第二話 異変
テラはある夢を見る。
白いのか黒いのか。よく分からない人影が二つ。
近ずいて来ようとするが何かから逃げるように去っていった。でも不思議なことにそれらはテラに
笑って手を降ってきた。そこで夢は終わった。
「...うるさい。」
テラは無駄に音が大きい目覚まし時計を叩いた。
いつもの朝。と言いたかったが初めて見た少し不気味な夢を忘れられなかった。
「調子狂うなー。」
そう言いながら階段を降りるとラズミが朝食を出していた。
「おはようテラ!あら。顔色があまり良くないわね。学校休む?」
「こんなんで休むほどヘボくねぇよ。...でも少し頭痛いかなぁ。」
テラが頭を抑えてそう言うと、
「うーん。ラズトに見てもらったらどう?」
などと言う。確かにラズトは妙に色々な知識があるが、病気に関しては精神論で返してくるのがいつものパターンである。
「いや、いいよ。ラズトもまだ寝てるし。」
とうまく返しておく。するとラズミは「そう。」と言って食卓に座った。ついでテラも座る。
「いただきます。」
「右に同じく。」
「ちゃんと言いなさいー。テラ。」
「いただきます…。」
「召し上がれぇ」
ラズミと朝食を終えた後、彼は今日提出のワークをバック入れたこと確認し、洗面台で色々済ませて玄関へ向かう。そこで奴がきた。
「...うお。テラおはようー。もう行くのか。早いなあ」
ラズトはあくびしながらそう言った。
「消費家は早起きなのだよ。」
「うむ。いってら。」
そんな会話済ませ、ラズミにも挨拶をして家を出る。
「さぁ、今日も頼むぞ。俺の自動二輪型超高速移動機よ!」
「変なこと言わないでさっさと行けー。」
ラズミが手をヒラヒラとさせる。
「はいはい。」
テラの後ろ姿にラズトが視線を向けたが、ラズミはそれついては追求しなかった。
テラは登校する。
学校に着くといつも通りアルとカヤナがいた。しかし、いつになく二人はソワソワとしていた。
「どうした二人共。何があった?」
「...ねぇ。今日の放課後空いてるわよね!」
唐突にカヤナが言い出した。
「は?」
当たり前の反応を返してやると、今度はアルが言った。
「まさかね。驚きだよ。とりあえず、放課後空けとけよー。」
「訳が分からん。説明プリーズ状態だよ。」
「とりあえず今は思考フリーズ状態でいろ。」
更に訳のわからないことを言い出すアルに不満はあるが、昔からの馴染みもあり二人を60%ぐらい信じて見ることにした。
またいつものつまらない授業が始まる。隣の奴は前のデカイやつに隠れながら、今日提出のワークを必死こいてやっている。
後ろのカヤナは俺の背中に隠れながら、誰かと連絡をとっているようだ。
「ここで始まるテラ講座。まずはシャーペンを持ち、わざと落とす。それをできる限りゆっくりと拾い上げることでその間、カヤナがせんせーに丸見えの状態を作るのだ。っいだ!」
「丸聞こえですけれども。テラ君。」
カヤナはシャーペンの先を背中にプッシュしていた。
「ひでぇ奴だなぁ...。」
「どっちがよ。まったく。」
ここで救いのチャイムが鳴る。
「ふぁ、やっぱり一校時目はダルイなぁテラ。」
そう言いながらアルは大きなあくびした。
「口ぐらい抑えろや。」
「すまんすまん。ところでカヤナ。例の件は?」
「たぶん大丈夫。本人次第だけどね。」
「コラコラ二人だけのワールド作らないで。俺にも教えろよ。」
そう質問すると二人こぞって
「放課後まで待て!」
と言うばかりだった。
そして放課後。
「何でここに呼ばれるのか。」
そこはいつも三人で昼寝をしている場所だった。
着てみると、アルとカヤナ、そしてもう一人見知らぬ女の子がいたのだった。
「おお、テラ!待ってたぜ!お前にも春が来るのかぁ...。しかもあの可愛さ。やるじゃねぇか!」
そう言ってアルは背中をいつもより激しめに叩く。
「モテモテ男に褒められるのは嬉しいが、よく筋が読めん。」
「まぁまぁ、話せばわかるよう!ふふっ!」
やたらとニヤニヤするアルに引っ張られカヤナともう一人のところへ行く。
「本命登場ね。テラ、この子は私と同じ部活の春奈っていう子よ。一ヶ月くらい前に隣のクラスに転校して来た子。」
転校生と聞いてテラは色々と思い出すに至った。
あの噂の美女か。
「...どうもテラって言います。」
「はい。前から知っていました。...ああ!違います違います!そのあ、の、あ...とと。春奈と言います。よろしくお願いします。」
「はぁ」
美女はそう言うとと何やらカヤナに小声で告げた。
「じゃあ、二人でごゆっくり〜。」
アルがそう言うとカヤナと一緒に去っていった。
「んで、何の要件ですかな?」
テラがそう彼女に問うと、彼女はこう言った。
「...貴様の友とやらは使えるものだな。」
「え」
一瞬で空気が冷えたのがテラには分かった。
「あの春奈さん?今なんて.....」
次の瞬間テラの頬に鋭い痛みと暖かい液体が流れた。
「っ!?血!?いでぇえええええ!!」
かなり深く抉られたようだった。それを抑えて彼は唸るしかなかった。
「それくらいで喚くな。...まぁいい。貴様にいくつか質問がある。まず一つ目だ。貴様はラズトと名乗る男を知っているか?二つ目だ。貴様はどこまで我々のことを知っている?三つ目だ。きさ.....」
「待て待て!お前さっきから何言ってんだ!全くもって意味が分からん!てか何でラズトなんだよ!」
ラズトの名前を聞くと彼女の目が鋭く光った。しまったと思ったがもう遅かった。
「やはり知っているな?どこにいる?吐けっ!」
彼女は蹲るテラの腹を蹴り続けた。血が口から頬から流れる。こんなことは初めてで自分でも驚きである。逃げることも出来かもしれないがそれ以上に恐怖が大きかった。
「ぐそっぐうぅ!」
「しぶといヤツめ。早くしろ!!」
「...ぐふっ...何をそんなに焦ってるぅんだ...」
「貴様らには関係ない。まぁ強いて言うなら私以外の奴らがお前ら消しに来るってことだな。」
「...意味わかんねぇよ。説明しっ...っっぐふっああ!!」
容赦ない蹴りが一つテラの腹に入る。そして彼女はテラの伸びきった髪を引っ張り顔を持ち上げて言った。
「きっと貴様の友とやらも今頃消されているだろうよ。」
「...はぁ?...」
「奴らの目的はこの島の種族を全て消すことだ。私には関係ない。」
「...しまぁ?しまってなんだよ...」
そう聞くと彼女は呆れれたような態度をとって言った。
「...貴様らは本当に何も知らないのだな。」
そう言って彼女はテラの頭を壁に打ち付けた。
耳を澄ます。遠くで悲鳴が聞こえる。何故さっきまで気づかなかった。...いやさっきまでなにごともなかったのだ。今何かが起こっている。腹が痛い。喉が痛い。頭が痛い。朝の頭痛がいつの間にか酷くなっていた。それすらにも気づいていなかっただなんて。
「.....俺死ぬのかなぁ...。」
彼女に聞こえないていどの小さな声で呟く。
その時ボンヤリとした視界に何かが映った。