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その言葉の続きをまだ誰も知らない  作者: 西東 款音
第二章 終わらない一日を
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第十六話 二人の思念

「あれらぁ、凄いことになったね。」


澄美恋は瓦礫と煙で見えないくなった視界で呟いた。原因は、


テラのフル出力の薙ぎ払い。


数分前ーーーーーーーーーー


テラはコウモリの力を借りることにより、今まで出せなかったライフによる攻撃を放つことに成功。だがしかし、加減を知らなかった彼は、コウモリから貰ったライフをフルに使って放ってしまったため、


現在ーーーーーーーーーーー


完全に動けなくなっていた。


「動けるかい?全く、初心者がいきなりライフ全部使っちゃうなんて。君は馬鹿なのか?」


馬鹿であるのかもしれない。今は喋ることもできそうにないのである。


「とりあえず回復してあげるから、ほら立って。」


澄美恋はテラの体に手を当て、ライフを送る。テラはしばらくうつ伏せでいたがムクリと起き上がった。


「復活。」


「復活じゃないでしょ。誰が起こしてあげたと思ってんの...。かっこ悪いねぇ。ほら見てごらんよ、せっかく見つけたいい隠れ家が君のせいで崩れちゃったじゃないか。」


そう言われて見渡してみると、凄いことになっている。地震でもあったかのような状態だ。


「ヘルネスの人達はギリギリで回避して逃げたよ。まぁビビってたね。」


「俺が頑張った意味ぃーー」


「うん。最初にしてはよく頑張ったよ。」




空が見える。もう日が大分沈みそうな...


「やばいっ!!ヘルネスが来る!」


「うわぁ今思い出したの?君が言って感じだとあと三十分ぐらいしかないよ」


「まじか」


「まじで」


これはやってしまった。急がなくては。


「ほら、行きなよ。僕のことは気にしなくていい。お礼くれるって言うんなら何もいらないよ。」


澄美恋は手をヒラヒラとさせて言った。またこの人はなんともよく分からない人だ。


「ありがとう。じゃあな澄美恋!またどっかで会おう!!」



テラは進む。




「......。菫の花は恋の花〜私はあなたに会いにゆく〜......。あれら、続きなんだっけ。」


澄んだ美しい恋は空に響く。




「仕事完了。次は刀と酒かぁ。ふぇ面倒面倒。」



拝啓 右昇 澄美恋











敬具


ーーーーーーーーーーーーーー



テラはあの場所に着いた。醜い死体の山があった場所。幸いまだヘルネスの姿はなく沢山の人で賑わっていた。


ここに来る前に仕留める。


彼らは、街の中心に伸びた大通りを海岸の方からやって来た。今回も同じなら海岸の方に向かえば良い。


「おいテス!行くぞ!!」


シリウスの呼びかけに手で応える。遂にあの時間が来ようとしている。

血の匂いや死体だらけの光景。もう二度と見たくはない。


「みんなを助ける。」


そのために今は自分で戦う。敵と戦う。


テラは走り出すシリウスに近づいた。何やらずっと耳に付いたマイクのような物をいじっている。





「テス、先に回って情報を掴んだからよ、俺は奴らのところに行くからお前は街の人を逃がす前に、この紙に書いてある場所に行ってくれ。そこに白いマントを羽織った奴らがいるはずだから、そいつらに俺の名前をこの勲章を見せろ。それだけでいい。」





「は?」





「は、じゃないだろ、みんな死んじまうんだろ?速く行ってくれ!」


「俺も戦うんだよ!奴らの好きにはさせない!俺が戦うんだよ!」


テラは走っていたシリウスの腕を掴んだ。だがその思いは絡まっていく。


「分かってる。みんなの避難が終わったら俺にこれで連絡をくれ。頼む。お前ならできる。」


シリウスに耳に装着するマイクを手渡された。シリウスとは色が違う。

だが、今はそんなことはどうでもいい。


「俺が戦わなくちゃならないんだよ!避難させるのはお前にも出来るだろ?一緒にやればいいじゃねぇか!」


困った顔をするシリウスは、ただテラの目を見続けた。そして、テラの手を握った。


「すまん。これは俺の問題でもあるみたいなんだ。ケジメをつけたい。あとで絶対に合流する。そして一緒に戦おう。約束する。」


「本当か?」


人は同じことを繰り返す


「あぁ、約束だ!」


あぁ、前にもこんなことがあったな

嫌だな。本当に嫌だな。


「...分かった。」



シリウスはテラから離れていった。テラはただそこに立ち続けていた。呆然と。

避難はさせた方がいい。当たり前だ。

だが、自分が戦わなくてはならないはずなのだ。アオイのことを知っているのは自分だけ。ヘルネスの目的、望みを知っているのは自分だけ。

助けられるのは


「俺だけだ。」


もう、何も出来ないのは嫌だ。何も知らないのは嫌だ。


それにシリウスだって危ないのだ。ヘルネスの狙いはシリウスの誘拐である。


テラはシリウスのあと追おうと足を踏み出した。


だが


「シリウスと自分。どちらを選ぶ?」


あのシリウスのことである。何か考えがあるはず。きっと...


澄美恋に会えたのも、コウモリを手に入れられたのも、アオイに会えたのも、元を正せば全てシリウスのおかげである。




どちらを信じる?






「もう一度、信じてもいいよな。」


テラは自分に拳をかました。


頬がヒリヒリとする。


シリウスを信じる。自分の欲求を抑えろ。これで、失敗するようであれば


「よし、行くか。」


自分を選べばいい。



その後テラはユサに連絡をとり事情を説明した。彼女はキュレネを出た後買い物を済ませたようで今は、家にいるらしい。

避難の手伝いをお願いすると、彼女は快く受け入れてくれた。


集合場所は大通り。


十分後、彼女はしっかりとそこにいた。


とりあえず目的地に向けてテラとユサは走り出した。


「兄さん、これからどうすればいいのですか?」


街の裏路地を走っている中ユサは聞いた。


「会わなくちゃいけない人がいるから、そいつのところに向かう。」


「...了解です。」


ユサは何も聞かない。必要以上に質問はしてこない。自分の妹には勿体ないぐらいだ。


「ありがとう。」


「いえいえ。兄さんのためですから。」


テラは笑った。ユサはそれが面白くなかったのか、不満そうな顔を見せる。とても可愛らしい。


「よし、もう少しで着く。」


ずっと走っていたため、息は切れかけているが、それは気にせず走る。


そして目的地に着いた。


「あいつらか。」


裏路地の中でも奥の方に、白いマントを羽織った人が二人立っていた。何とも言えない雰囲気を醸し出している。彼はテラ達に気づいたのか、こちらを見つめていた。


その二人に恐る恐る近づいてシリウスから貰った勲章を見せた。すると


「うおっ!」


いきなり肩を叩かれた...


「待ってたぜ!てことはお前がテレスだな。俺らはエレクトル家の騎士だ。名称的には"エレクトル騎士団"。よろしく頼む!」


そう言った目つきが鋭く赤い髪の背の高い男はテラの手を握りブンブンと振った。


「は、はぁ。」


「こら、困ってるじゃないの。辞めなさい、ガルディ。」


青い髪の凛としたテラよりも少し背が高いぐらいの女が男の頭を拳で殴った。


「何すんだクワイア!痛てぇだろ!!」


とても賑やか二人。


「何ってあんたテレス君のことを困らせたから殴ったのよ。」


「まんま言うな!!オブラートにいけ!そこはぁ!!」


「愛の拳をプレゼントしてあげたのよ。」


「あ、良い。」


「馬鹿。」


「痛てぇ!また殴ったな!」


こんな感じで二人はずっとガミガミ言い合っていた。


「あの、こんなことしてる時間ないかもです.....」


テラが呼びかけると二人はハッとしたように言い合いを辞めて謝った。


「すまん。そうだな。」


「ごめんなさい。では、我が君主様の計画を遂行するとしましょうか。」


ガルディとクワイアの二人はテラたちに先行して走り始めた。


「まず、この街の人を避難させるために全体放送を流すの。もうその手筈は済んでいるから大丈夫。」


「んで、みんなの避難が完了したら主様に連絡して救出に向かう、って感じだな。お、始まった。」


二人の大まかな説明が終わったと同時に、放送が流れた。


『緊急連絡。緊急連絡。これより避難を行います。近日から活動していたヘルネス軍の襲撃が行われる模様です。住人の皆様は慌てず、落ちついて避難してください。もう一度繰り返します......』


「で、俺たちは避難の誘導をするってことですか?」


「その通り!」


ガルディが満面の笑で答えた。


街の人達の誘導は簡単なものではなかった。いきなりの避難に愚痴をこぼす人もいれば、恐怖のあまり動けなくなる人もいた。


「だ、大丈夫ですか?」


テラは道にうずくまる人を見つけた。五十代くらいの人だろうか。何かをブツブツ言いながら両手で髪を掻き回していた。


「もうダメだ。何なんだよ。色々おかしいんだよ。...。もうおしまいだ。」


「いいよ。私がやる。」


テラがその男に手を伸ばそうとしたとき、クワイアがその手を止めた。


「大丈夫ですよ。私達が皆さんをお助けします。信じてくださいっ!」


彼女は男の手を両手で強く握り言った。


「あなたが生きないでどうするの?」


その目には何が映っているのだろう。


彼女の言葉で男はようやく立ち上がってゆっくりと歩き始めた。


「テラ君。」


「はい。」


クワイアは歩いていく男の後ろ姿を眺めながら静かに言った。



「私たちを、信じて。」



自分は馬鹿だ



その言葉は重くテラにのしかかった。

テラは情けなさと恥ずかしさのあまり、ただ下を見つめることしか出来なかった。


「おいテラ、何凹んでんだ!まだ避難は完了してねぇぞ。今出来ることくらいは精一杯やれ!」


ガルディがテラの背中を軽く叩いた。その手はとても重く感じた。重く、重たく、のしかかる。


励まされるだけだなんて、そんなのは駄目だ。


テラは避難の誘導を再開した。



それから三十分ほどして、街全体の避難が完了した。大分早かった。あっという間だった。


「予想以上に凄い速さで終わったな。」


「そうね、街の人とテラとユサの協力のおかげね。」


そう言って二人は優しく笑いかけてくれた。テラは恥ずかしかったが下を見ることはなかった。


「じゃ、連絡するか主様に。」


ガルディは耳に付いていたマイクをいじり始めた。テラもシリウスから貰ったマイクを耳に付ける。


「こちらガルディ・アッシェルグ。シリウス様、応答お願いします。」


最初は誰もが順調だと思っていた。何もかも予定通りだと。だが


「シリウス様?シリウス様っ!どうされました!!シリウスさっ......ま...。」


そんなに世界は甘くはない。


「どうしたのガルディ!」


ガルディとクワイアがかなり深刻そうに話しをし始めた。これはとんでもない事になってしまったのかもしれない。


「兄さん、シリウスさんがどうかしたのですか?」


ユサがテラの顔を心配そうに見上げて聞いた。

テラはユサの手を握った。


「兄さん...。」


もう、失いたくない。守ってみせる。


「これから、シリウスの救出に向かうんだ。ユサ、もう少し付き合ってくれ。お前の力が必要だ。」


「......。どこまでも、ユサは兄さんの味方です。」


彼女の言葉に偽りはない。そういう子だ。だからこそ、テラは。


「お前は俺が守る。絶対に。」


少し嬉しそうに笑う少女が一人。

兄の手を握り直す少女が一人。

そこにはしっかりとユサがいた。

ユサ・ヴァルターが。


しばらくすると話し合いを終えた二人が、テラのもとにやって来た。


「テラ、ユサ。シリウス様がヘルネスに捕まっちまった可能性がある...。悪いだが今から戦闘になるかもしれない。君たちを戦闘に巻き込みたくはない。だから...」


「だから、ここで引けと?」


テラはガルディと言葉を遮って言った。


「あぁ。死ぬかもしれない。そうなったら責任が取れない。」


死ぬは誰でも怖いことだ。少なくとも普通の人間なら。だが、今はやらなくてはならない。


「それでも構わないっ!一緒に行かせてください!!」


「私からもお願いします!」


テラとユサは二人でガルディとクワイアに頭を下げて懇願する。流石の二人も申し訳なさそうな顔をした。


「分かった、分かったわ!だから頭を上げて!もし一緒に来るとなると、さっきガルディが言っていたようなことが起きるかもしれないけど、いいのね?」


「はい。俺はシリウスを助けたい。そのために戦いたい!」


テラはクワイアの目に訴えた。曲がりのない嫌になるほど真っ直ぐな目で。


「ガルディ、行くわよ。作戦メンバー二人追加しておいて。」


「了ぉー解。」






シリウス奪還作戦の開始である













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