第十六話 予想外
「何なんだあの男はぁ!」
ええい……イライラする……。霧白……龍太……!
ほんの数週間前。彗星のようにどこからか現れたかと思いきや、あっという間に光道さんと仲良くなってしまいやがった‼
いやいやいやいや。俺だって彼女に……光道さんにふさわしい人間であるのならば…………断腸の思いで、とやかく文句を言うのは控えよう。
だが、それは彼女のためになる存在かどうか……によるわけであり。
〝霧白龍太〟――――お前は彼女に相応しい人間じゃない!
学力は良くない。運動能力も普通。社交性はゼロ。財力もない。
姉さんから「ヤツが施設に入るカギとなる」と言われ、一度調査のために追跡したことがあるが……こちらに全然気づかず、呑気に道を歩いているだけ。
こっちも相手に勘づかれないようやっているのだから、当然といえば当然の結果だが…………光道さんと普段から一緒にいるのであれば、やはり俺に気づいてもらわねば、相応しいと判断出来ない。
むしろ隣を歩いていた光道さんの方が、何か感知した様子があったくらいだ。
光道さんがなぜあんなヤツと交流しているのか……どうも理解に苦しむ。
……きっと、大人しく清純で可憐で美しく尊い彼女を言葉巧みに騙し、天使のような彼女の優しさを利用したに違いない。
全く、なんたる外道かっ‼ 信じられない詐欺師だ。
そして……………………何より、ここが一番肝心。
アイツは――――〝俺より弱いっ〟‼
とにかく、最低でもこの宇津白進を超えてもらわないといけない。光道さんを守護するどころか、自分の身も守れないような人間では……話にならないのだ。
「……帰るか」
いつも一緒に帰る連中が下駄箱で待っている。そろそろ行かなくては…………あまり待たせちゃ悪い。
俺は机の横にかけてある鞄を手に取ると、だいぶ人気のなくなった教室を後にする――。
――――⁉
なっ……なあにいぃぃぃぃぃ!
教室前廊下へ出た、俺の視線の先に飛び込んできたのは…………静かに一人佇んでいる女生徒――光道さん、その人であった‼
し、しかも……俺に……近づいてくるうううぅ! まっ、間違いない! 彼女は俺に用があるのだ!
「こここここ、光道さぁんっ! ど、どうしてここに!」
落ち着け……冷静だ冷静。クールクール。
「こんにちは宇津白君。聞きたい事があるのだけれど」
「聞きたい事っすか! もちろんいいですよ!」
うおおおおおおぉぉぉ話しかけられたぁ!
「明日、霧白龍太とは何を話すの?」
………………………………?? 明日……霧白と話す…………何のことだ?
予想だにしない質問を投げかけられたことにより、俺は若干ながらも冷静さを取り戻した。
「え、ええと……それは一体……」
心当たりの存在しなかった俺は……恐る恐る、光道さんに尋ねる。
「明日。あなたのお姉さんと龍太が、十時に駅前で会うらしい」
姉さんが霧白と……? 知らない情報だ。
「い、いや……初耳です。それは…………どこで聞いたんです?」
「廊下で二人が話していた。龍太は自分の話なんて、どうせ誰も聞いてないと思っている」
後半の方はよくわからなかったが……とにかく、姉さんが霧白に何らかの用事があるというのは、まず間違いないのだろう。
だが……何を? 少なくとも、俺は事情を知らされていない。まあ、それは帰宅したら教えられることなのかもしれないが……。
「あっ‼ よかったらまだ姉さんが学校にいるか確認してきます? 俺、すぐ見てきますよ」
「ううん、別にいいわ……」
軽く首を左右に振り、否定の意思を示した光道さん。その小さな首の動きは、とても軽々しく言葉で表すことが出来ない程……可愛いものであった。
「ところで…………ねえ宇津白君。明日って……暇?」
「……………………………………………………………………へっ?」
脳内が完全に真っ白となり……たった今光道さんが何と発言したのか、上手く認識することができなかった――――――。
○
翌日の土曜日。
天気は、清々しい青空広がる晴天。絶好のお出かけ日和と言えよう。
さて。今日は宇津白さんとの約束の日だ。
そういえば、昨日光道のやつはどうしたのだろう? 放課後、普段は共に下校している俺達なのだが……光道は「先帰っていて」と理由も告げずどこかに去ってしまった。
まっ、つい最近まで、俺はよく先生に職員室へ呼び出しを受けていたこともあるし……光道にだって何かしらの事情があるのだろうな。別段、大して気にすることでもないか。
ランニング他、毎朝の日課を一通り終え……しかし、今日はまだ余裕がある。
学校がない日は、なんだが落ち着きのある生活を送れている気がして……悪くない。
きっと、朝せかせか忙しくしないで済むからだろう。それに、光道を起こしに行かなくていいということもある。まったく、時間に追われないというのはよいものだ。
駅までは家から徒歩十五分くらい。まだもう少し、ゆっくりする余裕があるな。
その後。俺は適当に時間を潰し……駅へと向かうのであった。




