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その言葉の続きをまだ誰も知らない  作者: 西東 款音
第一章 まぶしい朝
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第五話 炎の熱


いつもの帰り道が遠くに見える。テラは流れていく景色をただ呆然と眺めていた。辺りはほぼ暗くなり、学校の方の街は炎が舞っている。


相変わらず、雪が止むことはない。


「着くわよ。テラ。」


ラズミはそう言うと、ゆっくりと走るスピードを落としていった。



いつもの家。いつもの花。いつもの木々。

何も変わってはいないはずなのに、テラは言葉に出来ないような感情で胸締め付けられた。


「なんで今頃になって.....。」


テラは泣きそうになるのを堪えながら、ラズミあとについていった。




そこは、よくラズトが降りていた地下室だった。普段は鍵が掛かっていて開くことはないが、ラズミがそのドアを開けた。


「俺入っていいの?」


そうテラがラズミに聞くと彼女は言った。


「一応ここで待ってて。」


テラは一人、いつものリビングで窓からの景色を眺めた。


「もう少しで夏休みだったなぁ」


そんなどうでもいいことをふとテラは思い出した。


「学校どうなるんだろ。」



しばらくするとラズミが何かを持って上がってきた。


「これがあなたをいつなんどきも守ってくれるわ。たとえあなたが望まなくても、この石はあなたを守ってくれる。」


碧色の美しい石が埋め込まれた黒い腕輪をラズミはテラの腕にはめながら言った。


「守られるのはごめんだよ」


テラはそう言うと、取り付けられた腕輪を外そうとした。


「っ?取れない...。.....おいラズミ、何したんだ。


「これはあなたとラズトの契約よ。どちらかが死ぬまでの絶対契約。破ろうとしたものは死んでしまうのよ。」


ラズミはテラの顔をじっと見て言った。


「なんでもかんでも勝手に決めるなよっ!!なんで俺に言ってくれないだよ!!」


テラは枯れそうな声を全力で鳴らした。だがラズミからの返事は変わらない。


「ごめんね、テラ。あなたが知りたいことを私たちは知ってる。でも簡単に言えることではないし、言っていい事でもないの。でもね、」


ラズミはテラの両手を優しくつかんだ。


「きっとここを出ればわかる。この都合よく書き換えられた国を抜け出せば、本当の世界に出られるの。」


「別にここにいてもいいじゃないか。」


テラは視線を落として言った。また、下を向くことしか出来ない。


「下を向かないで。前を見なさい。確かに今は分からないし、納得できないかもしれない。でもその答えは、ここを出ればあなたなら見つけられる。」


ラズミはもう一度テラの両手を握り直した。


「そのリングはあなたの自由を守る。あなたの夢を守る。あなたに取り巻く厄災を打ち払う。オヴゥアがあなたを守ってくれる。」


「オヴゥア?」


テラは下を向いていた顔を上げて聞く。


「このリングはオヴゥアの護石っていうの。」


「オヴゥアの...護石.....。」


「そうよ。」


テラはリングに目を向けた。碧色の石が光りを反射し美しい光っている。


「さぁ、テラ。準備をして!日が沈むまでには出発するわよ!」


ラズミはテラの手を離し、力強く言った。テラもそれつられ準備を始めた。そのときだった。


「っ!!なんだ!?」


急な爆発音と共に、何かが割る音が響いた。


「.....なんだよ。これ...」


硝子窓が全て割れて、家の周りが炎に囲まれていた。よく目を凝らすと、炎の熱に揺られた黒い人影が幾つかあった。


「クソッ、タナトス共がっ!!」


ラズミはそう叫ぶと玄関へ走った。ドアノブに手をかけたところで彼女が振り返る。


「テラ、隠れてなさい!」


テラは言われるがまま窓の下に隠れた。ラズミは何やら外で誰かと喋っている。


「ラズト!なんでこんなに早いの!?」


どうやら喋っている相手はラズトのようだった。彼は服も体もボロボロだった。


「すまない、ラズミたん。それが思ったより彼が強くてね。」


「あああぁ!!なんとお労しいのですかぁ!大神卿よ!!貴方様がこんなにも惨めになられてしまうとは!!ぁああっ!神が嘆いておられます!!」


この喋り声にテラは聞き覚えがある。さっき移動中を襲ってきた黒いマントの男だ。


「貴様ら.....。こんなことをして許されとでも思っているのか!!タナトスめ!!」


ラズミが叫ぶ。


「あら、あなたはどなたです?まぁどうでもいいですが。しかしながら撤回していただきたいですね。そのような忌み名で呼ばないでほしいものです。」


男はそう言うと、両手を広げて言った。


「我々は厄払い。この世に厄をもたらす全てを排除し、神を信仰し、神を愛し、神に愛される者なのです。」


「.....貴様らぁ。」


ラズミは腰にかけていた、武器のような物に手をかけようとした。それをラズトが止める。


「ダメだよ、ラズミたん。奴らはそれを狙ってる。」


「ッッ.....。」


ラズミは手を下ろしラズトの腕を支えた。


「では、ここで終わらせるとしましょう。大神卿様。」


男はそう言うと、黒い光を集めだした。そして、周りにいた彼の仲間らしき奴らを黒い光をあつめだした。


「ラズミたん。テラにリングは付けたかい?」


ラズトはラズミの顔を見て聞いた。


「えぇ。大丈夫よ。」


それを聞くとラズトは立ち上がり、白い光を集めだした。ラズミも同ように白い光を出していた。


「よし、ラズミたん。解除したから僕は全力でいく。周りの雑魚たんを頼むよ。」


「了解。」


二人はいきなり走り出して、ラズミは一瞬で周りにいた奴らの首を跳ね、ラズトはさらに光を集め、それを手に集中させた。ラズトはその手を男の溝内に目にも止まらぬ速さで押し当てた。


「がぁっっ!!あぁっ!」


男は後ろの方に飛ばされた。ラズトはすかさず手に赤い光を集めて男に叩き込んだ。


「.....なんというお方だ。我々に屈辱を味わいながら死ねと?」


男は掠れた声で言った。


「君たちは長く生きすぎたんだ。もう寝てもいいんだよ。」


ラズトは優しく言う。


「貴方様がそれを言いますか......。なんと、なんと酷い世界なのでしょう。」


「.....最後にそう思ってくれたのなら嬉しいよ。」


「ぐはッッ。ふ、ふふふ。ああ、アルヤツドよ。我らが神よ。どうか許したまえ。」


男は何かを掴むように手を空に伸ばした。


「お休み。また地獄で会おうね。」


ラズトは立ち上がり、家の方へ歩いてきた。




男はその後動くことはなかった。




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