第六話 煙と雪が舞う夜に
夏を忘れさせる雪に、テラは家から持ってきた防寒着を羽織りながらじっと見入っていた。
「俺どうなるんだろ。」
ラズトとラズミは厄払いと名乗った者達の亡骸を何やら調べているようだ。あれから一時間近く経とうとしているが、テラはずっと窓の影にいた。
「とりあえず落ち着くか.....。」
テラは今までのことを振り返る。
まず、自分は今何かの理由でここにいれないくなってしまったこと。それにより、このゴッツォ国から出なければならないこと。そして何より自分は厄払いという謎の信教徒に狙われる存在であり、それはラズトも一緒だということ。そして何よりも肝心なのは、自分がここにいれなくなった理由と、厄払いが自分を襲ってくる理由をラズトやラズミは知っているということ。これだけでも頭が痛くなりそうだ。
「.....普通に考えると俺の居場所がバレたことが原因だよな。」
テラは防寒着のチャックをいじりながら呟く。そもそも自分は何故何も知らされなかったのか。ラズミによれば、契約のせいだとのことだが全くわからない。自分自身そんな謎の契約を結んだ記憶は一切ないのだから、自分の知らないところで結ばれたものだと考えるのが妥当である。
「ああぁ.....訳が分からんっ。」
ラズトは黒いマントの男に大神卿様と呼ばれていたのをふと思い出す。黒いマントの男はラズトを知っていたが、ラズトはその男のことを知らなかった。そこから読めることは、ラズトと厄払いの関係はよく分からないが、彼は厄払いという謎の集団の中ではかなり有名だったということだ。
「面倒臭いのは嫌いなんだよなぁ。」
テラは窓の外を見ながら言った。
しばらくするとラズトとラズミが家に入ってきた。そして入ってくるなりテラに言った。
「テラ、また奴らがくるわ。しかも今度あんな少人数ではなくて、大量に飛んでくるわ。」
ラズミは眉間にシワを寄せながら告げた。ラズトも続ける。
「何が何だか分からなくなるのは分かるが、今は耐えくれ。頼む。」
テラはようやく一時間近くいた場所を立ち上がった。
「とりあえず分かった。逃げるべきなのはわかったから、今この国起こってることと、これからどうすればいいのか、話せるところまででいいから教えてくれないか?」
ラズミとラズトは安心したよう顔をしたが、その後互いの顔を見合った。互いに頷きラズトが息を吸った。
「今この国では三つの組織が動いてる。まず一つ目は、いきなり首都襲ってきた軍の奴らだ。奴らはこの国人間ではない。」
ラズトが話していたところを遮ってテラが聞く。
「それについて質問なんだが、俺は学校でこの世界にはもともと沢山の国があって、それを初代国が統一したことでできたのがゴッツォ国だって習ったんだが、他に国があるってどういうことなんだ?」
テラが聞くとラズトが難しそうな顔しながら言った。
「実はな、ここは大陸じゃなくて島っていう場所なんだ。しかもかなりデカイ島なんだ。」
重ねてテラは質問する。
「しまってのはなんだ?学校裏で襲ってきた女の子も言ってたけど。」
それを聞いて今度はラズミが答えた。
「島っていうのは海に浮かぶ陸のことよ。大陸程ではないけど。」
「うみって何?」
「...........。そうだよな。そこからだよな。」
ラズトは低い声で呟くと、ラズミのほうを見た。何やら切ない顔をしながら互いの顔を見合っている。
「いっそここを出たほうが分かると思うのだけど、どう思う?ラズミたん。」
ラズトが言うとラズミは困った顔をしながらいつ言った。
「...正直私もそう思う。」
「なんだよっ。教えくれよう。」
テラは頬を膨らませた。それを見てラズトはいてもの笑顔を見せる。
「まぁとりあえず島っていうのは隔離された場所なんだ。悪い意味でも、いい意味でも。」
ラズトの話を聞くに、この国は他の場所から隔離された空間であり、それを狙ってこの"しま"と呼ばれるところではない場所から軍の奴らがやってきたということなのだろう。
「.....なるほど、それは理解した。てことはこのゴッツォ国の外には他にもまだ国があるってことなんだな?」
テラがそう言うと、ラズトは嬉しそうに言った。
「さっすがぁ!伊達に消費活動してないだけあるなっ!」
「痛い痛いっ、背中叩くなぁ!.....とりあえず、話を戻すと、この隔離された国で三つの組織が動いててその一つが軍の奴らって事だな?」
テラが背中を叩くラズトを手を抑えて言うとラズトも手を戻し真面目な顔に戻る。
「そういうことだ。他に動いてるのは、さっき襲ってきた厄払い。奴らは軍の奴らに紛れ込んで多分僕とテラを探しにきたのたのだと思う。どこから場所の情報が漏れたのかはわからないが、テラは場所が知られた以上、ここにいるのは危ない。」
「それは分かった。じゃあ、あと一つこの国で動いてるのはなんなんだ?」
ラズトはテーブルにあった水を飲み答えた。
「この国の馬鹿政府たちだよ。都合よくこの国を書き換え張本人達だ。今頃首都が襲われたことよりも、国民に世界の事情がバレちまったことに焦ってるだろうな。」
「都合よくってどういうことなんだ?」
テラが聞くと、ラズトは窓のそとを見ながら呆れたような顔をして言った。
「お前が学校で習ったこと。この国で流れる情報。メディア。全てを操作して国民に嘘を流し込み、この国の安全を保ってたのさ。それが一番安全だと思ってたんだろ。ふざけた国だったがテラを守るにはいいと思ったんだ。」
「ラズト、話がズレてるわ。」
ラズミが落ち着いた顔をして言うとラズトも「すまんすまん。」と言ってこちらを見た。
「よく分かんないけど、軍の奴らが政府に対して投降を求めてるってことは、元々戦争でもしてたってことなのかな。」
そもそも、なぜこの国が狙われたのかが謎なのだが。多分国内の情報を書き換えていることに関係があるのだろう。
テラが腕組みをしながら考え込んでいると、ラズトが言った。
「確かにこの国は忌み嫌われていたことは事実だ。戦争をしてたかはよく分からないが、まぁどうでもいいことだ。」
ラズトはコップをテーブルに起き、腕を組んだ。
「そしてこれからどうするかだが、テラ。」
「おう。」
ラズトはまた落ち着いた表情に戻った。テラももう一度、姿勢を正す。
「とりあえず、僕とラズミはここに残る。お前はここを出て、東にある"ソレイユ"っていう国にい.....」
「おいおい。みんなで逃げるんじゃないのかよ!」
テラはラズトの話を遮って言った。ラズトをテラを落ち着けるような口調で続けた。
「あとで追いかけるから、大丈夫だよ。まずは聞け。」
「...本当だな?」
「あぁ。信じろ。」
ラズトはいつも通り親指を立てて言った。
「とりあえず、ソレイユに向かえ。分かったか?」
一回も行ったことのない国に行くのは不安なこともあるが、ラズトとラズミも後から追ってきてくれるなら心配はない。
「.....分かった。」
「よし。そろそろ奴らがお仲間の死体につられてやってくる頃だろ。ラズミたん、頼むよ。」
そう言うと、ラズトとラズミは家の外てと出た。テラもそれについていく。
「ラズミたんっ!いいよー!」
ラズミはラズトの合図とともに、家に手をあてて何かを唱えた。
「トランス。」
ラズミがそう唱えると、地面が揺れだした。
「うおっ?!なんだ?!」
家が光を纏いながら形を変えていく。地面に埋まっていた部分が外に出て、空中に浮いた。まるで要塞のようだ。
「嘘だろ...。」
テラは口開けて唖然。
「驚くのも、無理はないわ。今まで住んでた家がトランスフォートだっただなんて知ったら私も驚くわ。」
ラズミが悪戯に笑いながら言った。
「テラ、家の中に入れ。飛ぶぞ。」
「はぁ?浮いてんのにどうやって入るんだよ。」
そう言うと、ラズトが指を鳴らした。
「?...うわぁっ!?」
すると、要塞がテラの前に降りてきた。テラは驚いて尻もちをついてしまう。
「ほれ。乗り給え少年。」
「くそっ。覚えてろよ。」
テラは何度言ったかは分からないセリフを今回も放った。
「ラズト!来たわ!」
ラズミが木の上登って叫ぶと、ラズトはそれに頷いてテラのほうに向き直した。
「テラ、先に行っててくれ。頼んだぞ?」
テラは要塞に乗り、ラズトのほうを見た。
「絶対に来いよ!待ってるからな!」
ラズトはテラの頭を優しく撫でる。
「わかった。」
「絶対だぞ?」
「あぁ。」
ラズトは優しく笑った。
「ラズミ!いいぞ!」
「了解です!」
ラズトの合図に反応しラズミが手のひらを要塞にかざした。
「ステルス。」
そうラズミが唱えると要塞とテラが透明になり始めた。
「待ってるからなっ!!」
テラは上昇しだす要塞から二人に叫んだ。二人もこちらに手を振り返した。
要塞が見えなくなったころ、ラズミが言った。
「...ラズト。あんな嘘はよくないわよ.....。追いかけるだなんて.....不可能よ。」
下を向いたラズミの頭をラズトが優しく撫でた。
「ラズミの気持ちも分かるけど、アイツを説得するにはこれしかないだろう?」
ラズミは鼻を啜りながらテラの手の感触を思い出す。
「また、会えるわよね...。」
「当たり前だ。僕たちは家族なんだから。」
ラズトは要塞の消えたほうを見上げた。
「.....どうか再び会えるまで、僕とラズミ、そしてテラをお守りください。エリス様。」
ラズトを迫りくる黒い影をラズミとともに迎え撃った。