セトの場合①
ギルドには軽く走って10分ほどで着いた。
新しく家を借りるときには学院とギルド両方に近い場所を選んだため、どちらもそれなりに近い距離にある。
王都の外れにある古びた建物。勢いよく扉を開ければ飛び込むのは喧騒と酒の臭い、ついでに強面のおっさんどもだ。初めてここに来れば怯んでしまうこともあるだろう。
まぁここにいるのは大抵が顔馴染みだから今となってはどうということもないが。
「おいおい、セトじゃねぇか。入学早々退学にでもなったか?」
「1人ってことは遂にあの嬢ちゃん達にもフラれたか」
「人生長いんだ。そんなに落ち込むことはねぇぞ」
ガハハと笑いながら俺をからかってくるのは、この冒険者ギルドで最高ランクパーティー『黒狼』のおっさん連中だ。S~Gまであるランクの最高位、Sランクに半年前に遂に昇格を果たしている。
「失礼な。午後は自由参加なんだよ」
おっさん連中にからかわれるのはいつものことなので軽くあしらうと受注できるクエストが載っている掲示板を眺める。Cランククエスト『ワイルドベア』の討伐を受付で受注すると、外へ出る。
ワイルドベアは巨大な熊型の魔物で低位ながら魔法も使うので近隣の村などに現れればそれなりに大きな被害になる。と言っても年に1,2件あるかないかくらいなのでこのクエストが出ているのは割と珍しいということになる。
目撃情報がある王都の郊外の森の方へ駆け足で向かう。森が見えたら迷わず獣道を進んで中に入る。中はどんどん薄暗くなっていくがこの森に入るのももう慣れたものなので特に怖いということもない。
「あぁ、そういえばルナと出会ったのもこんな日だったっけ」
そこで脳裏に浮かんだのはあの日の記憶だった。
俺の両親はもうこの世にいない。父親は騎士として国を守り、母親は魔術師として魔道具作りを生業としていた。俺はそんな両親のことを心から尊敬していたし、大好きだった。
小さな頃から両親に憧れていた俺は父の訓練用の剣を振り回したり、母の杖で詠唱を真似てみたりしていた。当然魔法なんて発動しなかったが。
そんな俺を見て最初の内は微笑ましく思ったりなだめたりしていた両親だったがずっとそんな調子だったためか8歳になった頃、父が剣を母が魔法を教えてくれるようになった。
俺はそれが嬉しくて言われた通りのことを必死にやった。
父親はいつも「俺は剣の才能がなかった。だから努力するしかなかったんだ」と言っていた。平民であり、貧しい家庭に生まれた父は努力だけで騎士になったと語っていた。
そんな父の話を聞いて子ども心にかっこいいと憧れていた俺だったが、後々そんな父も平民出身であるため騎士団内部でやっかみの対象にされたりもしていたことを知った。
しかし、父はそんな話をすることもなく「騎士団は倒すために戦うのではなく守るために戦う意志を持つ立派な人たちが集まるんだ。セトも将来はそんな男になるんだぞ」と言って頭を撫でてくれていた。
その振る舞いがどれだけ偉大だったか今になってわかる。
剣の鍛錬をし始めて半年ほどで俺の剣術もめきめきと上達してきた。それを見て父は「お前には俺と違って才能がある。きっと立派な剣士になれるぞ」と言って褒めてくれたため余計に頑張った。
実際、俺の剣の才は上の下くらいはあると思う。
父がそんな話をするようになった頃、同時並行で母から習っていた魔法もかなり上達していた。俺は聖と闇属性以外の適性を持っており、その中でも光と風にはかなり高い適性があったため、母もとても喜んでくれた。
属性の適性は生まれつき決まるため血統もかなり関係するが最終的には運である。
基本属性全てに加えて発展属性も使えるのはかなり希少でおそらく100人に1人くらいだと思う。
「あとは魔力がどれだけ伸びるかだね」って微笑んでくれた母の姿を今も覚えている。
そんな幸せな日々を送っていたとき、魔物の大量発生が起こった。
当然、父は騎士団として討伐に向かったわけだが無事討伐の報告がされたとき父の訃報も俺の元に飛び込んだ。
俺は大泣きして、そんな俺を見て母はずっと抱きしめてくれた。俺の前では気丈に振舞っていた母だったがきっと俺と同じかそれ以上悲しんでいたのだと思う。
元々身体が病弱だった母は父が亡くなってからどんどん弱っていった。俺の前ではいつも笑顔でいてくれたけど夜リビングで泣いている母の姿を見て俺はとても悲しかった。
父が亡くなって半年ほど経った頃、母はますます衰弱してしまい、ベッドで寝たきりの状態になってしまっていた。
そんな姿を見て元気を出してほしかった俺は必死で新しい魔法を覚えたり、野原で花を摘んできて花束を作ったりして渡した。
ただただ笑ってほしくて、幼かった俺はどうしていいか分からず、父の言葉を思い出して守る強さを得るために、毎日の剣と魔法の鍛錬を欠かすことはなかった。
そんな日々が続いたある日、寝たきりの母が昔のように魔道具を作るようになった。
俺は元気になったんだと思ってとても嬉しくてそんな俺を見て母も淡く微笑んでくれた。母が魔道具作りを始めて2週間ほど経った頃、1本の杖を渡された。仕込み刀のようになっており、剣としても扱えるマジックアイテムだった。
俺がどういうことかと首を傾げると
「あなたは強くて優しい子。これであなたが本当に守りたいものを守れるように、強く生きてね。愛してる」
その言葉だけ告げて母は息を引き取った。
生命力は魔力に還元することができる。後から知ったことだったが、もう自分が長くないことを悟った母が生命力すらも魔力に代えて、全魔力を注いで作りあげてくれたのがこの杖だったのである。
両親を失った俺は悲しくて悲しくてしかたなかったが、ただ今度は失わないように、守れるように、この杖に相応しい人であれるように鍛錬に明け暮れた。