英雄の、生まれ変わりなんですから!」
かたや、この朱鳥の建国王。
かたや、伝説の武神にして豊穣神。
それが逃げたらこの名が廃る。
まして、あたらしい国を率いる男。みんなを幸せにする男になんか、なれるわけがない!
俺は浜名さんのつややかな髪に、そっと手を置いた。まあぶっちゃけ、サクの真似なのだが。
そしてちょっとだけ、癒しのチカラを流し込む。
ふんわりと暖かく通じた『気』の流れが、浜名さんの気持ちを落ち着かせるのがわかる。
「大丈夫だよ恵理子。お父さんはきっと生きてる。気を強くお持ち。
かならず、この子達が助けてくれる」
そこへお玉さんが力強く言ってくれれば、浜名さん、あらため恵理子さんはすとん、と腰を下ろす。
「……無理は、しないでね。
約束、よ……?」
そして精一杯の笑顔で差し出してきたのは、白くて細い小指だった。
俺とナナっちが、順に小指をからめてほどけば、恵理子さんは涙を目じりに残しつつ、にっこりと笑ってくれた。
その肩をしっかり支えて、お玉さんも言ってくれる。
「いっておいで。この子はあたしらが守っておくよ」
「ありがとうございます!」
俺たちはお玉さんに頭を下げると、ふたたびしゃきっと背筋を伸ばす。
「シャサさん!」
「待ってましたぁ!」
廊下に向かって呼びかければ、どばーんとドアを開けて現れるシャサさんたち。なぜかすでに警備の制服姿(=現時点最強装備)。
「ロクにい!」
「ああ!」
ナナっちの隣には、いつもの黒スーツでビシッと決めた(=さりげなくエプロンをはずした)ロク兄さん。
「いこう、東雲研究所に!
俺たち――チーム・ユキシロは、総力を挙げ、アズールの陰謀をぶっ潰すっ!!」




