STEP3-4 ~スランプ一歩手前のぷれ王様はにゃんにゃんツアー(※お子様にもお楽しみいただける健全な内容です!)に強制連行されるようです~(下)
2020.06.17
改行ルールなど少し修正いたしました。
「そ、そんな! いいですってそんな!!
だって、大家さんとけんかしたのは、俺がアパートの規則やぶってミーコをかくして飼おうとしたからで……
それは自分と同じ気がしてほっとけなかったからってのあるけど、ちゃんと冷静に、里親見つけるまで、って話をすればよかっただけの話でっ。
なのにタンカまできって飛び出したのは、俺がほんと、アホだったからで……」
言ってて恥ずかしくなってきた。本当に本当に馬鹿だ俺。
それにくらべてこの人たちは、なんて優しいんだろう。
「大家さんともお玉さんのおかげで和解してますから!
不採用だってそれミスマッチからじゃないですか。すぐ帰したのも、医者行けって言ったのも心配してくれたから。そんな浜名さんたちが悪いわけなんかないんだ。
大丈夫ですって。もっとほら、どんとしてていいんですって!」
ミスマッチで不採用になっただけのフリーターの行く末をこんなにも心配してたら、この人たちのココロは大丈夫なんだろうか……そんな気持ちさえしてしまう。
正直、今日の今日まで、あのときのことはいつもココロにひっかかってた。正直に言えば、けっこうトラウマになっていた。
でもこの話を聞いたら、そんなもんほんとうにちっぽけに思えてしまう。
俺は彼女にひざを寄せ、必死に慰めようとしていた。
「だいじょぶですよ。俺その後こいつ、俺の親友で三島っていうんですけど、こいつのおかげであたらしいバイト見つかったし。そのあと故郷に帰ったら、幼馴染が自分の会社にって引っ張ってくれたし!
ミーコやお玉さんと会えたのも、その日があったおかげですから。
それに、ハマナ工業でのバイトは、みんな優しくて、楽しかったし。
だからもう、俺のこと、申し訳なかったって思わないでください!」
「此花君……!!」
そのとき、ふわり。やわらかさとシャンプーのかおりが、俺を包んだ。
さすがにわかった。浜名さんが、俺に抱きついてきたのだと。
きれいなおねえさんからの、ふわふわのハグ。健全な男子たるもの、うれしくないわけなんかない。
だがしかし、俺にはすでにこころのひとが!
あわあわと手がさまよっちゃう俺を、その場の全員がニヤニヤとからかう。
「あー。俺なーんかおじゃまみたいだし、部屋戻ってよーかなーっと」
「どっこいしょ、そういえば回覧板回しに行かなきゃならなかったねえ」
「ニャ。」
「ニャ。」
「あっっ、あのっ、浜名さん浜名さん?」
「……あっ」
なんとか、必死に名前を呼べば、われに帰った浜名さんはぱっと俺から離れ、真っ赤な顔でうつむいてしまう。
「ご、ごめんね此花君、わたしその、えっ、と、……そ、それじゃわたし、そろそろお父さんかえってくるから……っ!」
そうしてやってきたのは、知的で綺麗な年上女子が真っ赤になって、蚊の鳴くような声で言い訳をこころみるという、まるで漫画かラノベのような神シーン。
そのはかいりょくはいわずもがな。俺はもうすでにあばばばばで……
気がつけば笑顔の浜名さんが、何度も頭を下げて帰っていくところ。
ちょうどその時、ズボンのポケットが振動した。
出発前にねじこんでおいた、俺のスマホだ。引っ張り出して画面を見る、と!
『メール着信 ふ~ん。サキってやっぱりおっきいおねえさんがすきなんだー:S.F』
『メール着信 へ~。ほ~。ふ~ん:S.F』
「ああああスノーっ?! はなっ、はなっ、話し合おう――!!」
俺はスマホを前に平身低頭、必死にスノーのご機嫌を取った。
ようやくお許しがいただけたのは、それから十数分後。
『メール着信 そこまでいうなら、信じてあげる。:S.F』
『メール着信 ほんとにサキは、しょうがないんだから!:S.F』
「はあああ~……たすかった~……」
縁側でぐでーっと突っ伏した俺の上に、くすくすと声がふってきた。
顔を上げれば、俺のそばに胡坐をかいて、ナナっちがニコニコ笑ってた。
「やっぱ、サクやんはサクやんだな。
ほんっと、見ててほのぼのするよ」
「おーいナナっち~。ほのぼのしたなら助けろよー。俺さっきからもうずうっと必死で」
「やーだよ。そんな野暮なことできますかって。
夫婦喧嘩は犬も食わないってね☆」
「なっ?!」
『メール着信 ちょっ奈々緒! ふ、ふ、ふーふだなんて、*&%$☆※!!:S.F』
「にゃあああ?! スノーがこわれたあ?!
しっかり、しっかりしてスノー!! リバイブいる?! リコンストラクションかけようか?!」
『メール着信 い、い、いらないわよそんなの!! リバイブなんかはなぢでちゃうしっ!!:S.F』
「スノーのキャラがこわれたあああ!! こ、こ、ここはやっぱり」
『メール着信 リコンストラクションなんてもっと却下なんだからーっ!!:S.F』
『メール着信 ……だって、うれしいんだもん:S.F』
『メール着信 まだサキにハグもしてあげられないわたしと、夫婦、ていわれて本気で照れてくれて……:S.F』
「スノー……」
『メール着信 おねがい、わたしをみつけて:S.F』
『メール着信 わたし、いいおよめさんになるから:S.F』
『メール着信 いまはまだ、ちいさいけれど……まだ、目も耳も手もまんぞくに使えないけれど:S.F』
『メール着信 サキがよろこぶなら、がんばっておっきくなるから!:S.F』
『メール着信 おっきくて、きれいで、かわいくて……とにかくサキがうっとりしちゃうような、すてきな女の子に!:S.F』
「スノー……!!」
たしかにスノーはもともと植物の意識体。つまり、その姿は人ですらない。
それでも俺は、愛しいと思ったのだ。
あの夜の――メールの件名部分だけを使って語る、たどたどしい言葉から伝わってきた、優しさとひたむきさを。
いまは言葉もずいぶんと流暢になったものだが、それは少しも変わっていない。
ときにやきもちを焼いたりもするけど、そんなところもかわいらしくて。
たいせつだ、と思った。
その気持ちは、強まることはあっても、けして弱まることはない。
彼女が俺の半身である、そんなこととは関係なしに。
気付けば言っていた。
「姿なんかかまわないよ。お前はそのまんまで充分かわいいって。
だって俺が惚れたのは、ちいさな花の姿のお前じゃないか」
『メール着信 でもわたしもサキとぎゅーしたい。それでサキに、はわわわわってしてもらいたいの……:S.F』
「スノー……」
『メール着信 え、えっとっ。いっぱいしゃべったら眠くなっちゃった。そろそろ水換えの時間だし、しばらく寝るねっ:S.F』
『メール着信 ありがと、サキ。だいすき:S.F』
思わずスマホを胸に抱けば、ほのぼのとした笑い声。
ナナっちは幸せそうな、やさしい笑顔で俺を見ていた。
「ふふふっ。どーもふたたびごちそーさまっ。
……あーあ、なにやってたんだろうな俺。
サクやんは俺の恩人で親友で、いちばんの元気の源で。
そんなサクやんを突き放そうとするとか、ほんっと馬鹿だ俺」
ということは。ということは!
「七瀬に一緒に来てもらうのは、さすがにまだ待ってほしいけど……
それでも、近いうち同席してほしい。
だって、ユキシロはお前あってのユキシロだろ?
そのユキシロが援助をするって言うのに、メイちゃんだけしか連れてこないとか、誠意を疑われても仕方ない。
改めてお願いするよ。俺に力を貸してください。
俺もサクやんのチカラに、せいいっぱいなるから」
答えは、いわずもがな。
いつのまにかいつもどおりに、いやそれ以上になってた俺たちは――
鈴森荘の縁側で、かたくかたく、握手した。
* * * * *
事件が起きたのは、それから一時間も経たないころだった。
せっかくだから鈴森荘で一泊することにした俺たちが、もと俺の部屋でしゃべり、茶を飲み、猫たちをかまってくつろいでいたときだった。
「そろそろ風冷たいな。窓閉めるぞ?」
「うん」
日もだいぶ傾き、風も冷たくなってきた。
開けていた窓を閉めるため、俺は立ち上がった。
そのとき見えたのは、鈴森荘の前の道を、おろおろと歩く浜名さん。
スマホを手にしたままで、顔色も悪い。
ほっておけるわけもない。すぐに声をかけ(またお玉さんの部屋だが)招き入れれば……
「父と連絡が取れないの。
東雲研究所に、いつもどおり三時十分の約束で納品に行って……
今日は早めに出たから、もうとっくに終わって連絡が来ていいはずなのに……
会社に連絡はないし、会社からかけてみてもずっと留守電で。
東雲研究所のほうにかけてみても、留守電ばかりで、誰も出なくて……」
いまは四時すぎ。俺たちは顔を見合わせた。
そのとき。
『緊急速報です。ついさきほど○○市にある国立東雲研究所が、謎の男たちにより占拠されました。
犯人グループのリーダーと思しき男は、動画サイトを利用して犯行声明を発表しています』
ラジオから流れてきたキャスターの声に、一気に緊張が高まった。
お玉さんが目にも留まらぬ早業でテレビをつける。
でかでかと映し出されたのはあの、見覚えのありすぎるグラサンウルフカット。
ざらざらした画質のその静止画は、スマホの画面をさらに写したものらしい。
背景は薄暗く、屋内のような感じだが、いかんせん画質が悪くてわからない。
『その中で男は、七瀬家の関係者に対して挑発的な発言を繰り返しており、……』
しかしそれはいつまでたっても静止画で、キャスターが総まとめ的なコメントを発するだけ。
やはり(あいつはとにかく話しぶりが下品なのだ)、動画は放送されないようだ。
アクセスできるか心配だったが、某有名動画サイトにアクセスしてみた。
いつもよりやや重いが、無事それらしき動画本体にアクセス成功。
表示された紅白の再生ボタンをタップすれば、薄暗い室内に立つ奴が見えた。
服装はこないだとよく似た、黒と銀のパンクファッションに濃い色のサングラス。
奴はにやりと笑みを広げると――やおら顔の両脇で手をフリフリしてきた。
『はァァ~いナナちんみてるー?
ほらぁ俺俺ー。あなたの愛しいアズたんでーす!!』」
「「はあぁっ?!」」




