第八話 要塞生活①
テラは夢を見る。
白い霧のかかったまぶしい朝に一人立っている。どこまで広がる草原。
テラは夢を見る。
謎の白い影が近ずいてきて、自分に向かって何かを言った。でもよく聞き取れなくてもう一度言ってくれと頼む。
すると影は言った。
「僕は君を守る。君だけを守る。だから、僕達を」
それで夢は終わった。
その言葉の続きはまだ誰も知らない
テラは目を覚ました。窓から太陽の光が差し込んでいる。身体を起こそうとすると何やら重いものが乗っていた。
「おぉおぉ、やっと起きたか。随分とぐっすり眠っていたようだが、何かいい夢を見れたのかな?少年。」
声のする方を見るとそこには美しい金色の髪をした少女がいた。
「.....次はなんだよ。...もうコリゴリだ。」
テラはその見覚えのない少女に言うと二度寝スキルを発動した。
「こらこら、もっとましな反応をしろ。こんなにも可愛らしい女の子がわざわざ声をかけてやっているというのに。...全く。」
彼女は呆れたような顔してテラの上から下りた。
「そろそろご飯とやらが出るらしいぞ。早く起きることだな。」
テラは去って行く彼女の方を見た。目の前にはテーブルがあり、そのテーブルに誰かが皿を並べている。
「...あっ。兄さん、お目覚めですか?おはようございます。もう少しで朝ご飯なのでもうそろそろ起きてくださいね。」
それは昨日出会ったばかりの妹。未だに信じられないが、今は何となくで一緒に生活することになった。
「.....起きるか。」
テラは眠っていたソファーに座り直した。
昨日ユサに髪を切ってもらったあとこのソファーで気づかないうちに眠ってしまっていた。今はもうだいぶ日が昇っていた。
「おはようございます。テラ君。」
また聞き覚えのない声がした。テラはまた声のする方を向く。
「.........もう、疲れたよ。」
そこには綺麗な銀髪の少女がいた。銀髪と言っても限りなく白に近い美しい髪。そしてその髪からは、角が生えていた。
「あら、疲れてしまっているのね。私はノラ。よろしくね。変な子が一人いるけど仲良くしてあげてね」
澄んだ声で彼女は言った。とても美しい声。美しい笑顔。それを押しのけるように先ほどの名乗らなかった少女が言った。
「こらこら変な子ってなぁに?またそうやってぇ。ノラは可愛い子ぶるのやめた方がいいと思うなぁ」
「あらなに?シラももう少し女の子らしさを持つべきだと思うわよ」
ノラと名乗った彼女は、シラと呼ばれた少女に言った。
テラはもう何がなんだかわからず、ユサに目で助けを求めると、彼女はテラを手招きで呼んだ。
招かれるままに彼女のところに向かう。
「なんなんだアイツらは。」
「彼女たちは、昨日兄さんが寝てしまった後にユサが家の片付けをしていたらいきなり現れて私に声をかけてきたんです。」
ユサは少し楽しそうに言った。
「いや待てユサ。家に知らない人間を入れるなってラズトに習わなかったのか?怖くなかったのかよ...。」
テラが心配そうに聞くと、彼女はまた笑って答えた。
「それはいきなりでもちろんビックリしましたけど話してみたら随分と面白い人たちで、つい話し込んでしまいました。悪い人ではないですよ。それにラズトは"厄介者が増えるかもしれないからよろしく"と言っていましたし。」
その二人は未だにガヤガヤと口論をしている。それを見て微笑ましくなってしまう自分に笑ってしまう。
「ノラさんとシラさんというらしいです。なんだか兄さんの名前に似てますね。」
ユサはまた、朝食の準備を始めた。
昨日から色々なことがあり過ぎて何が起きてもそんなに驚かなくなったが、流石に色々なことが起きすぎなのである。しばらく喧嘩をしている二人を眺めているとユサが言った。
「朝ご飯、できましたよ」
また騒がしい長い長い一日が始まった。
「これはなんという食べ物なんだ?」
シラはそう言いながらとトマトをフォークに刺して眺めていた。
テラはしめしめと彼女を眺め、人差し指を左右に振った。
「我が故郷の食べ物を知らぬ少女よ!それはトメィトゥと呼ばれる伝説の果実だっ!」
「何っ!?そんな食べ物があっただなんて...。」
シラは本当に悲しそうな顔をしながら言った。するとノラがユサの方を見た。
「ふふっ、面白い方ですね。ユサちゃんは妹さんなんですよね?テラ君カッコイイわよね。.....好き...になっちゃったりしないの?」
悪戯な顔をしながらユサの肩に顔を近ずけた。
「やめなよー、ノラ。ユサりん困ってるよ。」
シラはトマトをかじりながらフォークをノラに向けた。ユサは何故か少し顔を赤めていたがテラは気にせずパンを食べる。
「それよりノラもこのトメィトゥを食べてみなよ!
かなり美味だぞ!」
ノラはユサから離れ少し不機嫌そうな顔して言った。
「さっき食べました。でも食感がこう、何ていうの?あまり好みじゃないみたい。」
「うぇええ!?ノラは分かってないなぁ!それがいいんだよー!」
また二人は色々と口論を始めた。二人の口論はしばらく続きそうなので、テラはユサに近寄って聞いた。
「あのさ..っ」
「は、はっ!はい!」
動揺しきっているユサに構わず続ける。
「前々から聞こうと思ってたんだけどさ、お前がなんでもできるのは知ってるんだけど、なんでそんなできるのかが疑問だったんだが誰に教わったんだ?」
テラはパンにジャムを塗りながら聞くとユサは片言に答えた。
「え、ええとその、まま前に、らっラズミにっ、色々教わりましたっ!ので、そのできます!」
完全にあわあわしている彼女にノラがまた笑って言った。
「あら、ユサちゃん可愛いね。でもテラ君は私のだよー」
テラはノラの謎の発言に反論する。
「変なこと言うなよ。だいたい会ってから二、三時間なのにどうしてそんな馴れ馴れしいんだよ」
部屋が少し静かになった。ユサはテラの方を見て何かを言おうとしているがよく分からない。その時ノラが言った。
「そうね。だとするとテラ君はユサちゃんともまだ会ってから間もないのよね?なら私達とそんなに変わらないんじゃない?それに.....」
彼女は途中で止まってテラの顔を見る。
「それに?」
テラが聞くと彼女はゆっくりと息を吸って答えた。
「私とシラはあなたのことをずっーと見てきたからなんでも知ってるのよ。あなたのこともラズトもラズミも。もちろんユサちゃんのこともね。」
ノラがまた何かを言いかけた時、シラが遮って言った。
「ノラ、そこまでにしといたほうがいいよ。契約に反する。」
ノラは少し楽しそうな顔でシラの方を見た。
「そうね。あなたに反するのは良くないわね。」
そう言うと彼女はテラとユサの方を向いて言った。
「ごめんなさいね。雰囲気を悪くしてしまって。」
ニッコリと笑う彼女はとても美しくてどこか哀しそうだった。
「はい!終わり終わり。ユサりん食べ終わったのってどうすればいいの?」
シラはテーブルをたってキッチンへと皿を持っていった。
「ええと、皿を洗うんです!」
「うむ。ユサりんそれだけじゃ僕分からないよー」
シラはユサのおでこをツンツンしながら言う。
さっきは少し空気が重くなってしまったが、彼女たちももうその事については話しそうにないため、テラもテーブルをたった。
「テラ君。」
ノラがテラの腕を引っ張ってユサやシラに聞こえないように言った。
「私はあなたの味方だからね」
彼女はまた可愛らしく笑った。
この日はユサの命令により家全体を掃除することになったが、テラは風呂場を一人洗うことになった。かなりデカい風呂のため、時間もそれなりにかかりそうだ。
「で、なんでお前がいるんだノラ。」
ノラはひょこっと顔を出した。
「言ったじゃないですか!味方だって!」
彼女は胸を張ってきっぱりと答える。それをテラは無視して彼女を肩に担ぎ上げ、洗面所に放り投げた。するとこっそりとドアの隙間から覗いているユサと目が合った。
ユサは焦った顔をしてどこかへ走っていく。
「テラ君、痛いですよぉ。」
彼女は涙目になりながら答える。それにテラは呆れながら言った。
「お前の持ち場は便所だろ?さっさとやってこいよ...。」
すると彼女はすぐさま立ち上がりテラにすがるように言った。
「嫌です!あんな人間が生きるために活用して取られるだけ取られた栄養分の抜け殻の墓場など洗いたくない!」
「本当にアホだな.....。なら後で一緒にやってやるからシラとかの手伝いしてろ。分かったな。」
テラはノラの頭を軽く撫でると、ノラは嬉しそうに頷いて言った。
「分かりました!約束、ですよ!」
ノラがいなくなると、風呂場は静かになった。
「よし...。やるか。」
その後テラは風呂場の掃除を完了させ、便所に向かった。するとそこにはノラ、だけでなくシラとユサもいた。
「待ってたよテラ。ノラがテラと一緒にトイレとやらを掃除すると聞いてね、気になって来てみた次第だよ。」
シラはテラにウィンクを飛ばしながら言う。
「兄さんはお風呂場の掃除が終わったのなら休んでて良いですよ!私がノラさんに教えますから!」
ユサは少し焦った様子で言う。
「えぇ!酷いですよ!私はテラ君と二人で掃除するんです!」
ノラは不機嫌そうな顔をして言う。
「分かった分かった。みんなでやるぞ。そこそこトイレデカいからな。」
三人は顔を見合わせて、それぞれの気持ちがよく現れた顔しながら言った。
「おっけー!」
「いやぁ!!」
「そうしましょう!」
結局一人でやるより時間がかかってしまった。
家の掃除が終わるのはまだまだ先になる模様