第四十九話 手伝い
どおりで今、俺が進むと会話をする時間があったわけか。単純に接近速度が低下している良い証明だろう……。
「なんだよ……手伝ってくれるのか霧白」
「……そう…………だっ‼」
先ほど進と戦っていた警備員がついに俺達を斬りつけられる範囲にまで到達してきた。すかさず迎え撃とうと、俺は警備員の前へ矢の如く勢いよく躍り出る。
すると、右方向から俺の胴を削り取るように横なぎの刃が振るわれてきた。
確かに動きは多少なりと鈍くなっているが……それでも、相手を真っ二つに切り裂くのには十分すぎるスピードだ。
「くっ‼」
ギリリと歯を食いしばりながら、水平に繰り出される警備員の刃物状の腕に合わせ、俺は強引に腰を捻る。
そのまま全ての集中力を眼球へ注ぎ込むや、両手を流星のように素早く突き出し――パンッ! と拍手するように両手を合わせ、迫りくる左腕を捕らえた。
やった! 成功だ!
これは『白光流』の技じゃない。ただ横向きに……変な体勢から実践しただけの〝真剣白刃取り〟である。
さらに。俺は相手に右腕を振るう隙を与えさせないよう即座に左足へ力を込め……相手の腹部に蹴りをめり込ませた。
体勢が悪かったせいでイマイチ脚に体重が乗らなかったが……それでも相手を怯ませ、数歩なりとも引き下がらせる。
「霧白! お前がいれば勝てるかもしれん」
「どうやってだ!」
「見ろ! 首だ! アイツの頭と体がくっついている場所。あそこだけ細くなってる。あの首っぽい場所を俺が切り落とすっ‼」
「出来るのか!」
「試してない技がある! それでやってみせるっ!」
進は疲労を全面に滲ませていたが、それでもまだ敵を見据える瞳には、マグマのように熱い闘志が滾っている。
「何をすればいい!」
「どっちかを俺の方へ……方法はどうでもいい! 頭がこっち向くようにして、勢いよく飛ばしてきてくれ!」
「わかった!」
さんざん目撃したのでもはや疑いようもないが……進の実力は紛れもなく相当なものだ。事実、ここまで警備員の熾烈な重攻撃を凌いでいる。
その進が〝可能〟と宣言したのだ……なら、信じよう。その思いで、俺は進の頼みに即答してみせた。
進は部屋の隅に転がしていた鞘を回収すると、そのまま刀身を鞘へ収める。
それから。進は両脚の位置を踏みしめるように確かめながら、重心をずらし前傾姿勢を取った。それと同時、腰だめへと日本刀を静かに構えてみせる。〝居合切り〟をする気か。
……さて、俺は自分の仕事を果たさなくては……。
先ほど蹴り込んだ警備員目がけ、再度俺は突っ込んでいく。
無論、相手は対抗すべく腕の刃を閃かせるのはわかっている。問題は両刃の腕がどの角度から俺に向けて襲来するかだ。
さあ……どう来る……?
神経を著しく際立たせ、警備員の怪しげな腕の挙動に備える。
――――左右からかっ⁉
警備員は十字を斬るような軌道で俺を狙ってきた。
しかも両側から飛来する致死の斬撃は……小賢しいことに、ほんの数秒であるものの時間差をつけてくる。
加えて。横なぎに迫りくる刃の軌道は腰元と首、という絶妙に避けずらい箇所へ刃を振るってきた。
……ならば。
咄嗟の判断を実行すべく、俺はただちに両脚へ力を込める。そして――
左斜めの中空へ――跳躍した!
そして。左斜めから袈裟斬りのように俺の腰へと襲い掛かる紫色の鋭利な刀腕を、縄跳びするみたいに紙一重で回避。
さらに……俺の首筋を断ち切らんとしていた右の一太刀も、続けて回避してみせる。
俺はただ跳躍したのではない。両手両足が天井にべったりと触れるくらい、〝高く〟飛翔したのだ。
…………自分でも思うが、毎度毎度懲りずに力押しな切り抜け方である。
〝頭が下、足が上〟と天地の向きが入れ替わるよう、空中で強烈に身をねじらせた俺は…………短く息を吐き出しながら、天井を軽やかに蹴りつけた。
相手の両腕が宙を虚しく空振りした直後――俺は相手の右腕を引っ掴みながら、体をくの字に曲げるようにして着地。しっかり、足裏で地面を踏みしめる。
そのまま休む間もなく流れる様に自身の胴体を半回転させつつ、警備員の片腕を背負い込み……急激に腰を低く落とす。
そして、足と腰を連動させるように捻らせて――力強く相手を地面に叩きつけた!
〝背負い投げ〟だ。一応技が決まりはしたものの、心なし甘く決まった感触がした……。
が、今それは些末な問題にすぎず……肝心なのは地面に倒したことだ。
瞬時に俺は床へと伏す警備員の頭部を掴みかかる。
だが、相手はすかさず反撃を繰り出してきた。不可思議にも一切の音を生じさせずに腕の真ん中辺りをグニャりと九十度近く曲げるや……俺の顔面目がけ鋭い剣尖を高速で突き込んで来る。
「……っ!」
しかし――その攻撃は瞬間的に首を横へ倒すことで回避した。
俺の頬からほんの数センチ程の距離を素早い刺突が通過していき……背中にゾッと冷えるような感覚が走り抜ける。
その奇襲は一度食らっている。当然、再度仕掛けられる可能性も考慮していたのだ。
俺は警備員の頭部を握る手に渾身の力を込めつつ、勇んで立ち上がると…………野球の投手みたく腕を大きく振りかぶり――進へ〝投げつけた!〟
行っけぇぇぇっ‼
進は……肩幅よりも若干広めに両足の間隔取りつつ、非常に重心が低くなるような姿勢で刀を構えている。さらに、警備員の飛来軌道へ合わせ細かな位置調整も忘れない。
警備員が銃弾のように勢いよく飛んでいく。俺は呼吸も忘れ……その行方を見守る。
「【白……亡】‼」
あの構えは……。
『白光流』の技、【白鳴】にとてもよく似ている。かつて俺が長の付き人の『白中』に放ち、施設入り口の自動扉から外にまで吹き飛ばす威力を誇った技に……。
〝カウンター〟のような技だ。相手の接近する勢いを利用しつつ、さらに相手の意表を突くことも出来るので……決まれば威力は強大なものとなる。
進は高速で迫る警備員を厳しく睨みつけながら、体重を後ろから前へ、無駄のない流麗な動作のもと一瞬で移動させるや――――抜刀したっ‼
煌めく白銀の刀身が爆発的に閃き、宙へと美しい弧状の剣線を描き出す。
…………。
………………。
……………………⁉
「斬れた……」
す、すごい……こんな土壇場で有言実行――見事成功させやがった!




