第三十四話 決意と予定
放課後。
現在、俺は自宅にいる。
だが。いつもと違いリビングには俺以外に、光道、白井さん、宇津白姉弟の姿があり……ここまで我が家の人口密度が高くなるのは転校以来初めてだ。みんな学校から直行しているので、服装は全員制服のままだ。
そんな中。俺達は背の低い机をぐるりと囲むようにして座り込んでいる。
「光道さん、『白光神援教』の幹部たちは普段どこにいるのだ? それと人数は三人で間違いないな?」
「『長の部屋』というところ。施設の三階。人数もそれで合っている」
「場所は覚えてる。俺がしっかり案内するよ」
「悪いな霧白。ああ……お前はヤバくなったすぐ逃げろ」
進のくせに、俺に気を回してくるとは……意外だな。
「あっ、キリシーロ先輩。長はもしかすると『地下室』にいるかもしれませんよ」
………………。
俺は正面にいる後輩女子を、ちらっと一瞥する。
「……『地下室』?」
「そうですー。というか『長の部屋』より、むしろ『地下室』にいる頻度の方が、たっかいたっかいと思いますよ。ねえ、光道先輩?」
た…………たっかい……?
光道は少し反応速度遅めに頷いてみせた。どうやら本当の事らしい。
「ええと……入り口から真っすぐ進んで、階段見えたら左に曲がって、右手側四番目の部屋が『地下室』入り口ですーよ」
俺は一応、あの施設を深く理解したつもりでいたが……そんな認識抱くにはまだまだ甘かったらしい。
「光道、そこは何をする部屋なんだ?」
「………………」
…………考え事でもしているのか? 返事を寄こしてこない。
「光道?」
「私も知らないわ。でも、鍵かかっているから行っても無駄」
「『長の部屋』にだったら『地下室』の鍵があるですーよ。恐らく机の中ですー」
ふむ。光道も何やっているか知らない場所……ね。
一つ、確実にわかることは……絶対ロクでもないことに使用されていることだ。
…………いや、待てよ。それ以前にだ……。
「鍵があるっていう『長の部屋』そのものに施錠はされてないのか?」
俺は白井さんへ質問したのだが……。しかし、白井さんよりも素早く光道が答えてみせた。
「もちろんされているわ。扉は頑丈で簡単に壊すこと……も…………」
突然、彼女は何か思い出したように言い淀んでしまった。すると、代わるように白井さんが話に割り込んでくる。
「キリシーロ先輩どうぞ。これ『長の部屋』の鍵ですーよ。あげます」
なんとまあ。白井さんは鈍い銀の光沢を放つの鍵を一つ――そっと俺の手の平に置いてみせたのだ。
「長にもらいましたけど……いらないんであげます、あげます、あげまぁーす」
『長の部屋』の鍵。どの角度から観察しようと、何の変哲もない普通の鍵だ。
だが…………どうして彼女が持っている? 「もらった」と彼女は口にしたが……。
やっぱり、どう考えても怪しいだろ。〝罠〟……なのだろうか? 俺達を施設に誘い出すための。
けれども。今日俺達が施設に侵入することを長たちは把握していない。
〝何日の何時に〟といった具合で施設に誘導すべく仕向けてくるならまだしも……今回、潜入する時間帯も日付も、全て俺達が自主的に決定している。
つまり、待ち伏せからの奇襲ということは出来ないはずである。
……待て待て。もしくはこのように推測できないだろうか。白井さんがスマートフォンを二台……もしくは複数台所持しているということだ。そして俺達の目を盗み連絡を……。
しかし俺は、すぐに自分の推理が間違っているだろうと結論付ける。
それは今に至るまで、俺も東子も進もけっして白井さんから眼を離すことがなかったからだ。
ということは…………罠ではなく〝偶然〟カギを持ち合わせていた……と判断していいのか?
いや、もしかすると向こうとしては時間や日にちなどもはや関係なく、ただ施設へ誘い込めればいいとだけ考えているのかもしれん。
例え自分たちが奇襲されようと、問題なく対処できる……という余裕の表れなわけだ。
むしろ〝自分達を邪魔する者を消せてラッキー〟くらいに思っているかもしれない。それならば逆に、〝挑戦者大歓迎〟ということになるか。
まあ、他にも色々可能性は上げられるかもしれんが……結論としてはやっぱり〝行かない方がいい〟ということである。それを言ってはおしまいな話だが……。
やはり……「施設への突入は中止しないか?」と説得すべきか。今ならまだ間に合うぞ。
「よしっ、決まりだな‼ まず我々は『長の部屋』に向かおう。そこに幹部がいればそれでいいし、いなければ鍵を手に入れ『地下室』へ行く。決行時間は深夜二時。進、霧白君、これでいいな!」
「ああ、わかったよ姉さん!」
俺が苦悩しているのとは対照的に、すっかり決意が整ったとやる気で満ち溢れていく二人。
「進……お前……やる気なのか?」
「はあ? なに今さらなこと聞いてんだよ。当たり前だ‼ この日が来るのをどれほど待ちわびていたことか……。死んでもやり遂げてみせる」
進の眼は真剣そのものだ。その瞳からは、言葉通り強い信念を宿していることを俺へ悟らせるのに十分すぎる決意の光が放たれている。
東子に視線をやると、こちらも進と全く同じ目をしていた。真剣なものだ。頑なで、恐らく俺の説得など跳ね除けてしまうような――。
!
その時だ。二人の決心固まる表情を見とめた瞬間、ふとある考えが頭をよぎった。
ああ……そうか!
やっぱり、攻めるなら今日が一番いいんだ。二人に死んで欲しくないと願うなら、今日でなくてはならない……。




