第三十話 信用されてない
ち、父親の死体……?
「もう一つの箱には我々の母親が……父同様、凄まじい量の切り傷、刺し傷が残された状態で袋に包まれていたんだ……。袋に付着する汚れの正体は凝固した血液だった」
ふと俺は……宇津白家を訪ねた時、違和感のようなものを覚えたことを思い出した。
それはもしかすると……〝両親が暮らしている形跡が感じられない〟ことだったのかもしれない。
「それぞれの袋には死体以外に一本ずつ〝刀〟が入っていたよ。それは前日の夜、両親が『白光神援教』の施設へ向かう際、所持していた物――我が家に代々伝わる刀だった。ちなみに……両親も『白抗流』を操る者だ。私たちの師匠であり……相当な手練れだった」
ええと。つまり……宇津白姉弟の両親は『白光神援教』の施設に突入したものの、返り討ちにあってしまった――ということか。
だが……一つ疑問が残る。なぜ全身に刺し傷、切り傷があるのだろうか?
アイツらの手口は分かっている。変な生き物に腕を噛ませ、その毒で人を殺すのだ。
その一連の流れに刃物を扱う工程は含まれないはず……。
「両親はその日、唐突に『白光神援教』を攻めようとしたのではない。ずっと前から困難とされていた信者との交流を図っており……ついに成功させたのだ。信者たちは固い結束力があり、通常相手にもされない。だから……これはとてつもない偉業だった」
そう言えば東子は以前〝光道に話しかけても無視された〟……なんて出来事があったことを教えてくれた。〝相手にされない〟とは、つまり〝無視〟ということなのだろう。
「その後。両親は施設の場所を聞き出し、さらには信者に施設内への手引きまで約束させたのだ。何もかもが順調……後は攻め込み、勝利を得るだけ…………かのように思われた」
これまでの話からするに、宇津白姉弟の両親はけして頭が悪かった……という訳ではなさそうだ。むしろ優秀な人間だったように、東子の言葉からは想像される。
「問題は身近に存在した。『白抗流』日本支部だ。両親がついに施設突入の糸口を掴んだというのに……「総攻撃には準備が数年必要」と主張したのだ。無論両親は抗議したが、聞き入れてはもらえなかった。〝このような機会、もしかすると二度とないかもしれない〟という思い、それに協力を取り付けた信者が〝いつ心変わりするわからない〟という不安から……ついに両親は二人で挑むことを決意したのだ」
「長い話を聞いてくれてありがとう」と最後に東子は締めくくる。
話をまとめると――宇津白姉弟は『白抗流』の使命のためだけでなく、両親の敵を討つためにも『白光神援教』の幹部達を倒したい、と……こういう感じか。
……非常に重い話であることは間違いない。
だが。同時にここまで明かしてくれたということは、それほどに俺達のことを信頼してくれた証……ということだろう。
………………。
ならば……俺も正直に、腹を割って話すしかないだろうな……。
話す……話す……。
……話す……のか…………。
過去、光道にされた忠告が脳裏へ鮮明に蘇る。
〝俺がちょっとばかし、他人とは異なる存在になったことは秘密にするように〟……というヤツだ。でなければ怯えられ、〝嫌われる〟……と。
けれども、ここで真実を伝えるということは……隠していた秘密にも触れなくてはならない……。
………………。
い、いや! 何を躊躇うことがあるってんだ……。別に……二人に嫌われたところで、今さらどうってことないじゃないか。所詮、数日前の自分へ戻るだけのこと。
それよりも。ここではっきり事実を伝えないのは不誠実である。しっかり教えるべきだ。
だが一応、俺は光道の耳元にそっと口を寄せ……耳打ちする。
「なあ、『長』とかその『付き人』を俺がどうしちまったのか……この二人になら話していいよな」
すると、今度は俺の左耳に光道が手を当て、そのまま囁き返してくる。
「……いいと思うけど……。でも、きっと無駄になるわ」
……無駄? 無駄って……どいうことだ?
まあとにかく光道の賛成も出たことだし、俺は真剣な眼つきで宇津白姉弟に告げる。
「東子。ターゲットにしている〝幹部〟っていうのは……施設内部で『長』と呼ばれる存在だったり、長の近くにいる『付き人』のことか?」
突然、ピクっ! と光道の肩がわずかに上下した。くしゃみでも我慢したのだろうか。
「その通りだが……よく知っていたな。……いや、霧白君は施設で色々説明を受けたのだろう。知識があって不思議はないか」
「あー、その幹部達なんだけどな……俺が倒してしまった。だから施設にもういない」
…………。
…………。
「「………………はあ?」」
宇津白姉弟は合図一つ取っていないにも関わらず、完全にシンクロした声を上げてみせた。
「なあ……霧白……。それって……高度なギャグか? 悪いけどあんま面白さが伝わりにくいし、今後はやめた方が身のためだぞ」
進は一ミリも信用しないとばかり、疑わし気な半眼で俺をじとっり見つめてくる。
「いやいやっ! こんな状況でギャグ言うわけないだろ!」
そんな俺にすかさず反論述べようと口を開いた進を、東子は手で制した。
「待て進。霧白君、確認するが……君は本当に施設で誰かと戦い、勝利した……間違いないな?」
「その通りだ」
「ということはだ進。どんな事情があったのかは不明だが……霧白君が倒したというのは――きっと『白下』のことだろう」
は、白下? 未知なる単語が出現したな……。
だがどうやら進には理解できるらしく「なるほど」と合点がいった様子である。
「その……白下っていうのは?」
「霧白君は知らんのだな。『白抗流』は昔から『白光神援教』の者達を、その強さによって呼称を変えているんだ。一番下……信者たちの事は『白下』、長の付き人は『白中』、長は『白上』――とまあ単純な分類だ。〝上中下〟で表しているだけだしな」
そんな分け方あったのか……初耳だ。
……待てよ。ということは『白中』って名前、付き人はここから取ったのか……。
「あっ……」
その時。ようやく光道の「言っても無駄」というセリフに合点がいった。
俺の強さは〝全く信用されていない〟のだ。……まあ、これまで頑なに隠してたのだし……ある意味〝成功〟か。
はあ……よかった……。
‼
俺の心に大きな動揺が走る。
よ、よか……った? よかった? 今なにを……ホッとしたんだ俺は……。




