STEP3-3 ~スランプ一歩手前のぷれ王様はにゃんにゃんツアー(※お子様にもお楽しみいただける健全な内容です!)に強制連行されるようです~(中)
2020.06.15
改行をいれ、少し地の文を足しました。
もちろん、ナナっちと俺は口々に抗議した。
「ま、まってシャサさん、おれ七瀬とのっ」
「このままじゃダメだってことは感じてるでしょ?
そろそろ一度休んで、いいアイデアを探したほうが断然いいよ、ナナっち?」
「う……」
「っていうかシャサさん、俺たちがここにいたら鈴森荘とそのまわりが」
「だいじょーぶだよサクっち、警備にはあたしを筆頭とした社内社外の協力者による3000人体制を組んであるから! いやほんとは30人体制だけど実質はそんな感じだから!」
俺は息を呑んだ。
だってその数は、ユキシロに在籍する警備員・警備補助員の総数にほぼ等しい。
社外協力員をさしひいても、主力はユキシロ社員のはず。ということは……
気づいた俺は、悲鳴に近い声を上げていた。
「本社っ!!
そんなに警備こっちにまわしたら本社は!! 本社ヤバくないっすかマジに!!」
しかしシャサさんは上機嫌。
「それもだいじょ~ぶ。
きみたちはわがユキシロのもすとぶぁりあぶるぴーぽー、略してMVIP!
今狙われるとしたら確定的に君たちだからさっ。
七瀬を抜けてきた若に、未来の王様。そしてどっちもすっごくかわいい、カッコ重要カッコ閉じるっ!!
このあたし、ユキシロ製薬警備セクションのチーフをつとめるシャサ・スズモリが、つきっきりでガードしちゃうに値するソンザイなんだからねっ!
そこんところはもーまんたい。気にせず甘えていいんだよ☆」
俺は遠い目になった。
「……いまなんかおかしな一文が聞こえたよーな」
そう、たとえば俺がすっごくかわいいとかな。
「……やめとけサクやん、確定的に不毛な予感しかしないから」
ナナっちもなんか遠い目だ。
しかしシャサさんは満足そうにうんうんうなずく。
「うんうん、早速効果アリだねっ!
というわけで鈴森荘にゃんにゃんツアーごあーんなーい!
グランマ、それじゃしばらくよろしくね! ほら、ふたりもよろしくして!」
そのとき俺はようやく、驚くべきことに気付いた。
「っていうか、『グランマ』? って、おばあちゃん? えっ?」
俺はシャサさんとお玉さん、ふたりの女性を見比べていた。
そういわれれば、似ている。こうして見比べると、今まで気付かなかったのがちょっと不思議なくらいに。
お玉さんはちょっと不思議そうに目をまたたいた。
「おや、気付いてなかったのかい。シャサはあたしの孫だよ。
苗字だって同じだろ?」
「い、いや……
『シャサ・スズモリ』って、バリバリ帰国子女っぽかったんで、てっきり関係、ないのかと」
俺がそう言うとシャサさんが、笑いながら種明かしをしてくれた。
「あー。それはほら、しゃちょーとおなじ。
しゃちょーも子供の頃は『岩永朔夜』だったでしょ?
あたしは向こうで生まれたし、向こうのが長かったからね。こっちでもそのまんまにしてるの。
しゃちょーがあのままなのはおもにブラフのためね。ほら、朱鳥人って外国人に弱いから」
「ああ……」
朱鳥人は外国人に弱い。とくに欧羅とかの金髪系にはめっぽうだ。
サクも金ではないが、金色がかった亜麻色の髪に、あの顔立ちとタッパ。それで横文字使って名乗られれば、たいていの朱鳥人は一発だろう。
っていうかな。奴が最初から『岩永朔夜』だって名乗ってくれれば、俺はもうちょっと早くサクだと気付けたのに。今思うとあの頃のやり取りは、正直間抜けすぎて情けなくなる。
サクは今のところそれでいじったりはしてこないのだが……いや、忘れよう、それがいい。
「まーどーせそのうちやられんだろーけどさ……」
思わず遠い遠い目でつぶやいてしまった俺に、ミーコからのねこぱんちがとんだ。
* * * * *
さすがに、お玉さんの部屋に野郎が何人も寝泊りするわけにはいかない。それは主に物理的な理由から。
そんなわけで、俺たちは二階のもと・俺の部屋へと移動した。
俺たち……すなわち、俺とナナっちとミーコたちが。
夕ご飯まではゆっくりしてなと申し渡され、俺たちはなんとなくきまずくちゃぶ台を囲んだ。
「………………」
「………………」
うう、ちょっと前までなら、二人一緒に卓を囲めばたちまち愉快にしゃべれてたのに。
意味もなく茶を飲み、部屋を出入りする猫たちをかまいつつ、俺たちは沈黙した。
というか、ナナっちは俺と視線を合わせるのも避けているかんじ。
これは……くつろげない。ぜんっぜんくつろげない。
「え、えっと……窓、開けるな?」
耐えかねて立ち上がると、窓を開けた。
ふわり、秋風がここちよく吹き込んできた。
空は青く、日差しも程よくあたたかで……
「あっ、此花君! 此花君でしょ?!」
そのとき、ずっと下のほうから呼びかけられた。
見下ろせば、鈴森荘の前の道に彼女がいた。
ふちなし眼鏡に知的な黒瞳。秋風にさらりと肩を掃いた、つやめく黒髪。
グレーのツーピース、黒のショルダーバッグでさりげなくシックに装いつつも、足元は歩きやすいスニーカー。
「は、浜名……さん……?」
かすかな痛みとともに思い出す。名前は、そう、浜名恵理子さん。
あの頃ほのかに憧れた、けれどもう、二度と会うことはないと思っていた、あのひとがじっと、俺を見ていた。
* * * * *
かくして、俺たちはまたしてもお玉さんの部屋へと舞い戻ることとなった。
俺としては、正直気まずいのだが……
やんわりと立ち入りをお断りしようとする私服警備員さんに、五分、いや三分でいいので此花君とお話をさせてください、とても大切なことなんです! と何度も頭を下げて食い下がる様子を見てしまって、どうして追い返すことができようか。
内階段を下りつつ、ナナっちがひそひそ問いかけてくる。
「なあ、あの綺麗な人何者だよ。まさかサクやん」
「ちげーよ! 単なる先輩だって!
……前の、バイト先の……」
正確には、最初のバイト先。
ハマナ工業という名の、ちいさな町工場。
なんでも、なんとかという技術では世界トップレベルであり、そう遠くないところにあるなんたらという国立研究所とかに、精密機器やそのパーツなどを納品しているらしい。
もっとも、加工技術なんかないバイト組が任されるのは、梱包の補助や倉庫整理などの単純作業ぐらい。
そのためか、俺は大きな失敗もなく、試用期間を終えられそうだった。
そろそろおなかまわりを気にし始めた、福福しいお顔の朗らかな社長。事務を担当する知的で優しい娘さん(=彼女だ)。
その他の社員の人たちもみんな温かく、そこでの仕事は楽しいものだった。
けれど、最終日のこと。
突如命じられたのは、前庭の草むしり。
やらなければ、思ったが、体が動かない。
脂汗をかきながらなんとか、アレルギーがあるのでと言い訳を口走った俺は……
だが彼女、浜名さんが語った真相は、意外なものだった。
「うちのしごとってどうしても粉塵出るし、倉庫作業でもほこりまみれになるでしょ。
だからアレルギーのあるあなたに、これ以上無理をさせてはいけないと思って、お断りをしたのだけれど……
あのときの此花君、ものすごく顔色悪かったから、お医者さんにいきなさいってすぐに帰ってもらったのだけれど。
よく考えたらあれでは、追い出したみたいで悪かったかもしれないって。
父はあれから、ずっとずっと言ってたの」
「え……」
「それから姿が見えなくなって、もしかして故郷に帰ったのかなとは思ったのだけれど、それでもやっぱり心配で。……
だからこの間のニュースでびっくりしたわ。此花君が一時意識不明の重態だったって。
でもそれで、この町にまだ住んでるってわかったから、できる限りで探して歩いていたの。何とかもう一度、話をしたくて」
「浜名さん……」
浜名さんは、さめていくお茶を前に、とつとつとそう語った。
「ごめんなさい此花君。ご近所の方から、お話聞いたわ。
うちを不採用になって追い詰められた気持ちになって、大家さんとけんかして……拾った子猫ちゃんを抱いて、夜の町をさまよってたんだって。
それでこちらに……鈴森さんに転居したんだって……
ほんとうにごめんなさい。わたしたちの無配慮から、ほんとうに……つらい、悲しい思いをさせてしまって。
改めて、父も一緒にお詫びをさせて。お願いします。このとおり」
涙声で彼女は、深く俺に頭を下げた。




