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白き光よ降り注げ!  作者: YGkananaka
第二章 ――ホワイトリベンジ――
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第五十三話 立ち上がる




 俺は一瞬、よろけそうになる体を気力と根性だけで踏ん張んるや……すぐ傍にある、上層へ至る階段を直ちに駆け上っていく。

 ……ああ、わかってるよ。またやるんだろっ!

 しょうがないのだ。

 両手が塞がっているという状況で火炎地獄を即座に突っ切れる速度を生み出し、かつ、二人に極力ケガを負わせない方法となると……壁に頭突きぶちかまして強制的に減速する、つまり力技で〝ブレーキ〟をかけるしかないのだ。

 もしかすると、さらに賢い切り抜け方があるのかもしれない……が、残念ながらその方法がまるで湧いて来ない。

 結論。足りない脳は力技で補うしかない。

 俺は体中に痺れるような痛みが走るのをどうにか堪え、気合い振り絞り上を目指して前進を再開する。

 熱さと疲労で額から汗が滝のように流れ落ちてくる。だが、俺はロクに拭うことも出来ぬまま次の室内へ入り込んでいく。

 そして。下層でやったことの繰り返しとばかりに渾身の力で壁を蹴りつけるや、スーパーマンみたくぶっ飛んでいき……壁に激突寸前、すかさず首を振りかぶり頭突きを叩き込む。

 あああああああああああぁぁぁぁ…………。

 痛い……痛い……痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 頭突きはやる方だって痛いのだ!

 当たり前の事だが、俺一人なら……もっと被害を抑えるよう振る舞うことが可能だった。

 …………だが、別にいい。

 俺が耐えることで二人が助かるなら……喜んで頭蓋骨を捧げてやる!

 続けて六階。今わかったが、部屋に入ってから次の部屋へ到着するまで約十五秒の時間を要するらしい。

 ということは。順調にいけば、後九十秒程で全ての部屋を通過し地上へ脱出できる……ハズ。

 だが、問題としては……その間ずっと姉弟が息を止め続けていられるかだ。絶対に煙を吸い込んではいけない。

 とにかく俺が急ぐしかない。その確固たる決意のもと、全身全霊の力を注いで俺は出口目指して疾走していく。

 そうして。さらに五階、四階と突破していった俺だったが……。

「――っっ‼」 

 ウソ……だろ⁉

 二人の呼吸の心配をしたくせに、肝心の俺が徐々に苦しくなってきた。

 体が、肺が……突然激しく酸素を要求し始めたのだ‼ 

 だが思えば……体中を脱力させひたすらじっとしているならともかく、これほど激しく活動しながら、今に至るまで息を止めらていたはスゴイことかもしれない。

 というか、昔の俺ならすでにぶっ倒れていて不思議じゃないだろう。

 た、耐えろ……うぅっ……耐え……ろ……。耐えろ耐えろ耐えろっ……。

 俺は苦しみを紛らわすよう瞳を一層険しくさせる。

 ……。

 ところで……火傷はともかく。今の俺は一酸化炭素中毒――煙の吸い過ぎで死ぬような事があるのだろうか? 確かに体は相当丈夫になったが……。

 ……。

 ああ……ダメだ。

 どうやら他の事を考え、気を紛らわそうとしてもダメらしい。

 くっそぉ……。

 もうちょっと……もうちょっと……なのに……。

 なんで……だ……よ……。

 毎度毎度、俺は詰めが甘すぎる……そんな溢れんばかりの後悔の念が、不意に心へ影を差した。

 ……そしてついに。

 肉体が限界を迎え……三階へ続く階段途中で俺の動きは止まってしまう。

 そうして……息継ぎするため。やむを得ず、俺は口を開けたのだが……。

 ‼

「……ごほっごほっ……。ごほっごほっごほっ……がほっ……」

 酸素を肺へ取り込もうとした瞬間、猛烈に咳が溢れ出て止まらなくなる。

 今まで呼吸を止めていた分、一度に吸い込む量も多くなってしまったのか? とにかくむせてむせてたまらない。

「ごほっ……ごほっ、ごほっ……」

 俺は姉弟をゆっくり階段上へ降ろす余裕すらなく……止めどなく咳き込む口元を手で押さえながら、急にしゃがみ込む。

 く、苦しい……。

 目と喉、肺の辺りが軋むような痛みを訴え始める。さらには、暑さが原因ではない嫌な汗が体中からぶわっと湧き出し、瞳からは自分の意思と無関係にぽろぽろ涙が流れ出す。

 さっき気を紛らわす時に考えた〝煙で俺は死ぬのか?〟という問い。どうやら答えは〝イエス〟だったらしい。

 死の足音が着々と自分に向かってにじり寄ってくる感覚を俺は全身で確かに感じ取った気がした。

 こ、この……まま……じゃ…………もう……。

 あっという間に意識が刈り取られそうになる。さらにはだんだん頭の中がボンヤリして、考えが上手くまとまらなくなってきた。

 ウソ……だろ……?

 ……こんな。

 ……こん……な……ところ……で……。

 諦めて……たまる……か…。 

 

 ――その時だ。 


 突然、俺の後頭部が東子の両腕にがっしり掴まれたかと思いきや……キスされた。

 しかもそこで終わらず、流れるように東子の舌が俺の口内へ強引に侵入して来る。

 余りに衝撃的すぎて苦しみを感じていた意識が一瞬でどこかへぶっ飛んでいき、視界も頭の中も真っ白になっていく。

 ――が。

 すぐにわずかながら酸素が流れ込んでくるのを理解する。彼女は一体、どれだけ酸素を貯め込んでいたというのか?

 これ……は……『人工呼吸』……とかいう……やつ、か?

 果たしてこの状況で彼女の行動が有効的、実践的なものかどうかはわからない。何せ俺は医療的知識皆無だ。もしかするとこの状況では逆に危険な行為かもしれない……。

 けれども。とにかく俺の身体には多大な効果があったらしい。

 これが〝思い込み〟か、それとも本当に酸素を得たことによる影響かは不明だが……わずかながらの活力が自分の中で蘇る感覚を得た。

 ……。

 若干朦朧とする意識の中、まるで目に見えない糸に引かれるかのごとく再度立ち上がった俺は、改めて二人を両脇に抱え込む。

 そして気力全てを振り絞り……灼熱にも勝るような熱い魂を瞳へ注ぎ込むような思いで前方を睨み付けると、そのまま一歩、また一歩……歩みを進めていく。

 三階……二階……一階……。もはや俺はほぼ完全に無心だった。

 ただ、〝速く進め!〟という心の声に導かれるよう、ひたすら四肢に力を込めていくだけ。

 不思議な感覚だ。今まで味わったことのないような……上手く言葉で表現できない、そんな奇妙な感覚に包まれるような……。


 ………………そして。


 ついに。

 バンッ‼ 

 荒々しく扉を開け放つや……『地下室』から『施設の廊下』へ勢いよく飛び出した!

 そのまま三人揃って受け身もろくに取れないまま、力なく廊下へ倒れ込む。

「「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」」

 荒々しく呼吸を乱した宇津白姉弟は、何度も何度も、息を吸って吐いてという行為を反復し続ける。 

「はあっ、はあっ、はあっ……。早く、出口に……行かないとな」

「ああ……さ、さっさと……はあっ……出ちまおう……。霧白……起きろ」

「……霧白君? おい! 霧白君! どうしたんだ!」

「霧白……⁉ くっ……姉さん、取りあえず施設の外に――」





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