第一話 日課
俺――霧白龍太は朝方の人間だと思う。
毎日早朝に起床し、ランニングするという習慣が俺にはある。そんな生活を繰り返していれば……まあ、自然とそうなるものかもしれないがな。
三十分程で帰宅。まだまだ走れる余力は残っているものの、どちらかと言えばトレーニングというより、体の調子を整えるような意味で走っているという側面が強く……あえてほどほどで済ましていたりする。
その後、帰宅した俺は冷蔵庫に直行。中からお気に入りの飲み物『白光ドリンク』を取り出すと、コップに注ぎ……ぐいっと飲み干す。ランニング終わりのこの一杯がたまらない。
それが済むとシャワーを浴び……続いては朝食だ。
といっても、特に俺は食事にこだわりのある男ではないので、食パンを一枚焼いてバターを塗って食べるだけ。
少し物足りないと感じる量が丁度いい。満腹になってしまうと、高確率で一限目の授業で猛烈な睡魔に襲われるのだ。
授業がしっかり聞けるなら……それに越したことはない。一応俺は、真面目な学生なのである。
そんな食事を終えると、今度は学校の支度。今日使用する教科書やノート、体育がある日なら体操着も一緒に鞄に詰め込む。それから学校の制服に着替え……準備完了。
もう五月も終盤。衣替えの時期もそろそろだ。汗ばむ日も増えてきたことだし、秘かに待ち遠しかったりする。
「………………」
――――と、ここまでが転校してしばらくの俺。
現在の俺には、ここから学校登校までに、まだやることが残されているのだ……。
鞄片手に自宅を出た俺は、そのまま隣にある家へと足を運び……インターホンのボタンを押す。
ピンポーン。
………………。
ピンポーン。
………………。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン、ピーーーーンポーーン。
ガチャン。
中から気だるそうに現れたのは――一人の女子。
名前は光道白紗季。我が家の隣人にして俺の幼馴染である。
絹のように美しい黒髪には、ところどころ寝癖がついていた。
両目は眠たそうにぼーっとしているが……正直、普段から彼女の瞳はこんな感じなので、寝ぼけているのかいないのか、いまいち判断することが出来ない。
彼女の大きな特徴である、とても綺麗で白い肌が太陽の光に照らされ……俺の眼にはとても貴重なものであるかのように映った。
そして――――。
「……龍太……おはよう」
「また……今起きたのか?」
「うん」
――――彼女はとても朝に弱かった。
「いい加減自分で起・き・ろっ!」
本当は俺だってこんな小言、口にしたくなんかない。だが……俺が起こしに来ないと、中々目覚めないのでしょうがない。
「目覚ましちゃんとつけたんだろうな?」
「つけたわ」
光道はどうぞ勝手に入って下さいとばかりにドアを開け放したまま室内に戻っていく。ここ数日ずっとこんな感じなので、俺もあまり遠慮せず彼女の華奢な背中を追って中に。
「それで?」
「それで…………うるさかったから止めて寝たわ」
「おいっ!」
目覚まし時計をなんだと思っていやがるんだこいつ! というか、それじゃあただの『騒音発生機』なだけで、鳴らす意味がまるでないじゃないか。
「龍太が来るから安心して寝られる」
「俺じゃなくて目覚ましを頼れ! ……いや、一度は目覚ましを消すために起きているわけだし……そこで二度寝しないようにしろっ!」
「わかったわ」
ったく。しっかり分かっているんだろうな? これ言うのも初めてじゃないぞ。
…………律儀に光道を起こしにくる俺も大概だがな……。
光道が身支度を整えている間、俺は彼女の朝食を用意してやる。ちなみに、メニューは俺同様に焼いた食パンだ。
そして俺がテーブルに並べるとほぼ同時、光道が居間にやってきた。
「いただきます」
小口でもしゃもしゃと食べる光道。先ほどまで所々跳ねていた黒髪はきちんと整えられ、二つ結びにし、おさげのように肩から前へと流していた。
それから、光道がつけたテレビのニュース番組を何とはなしに眺めながら、彼女が食べ終わるのを待つ。
「おい、光道見てみろよ! 『火炎放射器で害虫駆除』だってよ! 外国ってすごいな」
俺はちょいちょい、とテレビ画面を指差してみせる。
「んー」
……ダメだこりゃ。目が糸みたいに細くなっている。しかも生返事だし。
続いて、最近山から町に下りてきた熊をどうにか捕獲成功した……なんてニュースが、キャスターの口から伝えられた。
「捕獲……ね……」
本当はうまく共存出来たらいいんだろうが……。
それにしても…………けして他人事とは思えん話題というか。つい最近、田舎から都会に引っ越してきたばかりの俺なのだが、ちょくちょく〝場違いなところに来てしまったかも〟……なんて考えることがある。
「…………」
?
気づけば、いつの間にか光道もじっとテレビを眺めていた。
さっきまで〝ニュースなんぞ無関心〟という風に、ぼーっとしながら朝食を食べているだけだった彼女なので……少し不思議だ。まあ、別にヘンって程のことでもないが。
「光道……そろそろ……」
「あ……うん」
彼女は、最後の一切れだったパンを口へ放り込むのであった。




