第二十八話 余計な事
はあ……一体どんな心境の変化が彼にあったというのか?
「自分でもわかってるけど。俺は光道さんが近くにいるだけで……どうも焦っちまう。だから、それを克服するまでお前が光道さんの安全を守れ。まったく頼りないが他のヤツよかまだマシだろう」
やっぱり少し引っかかるところもあるが……進の事をちょっと見直した。散々バカにされていたから気づけなかったが……実はそれほど根の悪い人間でじゃないのかも……しれない。
というか、俺って案外単純な男……? ちょっと謝られただけで、相手の評価をコロッと変えてしまうしな。
そんな事を考えつつ、俺は手に持っていた『白光ドリンク』の入ったコップに口をつける。
「ところで霧白。お前、姉さんの恋人になってくんない?」
「ぶっ‼」
「うっわぁ! きったなぁぁ! おい、ティッシュどこ……ああ、あったあった。ほら、お前も使えよ」
「ごほっごほっ! ……げほっ……。ううっ……すまん」
俺は差し出されたティッシュを手にすると、いそいそと口元を拭う。
「で、どうなんだ? もちろん俺は応援するぞ。様子を見ていた俺が断言してやる。姉さんは間違いなくお前のことが好きだ」
いやいやいやいや……そんなことあるわけないだろっ! 適当なことぬかしやがって。
「俺もその方が、より安心して光道さんをお前に任せられるんだけど……。お前は知らんかもだが、姉さんって中々学校じゃモテるんだぜ! 俺に話しかけてくる男子達は、最初こそ俺と知り合いになりたいみたく装うんだけど……大抵しばらくすれば「姉さん紹介してくれ!」って頼まれるんよなあ」
本当に知るか! そんなこと!
「おっ! 霧白君……よく見たら案外まんざらでもない顔してんじゃん!」
「してなああああい! してないからっ! 勝手に俺の気持ちを演出するのはやめろ!」
「そうやって焦るところがまた怪しいな~。本当はどうなんだろうな~」
くっそ、なんてことを言うんだコイツは!
「なあ、いいじゃねえかって……。『白抗流』同士、仲良くしようぜ!」
くぅぅううう、急に調子良くなりやがって。ちょっと見直したと思ったが……撤回だ撤回!
やはりウザいヤツだ。光道と俺をなるべく引き離そうという私利私欲な野望のため、自らの姉を生贄に差し出すとは。
「お前の予想はとんだ誤解だ! 実は昨日……って〝様子見ていた〟だと! まさかお前! 昨日光道と俺達のこと見てたんじゃ……」
「さ、さあ……、なんのことやらさっぱりぃ~だ」
なんてわかりやすくトボけるんだコイツは。
「さっさと帰りやがれっ!」
手近のティッシュ箱を投げつけた俺であった。
「あれ、もう十七時になるのか……」
そんな進の何気ない一言で俺は壁の時計を見やるが……驚愕ながら確かに、時刻は十七時を回っていた。
まさか…………進と死ぬほどくだらない会話をしていただけで、ここまで時間が経過しているとは……。
……しかもちょくちょく、尋ねてもないのに姉の情報を提供してくるのはなんなんだ。
「姉さんは五、六分息を止めれるくらい泳ぐことが好きだし上手いから、プールに連れてけば喜ぶ」とか「姉さんは案外押しに弱いから、ぐいぐい迫っていけ」とか……俺はどんな顔で進の話に耳を傾ければいいのか。
というわけで。
俺が「帰れ」と語気を荒げて言い放ったにも関わらず、その後もずるずるとしょうもない会話を繰り広げ……二人でカップラーメン食べ、テレビ見て、またどうでもいい話をしてたのであった。
これほど〝時間を浪費した〟……と深く自己反省するのも久しぶりだ。
「そんじゃそろそろ……っとぉ、危ない危ない。お前に伝えなきゃいけないことがあったんだ。明日の昼休み、姉さんと二人で話があるからちょっと付き合ってくれよ。…………光道さんも一緒にな」
光道も一緒に……?
「まあ、いいけど……。光道にも言っとくよ」
「おおっ! そうかそうか! 俺としては今日でもよかったんだが……どうも姉さんは今日中にやり遂げたいことがあるらしくて部屋から出て来ないんだよ。まっ、てなわけで明日迎えにいくから。ちゃんと教室で待ってろよな」
その一言を最後に、ようやく進は俺の家を後にしていった。
バタンッ! と家の扉がしっかり閉じられたのを目視で確認するや、自然と言葉が口からついて出た。
「…………疲れた」
ちなみにこの〝疲れた〟というのは肉体的にではなく〝精神的に〟という意味で……って、これじゃあ昨日と同じではないか!
今日こそ早く寝て、ちゃんと疲れを癒すのだ! ……そう固く決意する俺であった。
○
翌日――月曜日。
ただ今学校は、絶賛衣替え移行期間であり……制服を着ていくかどうかで一通り悩んだものの……やっぱりまだ着ていくこととした。
特に深い意味はない。まっ、暑かったら学校で脱げばいいだけの事さ。
ちなみに。今日はきっちり光道が朝目覚めていた。というのも玄関で俺を出迎えた光道は、すでに制服に着替え終えていたのである。毎日こうあって欲しいものだ。
「今日はお弁当作った。これ龍太の」
「おおっ! いいね!」
光道の飯はマジでうまい。こういうことなら大歓迎。一気に今日の昼が楽しみになった。
「そう言えば……今日宇津白姉弟が俺達に話あるんだってよ。昼休み」
「わかった」
光道は案外すんなりと了承してみせるのであった。




