勝負の結末
模擬戦が始まってすぐストローノフが魔法を使う。
「『火球』」
火球は第二階級の魔法で大したものではない。だがストローノフが放つ火球は数が違う。目の前いっぱいに広がり俺の方へ飛んでくる火球は10や20で済む数ではない。
「魔法の同時使用。それもかなりの数と精度。ただの自惚れではないってことか。防壁」
防壁の魔法で身を守る。この魔法にはコツがあって面にやや丸みをおびさせることで魔力消費を抑えることができる。魔力の節約はいつでも大事だからな。
「これを防ぐか、面白い。だがこれならどうだ!『火炎柱!!』」
第四階級の魔法。しかも中々魔力がこもっている。防壁だけでは魔力消費が馬鹿にならないな。
「『防壁、土壁、水壁』」
「なっ、3属性魔法の並行使用。もう手加減はできんぞ。『暴風』」
火炎柱に暴風の魔法が加えられ、周りの酸素も取り込み上がる炎が一段と大きくなる。俺の使った魔法で、被害は特に無いが視界の範囲内全てが真っ赤に染まっている。
「『暴雨』」
あまりに炎が大きいため更に上から水をかけ鎮火に努める。少しして火炎柱は消え去ったが俺の周り全て地面が真っ黒に焦げている。
俺たちの戦いを観戦する生徒たちはあまりの激闘に静まり返っている。そしてストローノフと視線がぶつかる。
「どうやら私は貴様のことをみくびっていたようだ。もう出し惜しみはしない。全力で行かせてもらう」
「いいね、来いよ」
ストローノフと俺、互いの口元がほんの僅かに弧を描いたとき、ストローノフが動く。
「『悉くを滅す劫火の炎よ。万物を灰燼と為せ。覇炎龍』」
第五階級魔法。それもありったけの魔力が込められている。こっちも手抜きは出来ないな。
「『閃光を司る時、万象は反転する。鏡の世界』」
光属性の第五階級魔法。使ったのは久しぶりだ。光属性の第五階級は中々レアだろう。
ストローノフの放った覇炎龍が弾き返され元の威力の半分ほどになって反射する。おそらくあいつはこの魔法でほとんど魔力を使い切って、防御にあてる魔力もないのだろう。
跳ね返された自分の魔法を見て呆然としている。
仕方ない。
「防壁、土壁、水壁」
魔力を多めに込めれば威力が半分になっている覇炎龍なら止められる。俺の魔法がストローノフを包む。
覇炎龍がストローノフに直撃して彼を包み込んで消えたとき、地に膝をつくストローノフが見えた。
「そこまで!」
エドワード先生の言葉が響く。
未だに地面に膝をついたままのストローノフに近づいて、手を差し出す。おそらく魔力枯渇で身体に力が入らないのだろう。ストローノフは俺の手を取りゆっくりと立ち上がる。
「貴様は異能持ちか?光の第五階級魔法、初めて見たが凄まじかったな。私は少し奢っていたようだ。上には上がいるものだな」
「いや、そっちの覇炎龍も悪くなかった。まぁ属性の相性もあるし、魔力の練りと制御がまだ若干甘いな」
「ふふ、そうか。そんな風に指摘されるのは久しぶりのことだ。研鑽に努めよう」
ストローノフが穏やかに微笑む。そこへエドワード先生から声がかかる。
「どうだ、ストローノフ。実技試験の1位と戦った感想は?」
「やはり、こいつが…。私が2位だったからおかしいと思っていたんだ。道理で強い訳だ」
「え!?俺って1位だったの!?」
突然知らされた事実に吃驚仰天の俺。
「なんでお前が知らないんだよ…」
エドワード先生は呆れ気味だが。
「だって、実技試験満点じゃなかったし…。筆記試験に至っては全然ダメだったし…」
「あのなぁ、お前の筆記試験の出来は知らんが、そもそも学院の試験は基本的に満点なんて取れるように出来てないの。それを実技試験で500点満点中482点ってどこの化け物だよお前は…」
俺の言葉を聞いて呆れは更に増したようだ。
「まぁ裏側目指すんだったらどんだけ強くても足りないくらいだからな。精々励めよ」
そんな言葉を投げかけられた後、先生によって解散が告げられる。
ルナとライムと昼食一緒に食べる約束してたからな。早く食堂に向かわなくてはならない。あぁ、そうだ。
「ストローノフ、ロイ、俺の仲間もいるんだけど一緒に昼食食べに行かない?」
せっかくなので仲良くなれそうなクラスメイトたちも呼んでおくことにする。
「そういうことならご一緒しよう。あと私のことはアルと呼んでくれて構わない」
「おぉ、丁度いい。俺もお前のこと誘おうと思ってたとこだ。あぁ、後…」
「僕もご一緒していいかな?」
ロイと模擬戦をしていたレンヤさんだ。皆レンヤさんが来ることに快く応じる。
「一応、自己紹介しておくよ。僕はレンヤ。模擬戦を見ていてくれたなら分かると思うけど、水属性魔法が得意だね。仲良くしてくれると嬉しい」
レンヤさんの自己紹介を受けつつ、一同は食堂に向かう。
あ、あとアルにルナとライムに関する誤解を解いておかないと…。