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その言葉の続きをまだ誰も知らない  作者: 西東 款音
第一章 まぶしい朝
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第七話 髪切り代

テラは相変わらず曇っている空を眺めていた。



テラは窓から目を離し、変わり果てた家を見渡す。


家の構造がかなり変わってしまった。天井は高くなっており、天窓がある。二階は部屋というよりかは、ホテルの廊下のようになっている。


「なんか縦に伸びた感じだな。」


テラはそう呟くと、立ち上がった。家を見て回ることに決めたのだ。


まずは一階の調査。


今自分がいたところはやたらと広いため、リビングで間違いはなさそうだ。次にキッチンを見る。かなり広いスペースがあるキッチンで、何故だか既に器具がそろっている。


「なんでこんな広いんだよ。」


テラは思わず呟いた。


次にキッチンの隣にあったドアを開けると、そこには洗面所があった。さらにその奥のドアを開けると


「うわぁ...。」


馬鹿みたいに広い風呂場が現れた。この家に収まるはずのないくらいのデカさ。


「風呂っていうか、温泉プールだな。」


テラはなんともいえない気持ちでリビングに戻る。


次は二階の調査。


リビングから二階に登れるように階段があるため、その階段を昇る。二階につくと、吹き抜けを真ん中にして円を描くように廊下があり、いくつかの部屋が並んでいる。


「俺の部屋じゃん!」


しばらく歩いて行くと三番目のところに、"テラ"と書かれたプレートがある部屋があった。さっそくその部屋を開けると、そこにはいつもの部屋があった。


「...もう戻れないかと思ってたよ。」


テラはベットに横になる。しばらくごろごろしていると、眠気が出てきたため起き上がる。


ふと机の上に目を向けると何かがあった。


「...鍵だな。それと、置き手紙かな。」


テラは手紙を手に取って読み始めた。


"テラへ


この手紙を読んでいるということは、無事に脱出できたということだな。お前のことだから、簡単には許してくれないだろうけど、そこをなんとか頼むよ。


さて、本題に入る。まず、君の部屋が生きていることは確認しただろう。この手紙は君の部屋に出るようにしておいたから確認はできたはずだ。次に、手紙と一緒に地下室の鍵を置いておいたから、あとで下に向かってくれ。扉は前の家と違って床下収納みたいな扉になってるからよろしく。中に入ったら多分ビックリすると思うが、ぎっくり腰には気をつけろよ。一応言っておきたいことは以上だ。何か分からないことがあるなら、下へ行け。


ラズト"


「ったく...あいつは。」


テラは鍵を持って部屋を出た。そして"下"に繋がるドアへと向かう。


"下"に繋がるドアが見つからず、しばらく探していると、二階に登る階段の裏に床下収納のような扉を発見した。


「怖ぇなぁ。」


鍵を鍵穴に入れようとするが、手が震えて上手く入らない。


「しっかりしろ、テラ。」


テラは自分に言い聞かせるように呟いた。鍵を持っていた腕を抑えてながらゆっくりと鍵穴へ鍵を入れる。それを左に回すと、ロックが開く音がした。恐る恐るドアを開ける。


「.....。これ降りんのかな。」


テラは少し安心したように呟いた。


ドアを開けると梯子があり、その下に階段があった。


「.....行くか。」


テラは梯子を降り、さらに階段を下った。


階段を降り終えて部屋を見渡す。上よりは少し狭く感じた。真ん中にこの要塞を動かしているであろうエンジンのような機械があり、それを中心に部屋は円状になっている。床にあるパイプのようなものを跨ぎながら歩いていると、何かが奥で緑色の光を放っていた。それに近ずくと、そこには大きなカプセルがあり、中を覗くと、テラは唖然とする。




そこには少女がいた。口に呼吸器をつけられた状態で、静かに眠っていた。


「.....地下にはこんなのがあったのか。」


テラはそう言うと、カプセルの周りに何かないか探す。

しばらく探していると、"解除"と書かれたレバーがあった。それをテラは上に上げる。すると、カプセルが白い霧を出しながら開いた。


少女はカプセルが開くと少しだけ目を開いた。そして何かを言おうとしたが、その場に倒れそうになり、それをテラが支えた。


「大丈夫か?」


テラがそう言うと、少女抱き抱えながら床に座る。


「すみません。まだ身体に入ってから少ししか経ってなくて、上手く動かせないんです。」


彼女は今にも消えそうな声で言った。


「それは良いけど、君は誰なんだ?」


テラは優しく聞く。すると、彼女はゆっくりと息を吸って答えた。


「私の名前はユサと言います。ラズトから聞いたところによると、ユサはあなたの実の妹なんだそうです。」


「へ?」


テラは気のない声を出してしまった。


とりあえず落ち着けテラよ。.....いやぁああ!落ちつけるかぁぁああ!こんな水色の綺麗な髪の美少女が妹ってなると、俺ももうちょいいい顔で生まれてきたはずだぁあ!だがしかし前から妹が欲しいとは思っていた!あぁああ落ち着け!


テラは何回かこれを頭の中で繰り返した。


「どうかしましたか?顔がいちいち変わってて気色悪いですよ、兄さん。」


「にぃぃさぁぁああああん!!!!!」


テラの心は"兄さん"の一言で開放してしまった。


「もう一回言って!もっかい!」


ユサは困ってるのか、嬉しいのか、微妙な顔をしている。


「そ、そんなに嬉しいのですか?兄さん。」


「はぁっ!!!!」


テラは思わず涙を目にためてしまう。今まで色々なことがあり過ぎて、辛いから泣いてるのか嬉しいから泣いてるのか全くわからない。


「変な人。」


ユサはそう言うと、テラの前髪を手で上げて顔を覗き込んだ。


「兄さんの名前はテラですね。ラズトから聞いています。ユサは兄さんのことをよく知っていますが、兄さんはユサのことを知らないと思います。」


ユサはテラの頬を撫でながら続けた。


「とはいっても、ユサは物心ついた時から精神体の状態でいたので、これといって兄さんになにか言えるようなことは今までしてきませんでした。兄さんは今日の内に沢山の辛い経験をされたと思います。ユサにできることがあったらなんでも言って下さい。」


テラは彼女の笑顔を見てついに涙を零してしまった。


「ありがとう...。とりあえず上に行こう。」


テラはユサを抱えて上に上がった。


一階にリビングに戻ったころ、ユサが言った。


「兄さん。メッセージが届きました。ラズトからです。」


「本当か!見せてくれ!」


「はい。」


ユサは何も無い空間に、画面を展開した。


「.......。色々質問したいことあるけど後にするよ。」


ユサはそれを聞くと小さく頷き、何かの動画を再生した。


『あーあー。これ聞こえてんのかな?ラズミたん。』


そこには先ほどよりボロボロになった二人の姿があった。ラズトはカメラに変顔をしている。


『オン表示になってるから大丈夫よ。変なことしないで。』


『はいはい。やぁ、テラ!今僕とラズミたんはボロボロになっている。うん。だから多分追いかけることができない。ごめんね。』


『.....ラズト。説明になってないわよ。もう...。私がやるわ。』


そう言って次はラズミがカメラの前に立った。


『テラ。嘘をついてしまってごめんね。本当はあなたと逃げることはできないの。この島にまだやり残したことがあって、それをやってからじゃないと、ここを出れないの。本当にごめんなさい。』


テラは地下室のほうへと歩きだした。


「兄さんどこへ!?」


「.....決まってんだろ。戻るんだよ!地下室にこの要塞をコントロールできそうな機械があった!それを使って戻るんだよ!」


「不可能です!この要塞はラズミによってコントロールされています。私たちでは動かせません!」


ユサは動画を止めてテラに告げた。


「やってみなきゃわかんねぇだろ!!」


テラは地下に降りてコントロールのシステムを動かそうとした。しかし触ろうとした途端手に電撃が走った。


「ッッ!?なんだよ!」


「それはラズミがこの要塞を誰にも動かせないようにするためにしかけたトラップです。」


ユサが地下室のドアの入口から言った。


「くそっ!」


「兄さんっ!!」


テラはユサのことを無視して玄関へと走っていった。そして扉を開けた。


「.................。」


そこはもう自分の知っているところではなかった。すっかりと空は晴れて夕日が綺麗に輝いている。


自分がいたであろう"島"は既に遠くにあった。


「最悪だ...。」


膝折って力が抜けきった声で呟いた。


「兄さん.....。」


ユサは心配そうな顔しながら近ずいてきた。


「.....俺は何もできねぇんだよ。ここから飛び降りる勇気なんてねぇし、飛び降りて生きてたとしても泳いで島につけるほどの体力も度胸もない。結局二人に何もしてやれなかった.....。」


テラは膝に蹲って呟く。


「そんなことないですよ。」


ユサが優しく言った。


「あるんだよ。俺は最悪なやつだ。」


今まで何もしてこなかった。そう、何も。その事実が、テラのすべてを失望させた。


「そんなこと自分じゃ分からないですよ、兄さん。」


ユサはそう言うと、さっきの動画がをまた再生した。


『でもねテラ。きっと私達はまた会えるわ。私達は家族だもの。』


ラズミが鼻を啜りながら言った。すると、ラズミに変わって次はラズトが前に出た。


『多分お前のことだから、僕達に何もできなかったことで自分を責めたりすると思う。でもそれは違うぞ。僕らはテラのおかげでこの島で頑張れた。テラのおかげで契約に耐えられたんだ。本当に感謝してる。ありがとう。』



テラは泣くのを必死で堪えた。



『テラ、あなたは無限の可能性があるわ。あなたなら、どこへ行っても自分を見失わずに生きていける。だから、全力で今を生きなさい!』


『テラ、世界は広い!お前の目で、お前の手で、お前の足で、お前の耳で、お前の鼻で。お前のすべてで世界を見てこい!もうお前を縛ってたものはない。行け!次の再会は外の世界だ!』


『次の言葉を交わすときは、成長した姿を僕らに見せてくれよ。テラ。』



「ね?兄さん。」


ユサが可愛らしく笑って言った。


「.....鼻ね。」


テラは少し呆れたように言った。


テラは空を見上げる。綺麗に光る空が、ユサとテラを映している。


「変な家族だなぁ。」


テラが苦笑しながら言う。


ふとポケット手を入れるとそこには昨日もらった髪切り代があった。テラは空を見上げているユサに言った。


「なぁ、ユサ。髪、切ってくれないか?」


「構わないですが何故ですか?」


ユサがテラの顔をみて言う。とても可愛らしい。


「長いからだよ。」


「そうですか?ユサは髪の長い兄さんもいいと思いますよ。」


ユサがいたずらに笑って言った。その雰囲気がどこかラズミに似ていて少し苦しくなる。


「お前ってやつは、全く。」


ユサはいつの間にかハサミと櫛と椅子を用意していた。


「そういえば、もう身体は動くのか?」


髪を切ろうしたユサに言った。すると彼女は親指を立てて答えた。


「ゼッコーチョーです!」


「そうか。」


可愛らしい妹を貰えただけ幸せなのだろうか。


テラはそんなことを考えながら、手のひらの上にある髪切り代を見つめた。


ユサがゆっくりと髪切っている。


テラは、ラズミに切ってもらって変な頭になったことや、ラズトに切らせたら、後頭部がツルツルになってしまったことをふと思い出す。


「兄さん...。」



テラは泣いた。泣き続けた。情けないほど顔をクシャクシャにして泣いた。



ユサは何も言わずそっとテラを抱きしめた。






夕方のはずなのにまるで朝のように太陽が輝いている。


この雪の降るまぶしい朝に何を思うのか。


この朝の次には何がやってくるのか。


ーーその言葉の続きをまだ誰も知らないーー
















皆さん『その言葉の続きをまだ誰も知らない』を読んでくださりありがとうございます。今回で第一章が終了となります。これからもさらにいい物語が書けるよう努力していきたいと思います。是非引き続き読んでいただけると嬉しいです。




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