第八話 宇津白家(2)
それはそうだが…………うん……そうだな……。
何より、宇津白さんにおろおろ慌てふためかれながら、慰めの言葉をかけられてしまっては……どうしようもない。
「ああ……どうぞ、続けて。俺は……大丈夫だから」
「……そうか。ええっとそれで……そうそう、もともとこの『白抗流』という武術は『白光神援教』の壊滅を狙う……つまり『白光神援教』に〝抗う〟ためのものとして、きっかり千年前に生み出されたものなんだ。それと同時に『白抗流』を操る者の団体――今の日本支部が誕生した……」
なんというか……一度意味を理解すると、実に捻りのないネーミングな気がしてきた……『白抗流』。
「霧白君。君は『白光神援教』がいかに恐ろしい宗教団体か知っているか? あそこは、遥か古より今に至るまで、ずっと人を殺し続けているんだよ。……彼ら曰く『白き光』とやらのためらしいが……」
――――もちろん知っているとも。そのやり方も含めて……な。
「『白抗流』は、数々の非道な残虐行為を重ねていく『白光神援教』と千年の間、密かに戦い続けてきた……要は〝因縁の敵〟ということさ」
〝因縁の敵〟…………ね。
なんだか字面だけを抽出して見ると、わりかしカッコよく思えてきて不思議だ。
……うん、待てよ?
となるとだ。俺はつい最近、知らず知らずのうちに因縁の対決を果たしていた……ということになるのか。
そう言えば、ヤツらは『白光流』のことを認識していたっけ……。これで彼らが、どうして名前を認識していたのか……その謎が氷解した。
「あ、あれ……? もっと……驚くと思ったんだが……」
ふと、宇津白さんがキョトンとした顔つきでそんなことを言ってきた。
「あっ! い、いや……オドロキマシタヨッ! オドロキマシタ……」
………………。
………………。
だ、だから……演技は苦手なんだって……。
「おっ……そ、そうだよなぁ! 驚くよなっ! 私なんか驚きすぎて吐きそうになったもんな! 〝何て家に生まれてしまったんだぁぁ!〟って。はっはっはっはっ!」
俺の棒演技に対し一ミリも疑う気配なく「私も幼かったな……」としみじみ虚空を見つめる宇津白さん。
……なんかだんだん、宇津白さんが人気者である理由がわかってきた気がする。
何というか…………いい人なんだろうな……。性格に裏表のない〝正直な人〟という印象。
「昔から戦ってきたってことはわかりま、わ、わかった……。けど……別に、今の時代も戦う必要あるのかな……なんて……。警察とか……そういうのやってくれないの?」
「残念だが、とっくの昔に『白光神援教』の息がかかっているよ。しかも小賢しいことにひっそり人を殺すから、世間的にも目立ちにくい。まあ、おそらくマスコミにも信者が潜んでいるんだろうと思うが……」
あー、やっぱり警察ダメだったのか……。
この情報により、過去の自分の行動で一つ良い点があったことが判明した。
それはかつて、『白光神援教』のことを通報するかどうか検討した際……結局行なわないという結論に達したことだ。
もし実行していたら……未来は変わっていたかもしれない。
「これで君も、自分の使命をわかってくれただろう? というわけで改めて…………我々に協力してくれ!」
そういえば……もとはそんな理由で呼ばれたんだった……。
「協力……というのは、具体的に?」
「おっ、おお……そうだな。やはりそこが肝心だ。私ももっと落ち着きを払わなくては……。霧白君には施設に入る手引きを……つまり、光道さんの説得をして欲しいのだ!」
……光道の説得?
というか、この宇津白さんの口ぶり……どうやら光道が『白光神援教』の関係者であると、最初からわかっていたようだ。
……ああ、そうか。
だから宇津白さんは、光道が俺と一緒にこの家へ訪れた時、考え込むような素振りを示したのか。
〝『白光神援教』を滅ぼす〟なんて話、ただでさえ『白抗流』と無関係の者には極力聞かれたくないだろうし……しかも、その聞かれるかもしれない相手が『白光神援教』関係者だとしたら、そんなのもっての外だろう。
てか、それならよく光道を家に入れたな……。
「通常なら、まず施設の扉をくぐれない。入り口で信者達に止められてしまうんだ。入る方法は二つのみで、強引に押し通るか…………信者の〝知り合い〟になるか……」
なるほど。つまり光道の〝知り合い〟であり……かつ『白光流』の使い手でもある俺だからこそ、今回このような場へ誘われることになった訳だ。
「ま、まあ……一応理屈はわか……ったけど。でも、どうして俺を信用できるんだ? もしかすると、俺も信者になったかもしれないのに」
「〝かも〟……ということは、やっぱり違うのだろ? それに……二年間ずっとあの施設を監視していたからわかるのだが……信者になる者は施設に入ったその日、外へと出て来ないんだ」
へえ。そんな法則があったのか……。
「というわけで頼む! 光道さんに、私と進を〝知り合い〟として施設の中に入れてくれるようお願いしてくれないか!」
「嫌です」
「…………………………」
「…………………………」
数瞬、変な沈黙が部屋内を満たした。
「えっ…………ええええええええええええええ‼ な、なんでぇぇぇぇぇぇぇ‼」
そ、そんな無駄に張りのある声でビックリされるとは……。というか、むしろどうして俺が断らないと思ったのだろう?
もしかすると、彼女としては〝『白光流』関係者なら絶対協力してくれるだろう〟と、確信していたのかもしれない。
「あの……ちなみに、仮に中に潜入したとして……一体何をしようと? 内部を目にしたからわかるけど……とてもじゃないが二人で壊滅どうこう出来るとは……」
「うむ。『白光神援教』には幹部が三人いてな……その三人こそ諸悪の根源。施設を掌握し、全ての信者はそいつらの命令ならどのような内容でも実行しようとする。だが、逆にそれがアダともなる。三人を倒せば自然と施設のメンバーは崩壊するだろう。……ああそうだ、一応安心して欲しい……とでも言えばいいかな。幹部達は人間じゃない」
………………えっ?
人間…………じゃない?
俺は宇津白さんの表情をつぶさに観察してみるが…………どうも、ふざけて冗談を放っているような様子はこれっぽちもなく……本人は、至って真面目に発言したものと思われた。
「いや、わかるよ霧白君……これまた驚きな事実だよな。だが……これは嘘なんかじゃなく、紛れもない真実なんだ。『白抗流』の資料にもしっかり〝妖怪〟と記述されていた」
よ、妖怪…………? 妖怪かあ……。
正直、少し前の俺だったなら……彼女の話に対し、一笑に付すだけであったことは間違いない。
だが、現在の俺には……宇津白さんの虚言とも思える話を、簡単に笑い飛ばしてみせることは出来なかった。
というのも、残念なことながら、彼女の発言に対し……俺は思い当たるような節をいくつか脳裏に思い浮かべられたからだ。
「な、なあ……どうか考え直してくれないかなぁ……お願いだよぉ霧白君……」
その声があまりにも情けなさすぎて、初対面時に感じた〝ちょっとかっこいい大和撫子〟――というイメージが、次第に音を立てて崩れていくのを実感した俺であった……。




