第四十五話 図形
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地下十階も上層同じく、学校の教室二つ分くらいの空間が存在していた。
四角い部屋。壁は白く明るさはまたまた薄暗くなっていた。
一応。これでも「ついてくるな」と言われた身であり……ひとまず階段の陰へ静かに身を潜めつつ、そっと室内の様子を窺う。
これまでの部屋とはえらく異なり、内部にはビックリするくらい何も物が無く……いや、一つだけあったか。
壁の隅っこにぽつんと一つ〝箱〟があるのだ。どことなく平べったい印象を受ける長方形で暗い紫色の箱。サイズは大きめ。
また、左側の壁が特徴的であり……というのも、壁全面がテレビ画面みたいなモニターによって完全に埋め尽くされているのだ。
そして。各画面には俺がここまで通過してきたと思しき全ての『地下室』風景が映し出されていた。
一瞬、あの天井四隅から飛び出てたのが〝監視カメラ〟というモノだったのでは? という推測が生まれたが……すぐに間違いだと考えを改める。
どの映像も俺の目線少し下くらいの高さから映し出されているのだ。
恐らく、たくさん存在していた棚のどこかに〝監視カメラ〟とやらが設置してあったんだろう……。
!
俺はさらなる情報を求めようと、階段の陰から少し顔を乗り出し……慌てて引っ込めた。
いたっ! 二人だ!
カンッカンッと不規則に金属同士が衝突するような高音が幾度も発生している。
視界に捉えた瞬間反射的に隠れてしまったが……二人はこちらに背を向け〝何か〟と戦っていた。
だが……俺はすぐさま自身の感じたことに疑問を抱く。
――――〝何か〟って、なんだよ。
ひとまず曖昧な情報をより正確にしなくては。俺は再度様子を確認すべく物陰から頭を出す。
「…………」
結論からして、やはり姉弟が果敢に挑んでいる相手のことを……俺は〝何か〟としか表現できなかった。
本当に〝何か〟なのだ。
少なくとも、一つ断言できることは……『人』じゃない。
けれども……人型を成してはいる。
長は「地下十階にいる『警備員』が殺した」と証言した。しかし……どうも俺のイメージしていた警備員とは外見が著しくかけ離れている。
想像では細身で高身長、白く丸いお面をかぶり、いかにも警備員という服装をし、宇津白姉弟に難なく倒されてしまった男と似た風貌のヤツ……が、いるものとばかり思っていた。
だが、現実はだいぶ異なる。
身長は進と近似しており……百七十と数センチくらいか?
肌は……肌? とにかく表面は、部屋の隅に置いてある箱のような黒っぽい紫色をしている。
そして何より……最大の謎がその全身図。
〝図形〟なのだ。複数の図形の寄せ集めというか……。まるでいくつかの積み木を組み合わせ、人型を構成したようだ。
顔――に該当する部位には丸い球体が、足――に該当する部位には直方体が……という具合。体の各所が極端に角ばっていたり、丸みを帯びている。
頭部には目、鼻、口といった各種パーツは存在せず、〝ボール〟のような純粋な球体を成していた。
そして。腕――に該当する箇所。
その部位は際立って異質な形状をしており……肩口から手の先までが一振りの剣……両刃の剣みたいな攻撃的デザインとなっていた。
実際。今もその腕を自在に操り、宇津白姉弟の斬撃と荒々しく対抗している。
また、不思議な事に〝何か〟は柔軟性に富む動きをしていた。
どう見たって曲がりそうにない箇所が……曲がっている。それも、曲がる角度には上限が無いかのようにグニャリと。
例えば膝。両足はそれぞれ一塊の細長い直方体で構成されており、かつ、鉱物のように一定の硬度を持っていそうな外見にも関わらず……何故か曲がっている。
……とにかく。一つハッキリした。
あの相手には俺のちっぽけな常識など到底通じないという事が――
戦闘は一進一退という様相を示していた。
明らかに、相手の実力は『長の部屋』付近で遭遇した警備員を大幅に上回るものとなっている。
特に強力なのは筋力だ。姉弟が鋭利な腕を正面からまともに防ごうとすると、時々威力を殺しきれず、まるで地面を滑るようわずかながら強制的に後退させられてしまう。
加えて速度面でも中々の力量を誇り、基本的には警備員から攻勢を仕掛ける……という形になってしまっていた。
だが。一見そんな劣勢に思える状況下であるものの……けして二人が『警備員』に劣っている訳ではない。
『白光流』は攻撃的なものじゃないのだ。
アレでいい。攻撃を捌いて捌いて――とにかく捌いて、隙を見出したら強烈に反撃する。それが『白光流』の基本的な立ち回り。
何より……二人には長い年月で培われたのであろう巧みな連携があった。一方がよろめけばすかさずカバーに入り、互いの動きが邪魔にならないような立ち回りも完璧だ。
――ついにきたっ!
「【平白跳斬】!」
「【白離実閃】!」
片方は既知の技、もう片方は初めて目撃する未知の技。
逆襲の活路を見出したらしい東子と進は『白抗流』の技を皮切りに、すかさず猛烈な攻撃へと転じる。
手の動作、足の動作……一切緩める気配がない。観戦している俺にすらひしひし伝わってくる凄まじい熱気。間違いなくここで決着をつけるつもりなのだ。
二人が刀を一振りするたび、じりじりと相手が後退していく。目まぐるしい剣の嵐が警備員を容赦なく襲い掛る。




