第二十一話 ソレイユ生活①
平凡とは才能である。
"実に面白い奴じゃな。"
んん、そんなに俺って変なやつなのかな
"変などとは言っておらぬ"
そうか。
"ようは何かと一人でやり遂げようとしてしまうことがあるようじゃな。その癖はのちのち自分を苦しめることになるかもしれんの"
それが取り柄じゃまずいのか?
"ふん。そんなことあいに聞くでない。"
......なんなんだよお前
"あいは名も無いコウモリじゃ。あってないような存在。ようがあいの存在を認識しているからあいは存在している。ようがあいのことをない存在だと思えば、あいはいなくなる。"
それは困るなぁ
"まぁ、あいはなんでもかまわんよ。しかしじゃのう、ようはよくわからん趣味があるようじゃな。"
んん?それはどういうことだ
"祟りというのは姿もなければ形もないし、存在もない。もし仮にようにあいの姿が見えているのであれば、それはようの勝手なあいへの妄想にしかすぎないのじゃよ。で、この姿じゃ。......ようはロリとやらなのか?"
いやいやいやいやいやいや!!ちょっと待て!これじゃこれ聞いた奴らに俺がロリ好みだと思われじゃねぇか!!ていうかどこでロリなんて覚えたんだよ!
"ようの部屋にそんな感じの題名の本があった気がするのじゃ。とりあえず使ったてみただけよ"
意味もわからず使って当ててくるとか凄いなおい!!
"で、ようよ。あいはようの望むようなモエモエとやらが止まらない、欲を掻き乱すようなほどキュンキュンするヨウジョキャラになれておるのか?"
うぉおおお!いきなり変な事言うんじゃねぇよ!!本の見出しを覚えてるとかダメだろ!!それと"ようよう"って韻を踏むのやめてくれぇ!!!
"はは、やはり面白いやつじゃの。おぉ、きたようじゃぞ主様。ようの望んだ明日とやらが目を覚ましたぞ"
そんなふうに朝がきたことを格好よくいうんじゃない!!
ーーその言葉の続きをまだ誰も知らないーー
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「ん、んんん!?」
テラは目を覚ましたのだ。日の光が窓から差し込み朝のお告げがきたのだが、今テラはかなりやばい状態なのだ。それはと言うと、顔の上に誰かが座っておるのである。
考えたくないが、これはパンツなのだろうか。
誰の?白いパンツ。
色々考えてみる。
ユサとシラの確率はゼロに近い。そんなことをするほど下品な奴らではないことをテラは知っている。問題はノラ。奴なら有り得なくもないが、こんな大胆だっただろうか。
色々考えても分かりそうになかったため、上に乗っかる人をテラは持ち上げた。そこで感じる。
軽ぅーい。
もしかすると、そのもしかしてだけど。
「コウモリか...」
「........................。」
テラは幼女の彼女を両手で持ち上げ、座り直してから目の前に置いた。ところまでは良かったが、そこで重大な問題を発見する。
「うおあっ!!なんでパンイチなんだよぉおお!!!」
テラは布団の毛布で目を隠した。
何を考えているのだろう、彼女は。
「お、おいっお前...ふ、ふふくを、きなさい!」
「........................。」
「そこら辺にあるパーカー使っていいから上だけでも着てくれ!」
そう言うとベッドがギシギシとゆれ、床をぺたぺた歩く音が聞こえた。
しばらくして、またベッドがギシギシと揺れた。テラはゆっくりと目を開ける。
「...ふう。まぁ、それでもいいよ。」
彼女が着たものは灰色のパーカーで背中に"愛"と書いてあるやつだった。
「...にしてもなんでお前喋んねぇんだよ。さっきすげぇ喋ってたじゃねぇか。」
「........................。」
テラは黙り続けるコウモリに流石に呆れてため息をついた。なぜ黙っているのだろう。
「喋んないなら、黙って俺に従えよ...。」
テラはベッドから立ち上がりコウモリのパーカーのフードを掴んだ。それをずりずりと引きずって部屋を出る。
「なんだいその子は。」
部屋を出ると寝起きのシラとはちあわせた。寝癖で頭が爆発している彼女は、欠伸をしながら近づいてくる。
「あぁ、こいつは昨日引き取ったコウモリの祟りなんだけど、なんか無口なんだよ。」
二人は屈んでコウモリの顔を覗く。正気が感じられない目が、なんとも言えない。容姿は普通に可愛らしいのだが、ボサボサの髪で台無しになっているような感じである。
「この子が祟りなんだ。祟りが姿を見せることってなかなか無いんだよ。大分主に懐いてるみたいだよ。」
「そうなのか......。」
まぁ、懐いてるというか噛みつかれる仲なのは事実である。
「よし、テラ。あとで三人でお風呂に入ろう。」
「は?」
シラは寝癖を気にするような素振りをみせながらテラの目をじっと見て言った。
「いや、流石にダメだろ。俺は入らなくていい。」
「いや入ったほうがいいよ」
シラはキッパリと言った。こんな奴だっただろうか。だが、その謎は次の瞬間解決した。
「臭い。」
「............はい。」
テラは風呂に入ることとなった。
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只今の時刻、朝の五時四十分。多分ノラもユサもまだ寝ているはずだ。
そして、今は三人で風呂に入ろうとしている。
「さて、入ろうじゃないか。」
お風呂。
テラは湯船に浸かって一息をついた。
シラはコウモリの頭を洗いながら、鼻歌を歌っている。
テラはブクブクと風呂のお湯に息を吹きかけながら昨日のことを思い出していた。
そういえば、夢の中であったあの桃色の髪の女の人が、シラとノラの名前を言っていたような気がする。
「なぁ、シラ。お前、桃色の髪をしてる人とか知り合いにいないか?」
テラは風呂の天井を見上げながら聞いた。
「......さぁ、誰のことだろうね。」
「やっぱ知らないか。にしても変なやつだったなぁ。」
あの人はコウモリが呼んだらしいのだが、そもそも何故コウモリはあの人喋ることができたのだろう。
あそこはどこなのだろうか。
夢で何度が見たことがあるような気もするが、あそこまで鮮明だったのは初めてだ。しかし、まだぼんやりとしていたためか、あの時の情景を既に忘れれつつある。
「よしコウモリん、全部洗い終わったよ。リンスってやつもつけておいたから、きっと髪もサラサラになるよ。」
シラは立ち上がってコウモリの手を引いた。なんというか、姉妹のように見えなくもない。
「ん、何見てるだテラ。僕の成長した体を見てニヤニヤするのはしょうがないとして、コウモリんのこの清らかな幼女体を見てニヤニヤするのは流石に気持ち悪いよ。」
「......ほんと、お前らはなんか似てるな。」
湯船に入ってくる二人。二人とも体にしっかりとタオルを巻いているため、目のやり場には困らないのだが。
「...隣...いいかな。」
シラが隣に近づいてきて言った。
「ん、いいよ。」
彼女はコウモリを膝の上に乗せ、隣に座る。
「なぁ、テラ。」
「ん?」
テラは彼女の方に目を向ける。彼女は自分の目を真っ直ぐと見つめていた。
「これって偶然だと思う?」
それはどういうことなんだ、と聞こうとしたがそれをいう前に彼女が続けた。
「君がこの子を手に入れられたのも、厄払いの幹部クラスが三人も現れたのも、デッドターミナルがここから別の場所に変わったのも。」
テラは頭を掻きながら少し考えた。
「あれ、お前って厄払い知ってんのか?」
テラは普通に聞いたつもりだったが、シラは呆れたような顔をしていた。なんというか、"察せ"と訴えられているような。
「もういいよっ、何でもない。」
しょげたような顔している彼女になんと言えばいいかわからず、ただ呆然と湯船を見つめた。相変わらずの馬鹿でかい湯船。
「それしても意外だったよ。僕はてっきり君が寂しくなってノラを呼ぶだろうと思っていたのに。」
「なんで、あいつ呼ばなくちゃなんねぇんだよ...。」
シラはコウモリを抱き直して、彼女の頭に口を近づけながら小さな声で言った。
「......だって、君はノラを選ぶんだろ?」
それはぎりぎり聞き取れるくらいの声だった。シラのほうを見ると彼女と目が合った。しかし、目をそらされてしまった。
「......俺は別に誰も選ばねぇよ。ノラのこともなんだかんだいって好きだし、ユサのことも好きだ。もちろんシラのことも好きだよ。」
テラは優しくシラの頭を撫でた。そういえば、彼女は頭を撫でられるのが嫌いだったような気がする。しかし、抵抗しないのでしばらく撫で続けた。
「............これだからみんな勘違いするだよ...。」
「ん、なんか言ったか?」
「...なんでもないっ!」
シラは顔を完全にコウモリにくっつけた。コウモリのほうは、なぜだか知らないがこちらを睨みつけている。
「......なんなんだよ。」
そう言うとコウモリは呆れたような顔をしてまた、正気のない目に戻った。
「なにしてんのシラ!」
風呂場のドアの方から明抜けた声が響く。
ついに起きてしまった。
「私に黙ってぬけがけしようだなんて、卑怯よ!」
「別にいいじゃないかノラ。」
「ダメ!」
ぺたぺたと音をたてながらパジャマ姿のノラが歩いてくる。
「テラ君。ちょっと待て話がるんだけど、いいよね?」
彼女は笑いながら言った。
「は、はい...。」
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「いいわね、テラ君。女の子とお風呂に入るのはダメです!あ、私ならいいけどね...じゃないくて、ダメ!分かった?」
ノラはソファーの上に立ち、テラは床に正座をしている。
「...分かりました。」
「よぉし、ならいいよ。楽したまえー!」
テラは「ははー」と棒読みで言ってから寝転がった。少し逆上せている感じがある。
さきほど、ノラに強制的に脱水所まで連行されたテラはそれはそれは無風の凧の様であった。
シラとコウモリはと言うと、今はシラがコウモリ髪の毛をドライヤーで乾かしている状況である。コウモリはなんというか、満更でもなさそうな顔をしている。
「ねぇねぇ、テラ君。あの子名前はなんて言うの?」
ノラがコウモリを見ながら言った。
「ん、そんなの無いよ。あってないような奴からな。」
ノラが悲しそうな顔をしながらコウモリを見つめている。
確かによく考えると名前が無いというのはかなり不便である。「コウモリ!」と呼ぶのもなんとなく可愛そうな気もしてくる。
「よし、んじゃ名前つけっか!」
「お、名案だねテラ。」
シラがドライヤーを片付けながら言う。
「そうと決まればユサちゃんを起こすわよ!」
ノラはそう言って階段を上がっていった。そして、もの凄い勢いでユサを起こして降りてきた。
「ふぇ、へえ?な、なんでふか...?んえ?」
寝起きの彼女は現実と夢の中で交錯しているようだった。それをノラが顔を軽く叩いて起こす。
「おはようユサちゃん!これからこの子の名前をつけるのよ!ほら、見て!可愛い!!」
ノラはそう言いながらコウモリの頬を両手でぐりぐりと撫でた。
「おぉ、髪の毛整うとだいぶ可愛くなるな。」
テラは思わず感嘆の言葉を発した。本当に可愛くなっている。
「だろう?僕もそう思うよ。あとはこの変なパーカーを脱がせればいいんだけど、なんかこれが気に入ってるみたいなんだ。」
灰色の背中に"愛"と書かれたパーカー。彼女にとってはブカブカで、ちょうど服の裾が膝の上当たりにきているのため、いい感じに見える。
「好きにさせてやろう。で、名前だ名前。まずはみんなの意見を聞こう!」
「はいはぁい!テノラとかどう?」
それは明らかに自分とノラの名前の融合版であることを全員が理解した。
「じゃあ僕はシテラを推薦する。」
これがシラ意見。
「わ、私はサテラを推薦しますっ!」
これがユサ意見。
「きゃぁぁーーっか!!却下!ダメだお前らもうちょい真面目に考えろ。仮にもこれから一緒に暮らしていく家族なんだぞ。」
「んん、じゃあ、テラはなんかあるの?」
シラが髪をクルクルといじりながら言った。
何がいいのだろうか。
いい名前、いいなまえ、いいナマエ。
「.........シバ、かなぁ。」
みんな静まった。あれ、変な名前だったのだろうか。
「シバ...か。なかなかいいねテラ。」
「可愛らしいじゃない!テノラも良かったけど、シバね。いいと思うわ」
「流石兄さんですね。」
決まったようなので、コウモリに着名するとしよう。
「よし、いいかよく聞け。今日からお前の名前は、シバ・ヴァルターだ!」
こうして、名も無き一匹のコウモリの名前が決まった。