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白き光よ降り注げ!  作者: YGkananaka
第一章 ――ホワイトアタック――
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第四十話 白の世界



 な……んだ……これ。

 白い。

 白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い。

 しろい、白い、シロイ……。

 真っ白だ。

 世界の全てが白い。

 まるで、俺の視界のあらゆるところへ、()()()()()()()()()かのように――辺り一面、白一色。

 だが、何もかもが白く染まってしまったとはいえど、けしてこの世に存在する物体が視認できなくなった訳ではない。

 あれは壁、あれは床、あれは天井、そして俺のすぐ近くにいる人間は光道……と、世界が『白』に完全支配されているにも関わらず、なぜかはっきりと理解できた。

 自分という肉体から、ありとあらゆる感情が全て削げ落ちてしまったかのような、冷ややかな何かが俺の身も心も支配する感覚に包まれる。


「そんな………………嘘だ、()()()()()


 俺の眼前で初めて〝動揺〟の感情を発露し、引け腰となりながら一歩後退する長。

 自分の全身を何とはなしに観察する。手の先から足の先に至るまで隅々と。それが終わると今度は、周囲の景色へと視線を巡らしていく。

 すぐ間近にいた長の付き人二人が、まるで錆びた機械のようにゆっくりと……お互いに顔を見合わせてから……再度、俺に体を向け直す。

 すると、突如。

 白中が軽やかに地を蹴りつけたかと思いきや……一気に俺へと肉薄。そのまま殴りかかってきた。

 

 ……?


 だが……白中が傷ついているせいか、ヤツの動きは少し前に戦った時と比べ、随分と精彩さが欠けており――挑みかかってくる白中の拳を左方へ……軽く手で弾いただけで、上半身が全くのがら空きになってしまった。すかさず俺は、反撃の右打拳を繰り出す。

「…………」

 気づけば俺の腕が……今まで一度も感じたことのない奇妙な感触と共に白中の胸を槍のように()()()()()()。それはちょうど、ついさっき長にやられた自分の姿を俯瞰で見ているかのような光景に感じられる。

 しかし……たったこの一手だけで、あれほど俺が戦闘で散々辛酸を()めさせられてきた白中が、完全に沈黙してしまった。

 白中が刺さった右腕振り抜き……俺は表、裏とひっくり返しながら自分の腕を改めてまじまじ眺める。

 

 黒い。

 

 そう、黒いのだ。

 ――ただし、俺の瞳に『黒い』と認識されたのは、白中の血液……だけではない。今の俺には白中の……〝存在〟そのものが、『黒く』見える。

 また、それは白中だけでなく……もう一人の付き人、加えて長も、俺が現在進行形で体験している『白の世界』において、まるで異質な存在のとばかりに〝漆黒〟……黒いものとして認識される。

 どうして、コイツらだけ……クロ、イ……?

「………………」

 わずかな違和感を覚え、俺は数回目を(しばた)たかせる。

 白さ……が、増している? より、世界が濃密な『白』に覆われたような……。

 その時だ。

 今度はもう一人の付き人が俺に迫ってきた。

 ?

 だが……変だ。恐らく白中と同じくらいの力量は持っているだろうに、こちらもあまり動きに精彩さを見いだせない。

 なぜか……ゆっくりとした速度だ……。これなら、正直片手だけで十分である。

 ……いやそれどころか。このスピードなら、()()()()()()()()()()。俺は体を軽くひねったりする程度の動作で、全ての攻撃を容易く回避してしまう。

 ……。

 俺は、付き人の攻撃を何度かかわすと、相手の心臓がある……はずの箇所目がけ、つま先を尖らせながら勢いよくハイキックをかましてやる。体の柔軟性も『白光流』に必要な要素であり、大して労せず高い位置にまで足が達した。

 特に……大きな手ごたえはなかったのだが、白中同様に俺の足が付き人の胸を貫いていた。

 ……自分でも意外な結果が生じたので、しばらく片足を宙に浮かせたまま、右足がまるで串のように付き人を貫通している様をじっくり眺めてみる。

 ややしてから付き人を足から振り払い、静かに自分の片足を地面へと戻す。すると白中のように、たった一撃だけで完全に身じろぎ一つしなくなった。

「そうか……一つ分かった。君は間違いなく死んでいたが……そこに落ちている小瓶にようやく気がついたよ。……『復活の薬』だ。光道君が飲ませたのだな」

 ――――正解。

 俺はもうすぐ死が訪れようとしている最中、右手を『復活の薬』が入っているポケットに突っ込みながら、アイコンタクトだけで意思を光道に送ってみたのだ。

 例え完璧に俺の意図を汲み取られなくとも、俺がポケットに何か仕込んでいることにさえ気づいてもらえればよかった。

 まさか絶対復活するなんてことを確信していたわけはないし、加えて復活した後どうなるのかも全く考慮してはいなかった。

 だが……あの時はこうするより他なかったし…………なにより、俺は可能性に賭けたのだ。

 俺は一度死ぬとされた『試練』とやらでなぜか生きており、体も通常の人間より強靭なものとなっていた……。

 そんな今の俺なら、何か偶然が……奇跡が起こせるか……と。文字通り一か八かという状況だったが、結果的には成功した……らしい……。

 ……。

 …………まただ。

 さらに視界が白一色に染まっていく。明るい……(まばゆ)くような……ホワイト。

「だがなぜだ? その薬に身体能力を飛躍的に向上させる効果はない。十年前、私自身が薬の開発に関わり生み出したのだから間違いない。そして何より…………君はどうしまだ生きていられる……。今までは、もって三分程度だったというのに」

 ………………。

 特に俺は答えない。……いや、正確にはその答えを俺は持ち合わせない。そもそも俺自身、この奇怪な状況を理解をしていないのだから……。

「…………?」

 俺は……長の両目をじっと見つめながら、不思議そうにゆっくり首を傾け――元に戻す。

 そうして先ほどから、そろりそろり、と少しずつ後ずさっている長を追い、俺も『長の部屋』へと入り込む。

「霧白……龍太……」

 噛み締めるように、長は一言呟く――。

 その瞬間。

 サッ、と長が眼前から姿を消した。

 違う――低くしゃがみ込んだのだ。そのまま一気に近接してくる。

 しかも、先ほどの二人とは異なり……スピードがある。

 ある……の、だが……。

 俺はすかさず応戦する。長の基本動作は白中とほぼ同じ、小細工のないシンプルな攻撃だった。

 しかし……焦りはない。冷静さは微塵もぶれない。

 なぜなら――――スピードがあるといえど、()()()()()()()()()()()()()()()()。これなら施設のエントランスで戦った時の白中の方が速かったとすら思える。

 そして、長の攻撃を捌いてくい内、俺は反攻に転じる機会を見出した。

 即座に身をよじって、体を回転させるや……力強く長の腹部を蹴りつける。『白光流』の技【白紙の撃】という名の回し蹴り。

 一瞬、長が耐えるような感触が足全体に跳ね返ってきたものの――負けじと力強く押し込むよう蹴りこんでやった。……すると。

 凍てつく影のように黒々と俺の瞳に映る長は、まるで後方から不可視の糸で引っ張られていくかのように、『く』の字になって吹き飛び、一瞬で壁面へ到達するや――粉塵をおおいに舞わせつつ、部屋の壁を張りぼてのごとく容易く崩壊させた。

 しかも、長の身体は衝突したにも関わらず減速する気配を全く現出させない。そのまま隣の部屋にまで激しく空を裂く様にすっ飛んでいくや……隣室の壁面に轟音を唸らせながら突き当たった。

 それでも勢いはまだ終わらない。その壁をも貫通しさらに隣の部屋へ強制突入させられた長は、ついには三枚目の壁に激突。円形の大きなヒビを壁面に生み出し……そこでようやく停止。重力に従って垂直に地面へと体が墜落していく。

 ふー、と息を吐き出しながら、倒れる伏す長を鋭い目つきで見据える。

 …………。

 長は…………尚も動けるらしい。

 しばらく横たわっていたが、やがて緩慢な動作で起き上がろうと試み……体が言う事を聞かなかったらしく失敗。わずかばかし浮かした胴体を地面へと打ちつけた。それから、再び立ち上がろうと挑戦したのだが……またも失敗。

 だが粘り強くもう一度取りかかり……ようやく長は、亀裂入り乱れる壁を補助にしながらよろりとおぼつか無い足で直立してみせた。

 俺はいつ長が飛びかかってきてもいいように、油断なく相手の動作に目を配る。何せ彼らは助走なしに何メートルもの距離を一跳びで詰めてくる……。

 !

 ――と、思ったところで俺の予測は裏切られてしまう。

 逃げた⁉

 長は今いる部屋の扉から、廊下に脱出を図ったのだ。

 ……逃がさない。

 ここで逃がすと……非常に危険だ……。

 …………どうする?

 ふと、俺は自分のすぐ傍にあった物が目に留まる。

 すかさずそれを掴むと、長を追って廊下に出る。そして、若干体を引きずるようにして歩いている長の姿を視界に収めるや、腕を振りかぶって、手に掴んだ物――〝長が座っていた高級そうな椅子〟を……投擲した!

 変に軌道が逸れることなく一直線に……さながら吸い込まれるかのように長の腰辺りに椅子が命中。バランスを崩した長がうつ伏せの姿勢で廊下に横転する。

 ただちに俺はその場へと急行するや、長の襟首掴んで無理やり引き起こす。

「やあ、負けたよ……霧白君」

 付き人の二人を沈黙させたのと同じく――俺は長の心臓付近を穿った。


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