模擬戦
校庭は中々広く模擬戦用の場所も用意されているようだ。今は魔法Sクラス全員がそこに集まっている。
生徒たちが全員集まったことを確信したエドワード先生が俺たちの前に立つ。
「じゃぁまず模擬戦の説明を始める。まず当たり前だが殺すのは禁止。俺が戦闘を止めるか相手が降参したらすぐ戦いをやめること。学院には優秀な治癒術師が揃っているから腕や足が吹き飛んだ程度なら綺麗に治せるから安心していいぞ。だからいいか?間違っても死ぬなよ?まぁ説明はそんなもんだ。それじゃ、適当に模擬戦のペアを作れ」
エドワード先生の説明が終わった瞬間、ストローノフが近づいてくる。
「おい、貴様。私と勝負しろ!私が勝ったらあの子たちは解放してもらうからな」
「解放というか、別に拘束してもないんだが…」
「御託はいい。勝負を受けろ!」
「はぁ、分かったよ…」
そんなことでストローノフと戦うことになってしまった。相手のことを知らないから勝てるとは言い切れないが、おそらく負けることはないだろう。その自信の根拠はある。
「ほう、実技試験1位と2位の戦いか。見物だな」
そんなことを呟きつつ俺たちの方を見るエドワード先生のことには全く気付いていなかった。
ペアが決まると順次模擬戦が始まっていく。さすがに魔法Sクラスだ。レベルが高い。
基本的には魔法の階級は一から五まであり第三階級の魔法が使えれば魔術師としては一人前と言われている。
だが模擬戦闘を見ている限り第三階級の魔法を複数属性使う者や第四階級の魔法を使う者までいる。見たところ第五階級の魔法を使う者はいないが、使える者もかなり少なく、使えるだけで王国の魔術師団に入団出来るほどのものなので、使える者がいなくてもおかしくはない。
まぁ例え使える者がいたとしても魔力消費も大きく、切り札的要素の強い五階級の魔法を模擬戦で使おうとは思わないのかもしれないが。
そんなことを考えながら模擬戦を眺めているとロイの番がきた。戦う相手はレンヤという背の高い20歳くらいの青年だ。
戦いが始まるとかなりレベルの高い魔法の応酬が繰り広げられる。ロイが土属性、レンヤさんが水属性を得意としているようだ。
基本的には魔法の属性は7つあり、火、水、風、土が基本属性。光、闇、聖属性が発展属性と言われている。なぜ基本と発展で分けられているのかというと、基本属性は適性の大小はあれど、4つの内1つは必ず適性を持っているが、発展属性は適性を持たない者も多いためである。
また適性の大小というのは、仮に適性を持っていたとしても、適性の低さに応じて魔力効率が悪くなる、逆に言うならば適性が高いほど少ない魔力で魔法を発動できるようになる。
例えば俺が得意としている属性は風と光、ルナなら闇、ライムなら聖だ。『防壁』のような無属性の魔法なら誰でも同じように使えるんだけどね。
ロイとレンヤさんの戦いに目を戻す。2人とも第四階級の魔法を連発しており、魔力が枯渇してきたようで戦いも佳境だ。
ロイも奮闘しているようだが若干押されている。と、ここでレンヤさんの放った水魔法に足をすくわれ、ロイがバランスを崩したところで一気に距離を詰め、ロイの首元に杖が突きつけられて模擬戦は終わった。
「負けちまったか。あんた強いな」
「いや、この勝負は属性の相性に助けられただけさ。僕もかなり危なかったよ」
そう言って握手を交わしている2人。
「んじゃ、次。セトとストローノフ前に出ろ」
エドワード先生に呼びかけられる。
俺たちは最後だったようで遂に順番が回ってきた。
「あぁ、まぁ、よろしく…」
「心配するな、殺しはしないからな」
ストローノフは俺の言葉にかなり自信有り気に返すがそんなに強いのか?
「隠しているのは卑怯だと思うから一応教えておいてやる。私は知恵の実を食べている」
にやりと笑って俺にそのことを告げるストローノフ。俺たちの模擬戦を観戦する生徒たちもざわつく。
そういうことか!だからこんなに自信満々なんだな。だけど、自信の根拠がそれだけだとしたら残念ながら俺には勝てないな。俺もストローノフに、にやりと笑みを返す。
「ほう、このことを聞いて怯えないとはな。それは褒めてやろう。まぁ魔法Sクラスの生徒が知恵の実を食べているということがどういうことか分かっていない馬鹿であるとは考えたくもないのでな」
知ってるさ、そんなこと誰よりも知っている自信がある。魔法は魔力量に比例して威力を増していく。それは階級に関わらず込めた魔力で決まる。
そのため魔術師の戦いでは魔力量が多いというだけで圧倒的なアドバンテージを得られる訳である。
「勝つか負けるかなんて戦ってみないとわからないだろ?早く始めよう」
「面白い、その自信打ち砕いてやろう」
それはこっちのセリフだってのと思いながらエドワード先生の開始の合図に従って模擬戦を開始する。