第十五話 ブーム
「龍太。何の話だったの?」
自分の席へと帰還した俺に対し、開口一番尋ねてくる光道。
しかし……よく考えれば、何の話か俺自身がよくわかっていない。先ほどの会話を総じてみれば、結局のところ〝一緒に出かけよう〟というだけのことであり……それ以外のことに関しては不明ではないか。
まあでも。おそらく『白光神援教』か『白抗流』関係の話であろうことは予想がつくがな。
!
…………待てよ。
もしかすると今回の宇津白さんの誘い、俺にとっては案外よかったことなんじゃなかろうか。
つまりだ。俺は現在、光道に「友達は一人でも多くいた方がいいんじゃないか」と言えるほど偉い立場ではない訳である。
だが今回、もしも宇津白さんに知り合いを紹介してもらえるような約束を取り付けることが出来れば……。友達獲得のための方法として、けして間違っていることはないんじゃないか?
学校で人気者な宇津白さんのことだ。知り合いだって天に瞬く星の数に匹敵するくらい、数多いることだろう。もしかすると、一人くらい気が合う男友達が出来る確率だって高いんじゃないかな……。
こんな他力本願な情けない話、普通なら到底できないが。もはや、一々躊躇っていられる立場ではないことを自覚せねば。
よし。思い切って、宇津白さんに悩みを打ち明けてみよう。
「龍太?」
「……あっ! すまん。ちょっと……考え事をな。また昨日みたいに話があるから、時間空いてるか? ……って聞かれたよ」
………………。
俺の言葉を聞くや、光道は黙り込む。
初めて会話する人は〝無視されている〟という印象を抱くかもしれないが……これは彼女の特徴であり、俺からすればもはやすっかり慣れたことだ。こういう時は、大人しく待っていればよいことを、俺はしかと学習している。
「龍太……彼女は本当にそう言っていたの? ニュアンスに違いはない?」
?
「おお……たぶん」
ニ、ニュアンス?
どうも最近の光道は疑い深い気がする。俺が何か言うと「本当にそうなのか?」返されるような……。
っっ!
その時だ。俺の脳裏にある閃きが生まれた。
いや……ちょっと待て……。確か、さっき廊下で宇津白さんと会話した時も、似たようなことを思わなかったか?
そう――――〝微妙に疑い深い〟だ。
これらの事柄から導き出せる答え……それは…………。
〝ブーム〟だ!
きっと、会話相手へ疑い深くかかることが、女子の間で流行っているのだろう。間違いない!
俺には到底理解に苦しむ行いであるが……こういうことが容易に分かるようになった時こそ、クラスのみんなとすんなり打ち解けることが出来る……と、思う。
それにしても……なんて完璧な推理なんだ‼ 将来は警察か探偵にでもなるかな。
「龍太はもしかすると……一つ、勘違いしているかもしれない……」
……勘違い?
光道は手に持っていた最後の一かけらのパンを、口へと放り込んだ。
「りゅうひゃはじふんふあくらひゅでぃきゃんしんひょ……んんっ。持たれていないと思っている」
……あの……食べながら話されたせいで、前半全く聞き取れなかったんだが…………。
しかし、俺の心情など知る由もない光道はそのまま続ける。
「でも……もしかすると、誰か一人くらいは聞き耳を立てているかもしれない」
「……? わ、わかっ……た?」
何か上手く聞き取れなかったもんで、ひとまず「わかった」と答えてしまったが……何らかに対する忠告……かな……?
ああ、そうか。わかったぞ。俺は今、光道に遠回しに叱られた……という訳だな。
つまり――「廊下での話し声が大きかったから、もう少し控えめにしろ」と彼女は伝えたかったのだろう。
「うぅ……すまん。これからは気をつけるよ……」
「…………」
その後。五時間目の授業が始まるまでの間、どうしてか俺は光道に半眼で見つめられ続け……俺は意味も分からないままに背中に冷汗をかき続けるのであった。てか、このパターンも最近多いな……。
○
放課後。
宇津白進は考えていた。
いや、〝考える〟……というよりは〝悩んでいる〟? それとも〝理解に苦しむ〟? …………自分のことだというのに、上手く把握できていない。
いやもしかすると、それら全てがごちゃ混ぜに入り混じっているのかもしれない。とにかく、これまで生きてきた中で経験したことのない複雑な事態だ。
考えだしたのも、一日二日の話じゃない。高校一年のあの日以来、放課後になると時々こうして頬杖を突きながら、意味もなく窓から外の景色を眺め……ため息をつくのである。
あの日……。
まぶたを閉じれば、まるで昨日のことであるかのように、すぐにでも浮かんでくる情景。
それはこの高校に入学してしばらくのこと。学校が終わり帰宅しようと廊下を歩いてい時、ふとすれ違った女子――光道白紗季さん。
なんと可憐な人物であるのだろうか。一目見た瞬間、打ち貫くような激しい電撃が全身を駆け巡る感覚と共に、完全に意識を持っていかれたのは今でも忘れられない。
姉さん(正確には双子である)に、それとなく光道さんのことを尋ねてみると……何と驚き、彼女は『白光神援教』の信者であるらしい。
姉さんと俺は役割を分担していた。『白光神援教』施設を定期的に監視するのが姉さんの役目。
そして俺は……姉さんが監視する中で怪しいと感じた、もしかすると『白光神援教』幹部である可能性を秘めた人物が施設から外出した際、追跡、監視をし……そいつが真に幹部かどうかを見極める役目だ。
もし俺の役目が上手くいけば……現状、信者の知り合いなしには立ち入ることが出来ない施設に、そもそも侵入する必要がなくなることになる。
幹部さえ倒せればいいのだ。その場所はどこでもいい。
…………ま、まあ、今まで収穫が得られたことはないが……。
一体、施設内部で信者たちは何を学んでいるのか……気づけば、こちらの追跡を振り払われてしまうことがあったのだ。
しかもそれは結構な頻度で発生し、それはもしかすると〝追跡されるのに慣れているんじゃないか?〟というあり得ない妄想すら、頭にちらつくほどであった。
そして俺は、姉さんの口から光道さんが『白光神援教』の信者であると伝えられて以来、ある決意を固めていた。
〝幹部を倒し、光道さんを施設から抜け出させるのだ!〟……と。
幹部を滅したい理由は他にもあるが……この決意だって、けしておろそかできるものではない。
――――――だが。
だが……だが……。
だがだがだがだがだがぁぁっ!
ギリッ、と下唇を苛立たし気に噛みしめる。自然と握る拳に力がこもっていく。
「何なんだあの男はぁ!」
ええい……イライラする……。霧白……龍太……!




