第十三話 生存者
テラはまた夢を見ていた。いつもと同じ青い空に白い世界。それはそれは綺麗な美しい世界に...
一人でいる。
ここで色んな夢を見てきた。それもここ数日で。でも今日は誰もいない。本当に一人。
俺はあの後どうなったんだろう。
思い出すにも思い出せない。
どうなったんだっけ。
ユサが死んで、街が襲われて。
夢だといいな
そんなの有り得ないか。とりあえず起きなきゃ。悪い夢から起きなきゃ、いけない。
なぁ起きろって テラ・ヴァルター。
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「兄さん?大丈夫ですか?」
聞こえた声は涙が出そうになるほど聞きたかった声だった。テラはその声に呼ばれるように目を開けた。
「兄さん?なんでいきなり倒れるんですか!心配したじゃないですか!もうっ。」
ユサはポコポコと頭を叩いて怒った。テラは何も言えず、ただ だらしなく泣いた。
「おい、兄ちゃん!大丈夫か?おお、泣くな泣くな!」
聞き覚えのある声。
「大丈夫かしら?立てる?」
これも聞き覚えのある声。
テラはその声のせいでまた涙を零した。
「夢だったんだな......。良かった。」
「え、兄さん、ちょっと......」
テラはユサを抱き締めた。強く抱き締めた。
もう離したくないのが本音だが。
「おっとこりゃ行けねぇな。失礼したぜ。」
夫婦のような二人が申し訳なさそうにその場を離れていった。ユサは周りをキョロキョロして顔赤くしているが、そんなことは今はどうでもいい。
ただひたすらに
「...生きててくれて良かった...」
「そんなユサが兄さんを置いて死ぬはずがありません!それより......は、恥ずかしいですよ...。周りの人が見てます...。」
テラは我に返ってユサを身体から離した。
よく周りを見渡すと、そこは家から出た場所でもあり、ユサの死体があった場所でもあった。
何か引っかかる。確か自分はここで泣き疲れて眠ってしまったのだ。そして寝ていた場所で間違いない。ここでユサと待ち合わせをしていたのだ。夕方になったら来ると。
「なぁ、ユサ。お前は昨日のことを、覚えてるか?」
「はい?えぇ、昨日はみんなで家の大掃除をしましたね。」
「へ?」
どういうことか。それは一昨日の話だ。
「兄さんどうしたんですか?さっきからおかしいですよ。いきなり泣いたり、死んだとか言ったり、服もボロボロですし。」
「それはどう...ッ?!痛ッ!!!」
テラは驚きのあまり身体を起こそうとしたが腰の辺りに激痛が走ってそれができなかった。
慌てて腰の方の服を上げた。するとそこには大きな傷があった。確か昨日謎の男に吹き飛ばされたときにできた傷だ。
「何ですか!?兄さん!その傷は!?」
ユサが治癒魔法の様なものを発動した手をテラの腰にあてた。
確かこの傷は昨日謎の集団の男にやられた傷で。
その瞬間昨日の記憶が加速して蘇ってきた。それと同時に激しい怒りが込み上げてくる。
ヘルネス。そう、その集団だ。そして何よりも謎なのが、
「アオイだな。」
ふと彼女のこと思い出すと、サラさんとシリウスのことも頭によぎった。そういえば、
「シリウス?あいつ、連れ去られてなかったか?」
テラはユサに治して貰っている途中に関わらず立ち上がって、アオイが消え行った方を向き歩き出した。
「ちょっ...兄さん!待ってください!そんな状態で動かないで!」
ユサが走って付いてくる。
テラは必死に歩き続けた。だが彼の姿は見あたらない。結局海岸まで来てしまった。
「なんで......。もう連れ去られたのか?」
テラは膝を折り、海を見つめた。間に合わなかったようだ。
「すまねぇシリウス。くそっ。」
「兄さん......。」
ユサは下を向くテラの背中を優しく撫でた。テラはただ、下を向き続けた。
「シリウス。例えお前が死んでも、俺はお前のそこ絶対に忘れない。絶対に......。」
また何もできない。
一昨日まで普通の男子高校生だったのだ。
でも、それでも。
「おいおい、勝手に殺さないでくれよテスよー。」
神様は悪戯に笑う。
その声は
間違えない。
テラはハッとしてその声のする方を見た。
「そんな顔すんなよ。こっちが悲しくなるわ!」
シリウスだ。
彼はテラの頭をグーで一発殴ってきた。いつもなら殴りかかるだろうが今はただひたすらに嬉しかった。
「なんで?連れ去られたんじゃ?」
「そうなのか?俺酒飲んで酔い潰れた後覚えてねぇんだわ。気づいたら海岸の端っこで寝てたよ。ビックリだね。」
なぜだか得意げにそう話しているシリウスだが、一つ心配ごとが無くなって安心した。生きててよかった。
テラは涙を拭って立ち上がった。
「とりあえず無事良かったぜシリウス。こっちが昨日話した妹のユサだ。よろしく頼むぜ。」
「おうよ。話に聞いてるよユサちゃん。予想通り可愛いなぁ!」
ユサはいきなりの言葉顔を赤くして下を向いた。また、可愛らしいものだった。
「ていうかおい、シリウス。話したいことがあるんだが、キュレネに行かないか?」
テラは真剣な顔に戻りシリウスに言った。
「構わんがどんな話だ?」
「とりあえず待ってくれ。聞き込み調査もしなくちゃなんねぇ。」
「ん?そうなのか?」
テラはユサとシリウスと連れて商店街へと向かった。
テラが商店街で一度顔を出した店に聴き込んだ内容は二つ。
まず一つ目は、「今日は何日か。」ということ。
そして二つ目は、「俺を覚えているか。」ということだ。
全てに聴き込んだところ、どの店も昨日の日付を答え、どの店もテラのことを覚えていなかった。はて、どうしたものか。
聞き込みを終えて、キュレネに向かう。その途中シリウスと何個かの結論を出した。
まず、服や傷跡が物語っているように、テラとシリウスの中には昨日がしっかりと存在していたということ。
もう一つは"昨日に戻っている"ということ。
そして、なぜだかよくわからないが、シリウスとテラは昨日の記憶があるということ。シリウスが泥酔していた時の記憶は置いとくとして。
最初はシリウスも"次の日"を迎えているものと思っていたが、聞き込みしているうちに納得してくれた。
また、謎も幾つか浮かんだ。
まず、何故テラとシリウスしか、昨日の記憶が残ってないのかということ。また何故、格好、傷、起きた場所、これらは昨日を終えた時の状態なのか。
徐々に泥酔時の記憶を薄らと思い出してきたシリウスが言うには、変な集団のやつらに囲まれて、月が登るまで海岸で放置されてたらしい。そして、移動することになったのだが、波が少し高いか何かで出航できず、シリウスは待ってられず寝た、らしい。
色々と謎が多い。ユサにも話してみたが、心当たりがある前に、話についてこれていなかった。この様子を見るに、本当に昨日の記憶は無いのだろう。だが、シリウスに偽名を使っているのをしっかりと察してくれたのは有難かった。
話しているうちにキュレネについた。シリウスはこちら一度だけちらりと見て小さく頷いた。テラも同じように頷く。そしてシリウスが扉を開いて店に入っていく。
「よぉ!姉さん!昨日ぶりだな!」
シリウスは、さりげなく記憶の有無を確かめるセリフを投げかけた。そしてサラさんの反応は予想通りだった。
「昨日?シリウスさん昨日は来てないわよ。一昨日は来てたけど。それで後ろの二人は誰かしら?」
「あ、テレスと言います。そしてこっちは妹のユサです。」
「ユサです。どうも。」
テラとユサはペコリとお辞儀をした。そして店に入っていく。そして、そこに無愛想な顔で今日も彼女は座っていた。
「あぁ、その子のことは気にしないで。私の妹のアオイって言うだけど、愛想が無いのよね。ごめんなさいね。」
アオイ。
彼女は昨日シリウスを連れ去った。そして何よりもヘルネスの一員のような素振りを見せていたことが問題だ。彼女は"昨日起きたこと"と、"今日起きること"を知ってるはずなのだが。まずは、彼女と話してみないとわからない。
テラはアオイの隣に座ってジンジャーエールを注文した。テラの隣にユサが座りその隣にシリウスが座る。
「こんにちは、アオイ。俺はテレスって奴だ。宜しくな」
彼女は本を読みながら小さく頷いた。小さい割に笑顔が少ないことを除けば普通の女の子に見える。
「そうだ。アオイにこれをあげよう。」
テラは先ほど商店街で買ってきたアクセサリーをアオイにあげた。人形などでもよかったが、彼女の性格を見るにその様なもの好みそうにないという勝手の自分偏見である。
彼女はアクセサリーを手に乗せるなり、それをしばらく見つめて静かに言った。
「......綺麗」
「そうか、喜んでくれたならよかったよ。それは首にかけて使うんだ。付けてやろうか?」
彼女は小さく頷いてテラにアクセサリーを手渡した。それをアオイの首にかけてやる。
「......。なかなか似合ってるな。」
思わずテラは言葉を零してしまった。紅く輝くルビーのような宝石でできたアクセサリーなのだが、先に口にした通りなかなか似合っている。
「なんで、私に...。」
彼女は突然の贈り物に驚いている様子だった。当然である。テラは一回会っているが、彼女は今、テラと初対面なのだから。むしろ、抵抗しない彼女の方にテラは驚いていた。
「んとね、なんてっか可愛かったからだな。」
「.........。どうも。」
アオイはツインテールの髪を弄り気恥しそうに言った。それはそれは、可愛らしい。
「ところでなんだがアオイちゃんよ、初対面な奴に質問されたら怒るかな?」
彼女は"何を言ってるんだこの人は"と今にも言いそうな顔した。まぁ当然のことなのだが。だが彼女の返事は案外、いや存外、んん意外、どれも一緒だが思いのほかいいものだった。
「構わないですよ。私も少しあなたに興味があります。」
なんとも返しがたい言葉を後ろに付けられたが、気にせず進む。
「おお、ありがとう。」
「なになに、アオイ!今日は喋るね。なんかいいことでもあったのかな?」
カウンターから綺麗なサラお姉さんがアオイに明るい声で言った。なんだか嬉しそうにしている。
「うるさいです。サラ。」
「素直じゃないなぁ、まぁいいよ。」
そんな掛け合いを繰り広げている二人は、とても兄弟に見えた。それは本当に。
「じゃ質問するよ。いいかな?」
アオイは軽く頷いたのだった。




