第二十二話 ソレイユ生活②
「さぁシバ。飯を食うぞ!」
テラは上機嫌でテーブルにつく。新しく増えた家族。とても可愛らしい幼女。だが、無口なのは少しいただけない。
「シバりん、ご飯だよー。召し上がれ。」
さきほど、ユサが買出しに出かけたため今日はノラとシラが朝飯を作ったようだった。テラとシバはテーブルにスプーンとフォークを立てて運ばれてきたピザを見つめる。
「お前らいつの間にかこんなの作れるようになったんだよ。」
「なかなかに難しいんだよテラ君。ユサちゃんの見て覚えたけど大変だったんだよーっ」
ノラがエプロンを外してテーブルの椅子に座る。ノラのエプロン姿もいいのだが、シラのエプロン姿もなかなかに良かった。
「さてさて、今日は新しくできた家族で海岸街ソレイユを旅行するべく予定をたてようと思うのだけど、なんにかしたいことはない?」
ノラがテラの顔をまじまじと見ながら言った。
これは俺から言った方がいいのだろうか。
「そうだなぁ、とは言ってもお前外でれないじゃなかったっけ?」
「あ、」
ノラがそう言って固まると、シラがピザを齧りながら言った。
「それについてはね、テラを褒めざるを得ないよ。もちろんシバりんもね。僕達はライフが濃いところじゃないと体を持てないけど、テラがシバに頼んでライフを多めに供給してもらえば、テラの近くでなら多分行動できると思うよ。」
「本当?!やったぁ!!じゃあ早速頼んだわよテラ君っ!」
ノラは子供みたいにピョンピョンとジャンプした。相変わらずの彼女である。
「んじゃ、シバ。頼めるか?」
テラの言葉に全く反応しないシバ。
頭をつついてみる。ーーー反応なし
耳を引っ張んてみる。ーーー反応なし
頬を引っ張ってみる。ーーー反応なし
脇をくすぐってみる。ーーー反応なし
.........尻尾を、握ってみる...。
「ひゃあっっ!!!!」
「うおっ!」
シバは尻尾を握られた途端、変な声をあげた。しばらく握ってみる。
ほれほれ
「あうぅ...っ!あっ!ぐぅぬぬ!あうっ!」
「ほらほらどうしたシバ。答えないと分からないぞ。」
ぬはははははははははっ!実に愉快だ。自分をシカトし続けてきた報いを受けさせてやる。
といった具合に攻める。
「やめっ...て...っ!あっ!ようよ!やめっるんじゃ!...っあ、んん!!」
「じゃあ、俺の言うことを聞いてくれないかぁ?」
シバは椅子で悶える。
「わかった!わかった!からっ、んっやめ、てっ......んっ!」
「よぉしいいだろう。じゃ、聞いてもらお...」
と、その時。誰かの足がテラの頭に当たった。彼は吹き飛ぶ。
「いい加減にしなさいっ!!シバが可哀想でしょ!もう、テラ君たら!」
と言うノラの隣に右足を上げているシラの姿があった。あぁ、やつが俺を蹴ったのか。
「いってぇ...。くっそーっ!シバの野郎っ」
「小さい子をいじめて高揚するのはひどいぞテラ。シバが可愛そうだ。」
シバはシラの顔を見上げたあとこちらを振り返り、ざまあみろと言わんばかりの顔を見せてきた。
これは本当に後でぶん殴ってやらねばならぬようだ。しかし、彼女のような普通にできた顔の女の子を殴るのは趣味ではない。だとすると、やはり、さきほど行った尻尾テクを使わなければならないようだ。
「それよりもシバ、あなた喋れたのね!ずぅーっと黙ってたから喋れない子なのかと思ってたわ!」
そんなことを言いながらシバの頬をスリスリするノラ。
「そうだね。可愛い声をしている。」
シラも何故シバにはあんなにも優しいのだろうか。
おっと、勘違いしないでほしい。嫉妬ではない。
「はぁ...。とりあえずシバ、できそうか?」
シバは無言のまま深く頷いた。
「よし、じゃあ飯食い終わったら出かけるぞ。」
テラは深いため息をつきながらテーブルに戻り、朝食を食べ始めた。シバは相変わらずこちらを睨んでいる。
やめいやめい、その目をやめい。
「やったぁ!本当、外に出られるなんて夢見たい!ありがとうシバっ!」
ノラに抱きつかれても表情を変えない彼女のどこがいいのだろうか。まぁ、可愛いのだが。
「シバ、ありがとう。」
全く、女の子をが考えることはよく分からないものである。
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「で、兄さん。なんでこんなに女の子を連れているのですか?」
そう。これは、朝飯を食べ終わったあとみんなが出かける準備をしたのち、お家を出て来たところでユサと出会したという瞬間である。出会したというか、帰ってくるユサを待とうという話になり、突っ立っていたの方が正しいだろうか。
「おお、ユサ!みんなで出かけるぞ!」
「......それで街中を歩くつもりですか?」
テラは今なんと、シバを肩車しノラとシラの二人と手を繋いでいる状態なのである。なんの家族物語なのやら。
「いや、ノラとシラが俺の近くにいないとと外に出れないんだよ。さっき普通に外に出たらシラの頭部がライフに変わって消えちまったんだ。ギリギリか連れ戻したけど。」
「うんうん。死ぬかと思った。まぁ、消えてもライフ体になるだけだから僕は家に戻れるんだけどね。」
そんなことを平然と述べているシラだが、さきほどはかなりやばかった。
みんなが説明をしているが、ユサの不機嫌そうな顔は変わらない。何に怒っているのだろう。
「とりあえず、出かけるならもうちょっとマシな格好をしてください!状態はいいとして、その服です!何ですかっそれは!」
テラとノラとシラとシバは私服を着ている。
私服とは言ってもこっち側では見たこともないようなものなのかもしれない。ここらでこんなパーカーみたいなものを着ている人はいない。なんというか、みんな中世チックな服を着ている。
家ではユサを除いてはみんな俺の小さかった頃の服を着ているため、違和感は無いのだが。
「別にいいだろユサ。面倒臭いし。それに、こっち側の服は昨日着てた一着しか持ってないしなぁ。」
「......全く。」
実際、存在しない昨日では何着か服を買っていたが、それは消えてなくなっていた。
それは、存在しない物語。
しかしそれは、存在していた物語。
彼女は少し不機嫌そうな顔をしながら家に入って玄関に買い物袋を置いた。そして、何かを閃いたかのように笑いながら言った。
「じゃあ、皆さん。服を買いに行きますよ!」
服を買うらしい。
言われるがままユサについていくと、街の服屋についた。他の客も多く、かなり繁盛している店のようだ。
で、服というものに弱い民族はこの時点で負けが確定するのである。
分からないぞ。ノラ。
「なんでそんな服着てんだよお前...。」
「何ってなぁに?テラ君っ」
彼女はこの街でも有名なセーラー服を着ていた。なんというか、いきなり大人びたような気もするが。と言ってもノラとシラと自分は見た感じ年が離れているわけでもなさそうなのであるが、実のところ彼女たちの年齢をよく知らない。まぁ、特に気にはならない。
「なんでセーラー服なんだよ。もっと普通のにしろ」
「ええ、本当は見れて凄く嬉しいくせにぃ。ノラやばいまじ可愛い!って言ってもいいんだよ!」
なんてことを言いながら彼女はグイグイと近づいてきた。たしかに近くで見ると可愛い。
「まぁ、いいや。ほかの服選んでこいよ。一着だけじゃ足りなだろうし。」
「それはそうね。じゃあテラ君も一緒に行こ!」
ノラよ。分かってくれ。俺は服の選ぶセンスはないだよ。嫌なんだよぉ!昔から服を買いに行くときはゲームばっかして全部ラズミに任せてた人なんだよぉ!
と言っても連れていかれるのが分かったため、付いていくことにした。
「...どれでもお前は似合うと思うぞ。ノラ。」
「えっ...。」
服を何着も何着もきては「どお?」と聞いてくる彼女に言ったのだが、彼女は何故か顔を赤くしていた。
「そ、そお?ならいいよっ。これ、買ってくる!」
「お、おう...。」
なんだ何だ。ノラは子供みたいに笑いながらレジに向かっていった。
他の奴らはと言うと、ユサがあれこれシラとシバに合いそうな服を持ってきては着せている感じである。
「ユサりん、なかなか仕事が早いね。僕はさっき見せてくれた服と今きた服が欲しいかな。」
「そ、そうですか!じゃあそれにしましょう!」
ユサはレジのほうへ走っていった。
とても嬉しそうだ。
「やっぱりユサりんは優しいね。こんな僕のためにここまでしてくれるだなんて。全く、テラが羨ましいよ。」
「そうだな。俺には勿体無いよ。まぁ、あいつは俺のモノって言うよりはみんなのもの、みんなのユサなんだよ。だから、シラ。頼むよ。」
シラは少し意外そうな顔をしたが、スグにいつもの目を細めるような笑顔に戻って言った。
「分かってるよ。」
シラルガンド・ヴァルハイダー・キャッツ・ネオンハートは何者なのだろうか。
ふと、そんなことを思った。
「ねぇ、二人とも。何をニヤニヤしながら見つめあってるの?」
彼女は何故いつもつかかってくるのか。
ノラ。
「何もしてないよ、ノラ。僕はただテラと少し話してただけだよ。」
シラはノラの額をつんつんと人差し指でさした。その額の顔の主は大分ご不満のようだ。
「もう!ほら行くよ!みんな服買えたからね!」
五人は店を出る。
「あれぇ、テラ君じゃん!おはよう!」
店を出るとそこにはサラさんとアオイがいた。
「おはようございます。というか、アオイ。その、...体調は大丈夫なのか?」
アオイは少し目をそらしているようにも見えるのだがテラは言った。
「だ、大丈夫ですっ。......それよりも、何ですかこの人達は。...他にも女がいたんですか。」
「へ?」
途中からアオイの様子が一変した。
アオイが腕組んでテラを見下せてはいないが、全力で見下している感を出してきたのである。
「あれあれアオイ、どうしたの?そんな顔して。」
「別に何でもないっ」
サラさんの言葉から逃げるようにアオイは目を逸らした。そして自分と目が合う。
「...っ!」
なんだなんだ。 どうしたというのだ。
「大丈夫か、アオイ。」
彼女の頬に手を触れようとした。
「だ、大丈夫!もう、元気だからっ!」
ならいいんだけどさ。
「あぁ、そうそうテラ君。今日からお祭りあるの知ってた?本当は昨日からのはずだったんだけど、今日からになったから一緒に行かない?」
そう言えばアオイもそんなことを言っていたような気がする。丁度いい。
「分かりました。じゃあ、こいつらも連れていきますね。」
「おうおう、テラ君なかなかにモテモテだね。」
モテモテかどうかはよく分からないが。
それを聞いた周りも周り。
「何変な事言ってるのサラ!」
とか
「私は別にテラのことはね。弄り甲斐のある子としか思ってないよ。」
なんか腹立つな、
「まぁ、テラ君は私のこと大好きだもんね!」
はいはい。
「兄さんは酷いです。」
えぇと何がだい?
「...........................。」
相変わらずだな、おい。
「よし。決まりね!じゃあ夕方ぐらいに集合よ!」
サラさんはそう言ってアオイと一緒に店に入っていった。
「こりゃまた忙しくなりそうだな。」
こういう忙しさは嫌いじゃない。
じゃあ、祭りにしよう。