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白き光よ降り注げ!  作者: YGkananaka
第一章 ――ホワイトアタック――
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第三十九話 死

 

 お、俺は…………一体……何を相手にしているんだ? ただの……怪しげな宗教団体をじゃないのか……?

「霧白君は私が評価を見直す度に、さらにその上を見せてくれたよ」

「それは興味深いな。ぜひとも霧白君との戦いを直接聞かせてもらうとしようか。だが、ひとまず…………やることをこなしてしまおう……」

 長は、転倒したまま床でもたもたとしている光道の首を掴み軽々と立ち上がらせたと思うと……そのまま壁に向かって放り投げやがった。

「きゃあ‼」

 俺は鉄のように重く感じる自分の手を必死に伸ばす。

「や、めろ……」

 ほんの約二メートル程度の距離で繰り広げられていることのはずなのに、遥か遠くの出来事のようにすら思える。

 壁に背をぶつけた光道は床に崩れ落ちた。唯一の救いは、非常に力が加減されていたことか。

 長は情けなどないとばかりに、躊躇(ちゅうちょ)なく光道の綺麗な黒髪を右手で掴むや、再び無理やり廊下から起き上がらせる。そして空いている左手で光道の体を壁へと押し付けた。

 その時だ。

 パーン、という気持ちのいい乾いたような音が廊下にこだまする。

 ……光道のやつ。普通、自分のことを片手で投げ飛ばすような恐ろしい力を持つ相手に押えつけられでもしたら、とてもじゃないくらい恐怖を感じ委縮すると思うのだが……屈しないとばかりに長の頬を思い切りビンタしてやったのだ。

 何てガッツの――度胸のある女なのだ。もはや長を敬う気持ちは彼女の中で完全に霧散したらしく、こんな状況にもよらず、自分を壁に投げつけたことに怒ることが出来るだなんて……。

「……今わかったわ。龍太をケガさせたのは、あなたたちなのね?」

 ――――違った。彼女が怒りを(あら)わにしているのは、俺が理由だったのか。

 俺との縁が深かった……それなりに()()()()()()()()()()を次第に思い出してきた光道だ。長が俺をケガさせたことに対して怒りを示したのは、まあ頷けなくもない。

 ――だが……ここまで……自分が相当な窮地に立たされているにもよらず、自身ではなく人のことを考えるなんて……並大抵の精神力ではきっとできないことだろう。

 俺はただただ素直に、光道のことを〝すごいヤツ〟だ……と、そう感心せざるをえない。

 しかし肝心の長はというと……彼女にはたかれたところで依然冷静な様相を保ったままだ。怒気を示そうとする素振りも一向に見られない。

「光道君……悪いが君には死んでもらう。本来なら『試練』を受けてもらうところだが……逃走するなら仕方がない……」

 いかにも事務的な事柄であるかのように、淡々と光道にそう告げてみせた長は、右の腕をゆっくり……ゆっくりと、まるで多くの恐怖を与えようとでもしているのか、勿体ぶるみたく悠長に振り上げていく。

「一ついいことを教えよう、光道君。私は今から君の心臓を狙って殴るわけだが……拳は一撃で君の心臓を容易く貫くだろう。つまり……君が下手に苦しむことはない、ということだ」

 光道は逃れようと身を捻らせたり、長の腕を自分から引き剥がさんと抵抗試みるが……無情にも、ごくごくわずかにすら動じてくれる気配はない。

 長は光道を壁に抑えつける左腕をピンと強く張りつつ、一歩後ろに下がる。

「それでは……さようなら、光道君」

 そして……。

 有言実行――宣言通り、容赦なく光道へと無慈悲な拳が……降りかかる――――。

 ゴォッ、という無骨な破砕音。人体を貫いた拳が、なおも勢い収まらず壁にまで至り――発泡スチロールみたいに容易く破壊してみせた音。

「えっ……あっ……りゅ……た?」

 ただし……貫通されたのは光道ではない……。

 

 俺だ。


 まるで何か、目に見えない大きな力にでも突き動かされたかのように勢いよく動き出した俺の体は……そのまま光道を横へと押し出し、代わりにかばった俺が……やられた。

 ――――だが、俺の心は不思議と穏やかだった。

 とにかく思うからだ。


 ………………今回は〝上手くいった〟と……。


 長は、俺の体を通過し壁にまで食い込んでいる腕を引っこ抜くと、数歩後退。途端、支えを失った俺はその場へと落下するように倒れ込んだ。胸にはぽっかり穴が開いており、そこから止めどなく多量の血液がどくどくと、純白の廊下へと川のように流れていく。

 急速に視界から光が消えていく中、それでも光道が俺の側に寄ってくるのだけはわかった。

「ねえ……ねえねえねえっ! い、いやぁ……いやいやいやいやいやイヤぁ! やだよぉ……」

 そんな取り乱すなよ光道……。俺を揺らしたってな、に……も……。

 俺は……みるみると掠れてゆく意識の中、細い細い糸のようにわずかに残る感覚を頼りにそっと右の腕を動かしながら……光道の瞳の奥の奥をとにかく覗き込む。

 あぁ……。

 …………う、だ……か。

 ………………。

 …………。

 ……。


          ○


「やはり君なら光道君をかばうと思ったよ、霧白君」

 長は霧白にしがみつき離れようとしない光道を無視し、まずは霧白の生死を丁寧に確認した。

「どうだった?」

 白中はしゃがみ込み霧白に手をあてがっている長へと問う。

「死んでる」

「そうか」 

 ふと、長の部屋からもう一人の付き人が廊下に現れ、ゆっくりと霧白の死体に近づいていくる。また、白中も同じように長のすぐ側まで、様子を窺いにやって来た。

 長は立ち上がり、二歩程その場から後方に離れると、死体を見下ろしながら尚も話を続ける。

「霧白君、君は危険だったのだ。傷を負っても動き出す姿を私は映像で見ていた。だからどんなに弱っていようと、油断せず確実にやることにしたのだよ」

 長はポケットから真っ白なハンカチを取り出すや、鮮血に濡れた拳を拭っていく。

「ならば……君が気にかけている光道君を利用しない手はない。だからこそ、あれほど悠長に会話をし殴りつけるのに時間をかけ……君が光道君をかばえるチャンスを十分に作ったのだ、霧白君。あの状況下で、弱り切った君が私に挑みかかるという選択を取るわけがないからね」

 長は拭き終えたハンカチをポケットにしまうと、光道に顔を向けた。

「まあ別に、君が光道君をかばうのではなく、私に挑みかかっていたとしても……さほど問題はなかったようだがね。君を殺す計画が、ほんのわずか狂う程度で済んでいただろう」

 未だ霧白の死体の頭付近にくっついたままでいる光道の両肩に長はそっと手を乗せ、耳元で囁く。

「さあ光道君。これから君には『試練』を受けてもらう」

 そうして長は、踵を返すや部屋にあるビンの中へ収納している、『試練』に必要な〝生物〟を用意すべく『長の部屋』に足を運ぼうと……した。

 ――――――――まさに、そのタイミング。

 光道が、こてん、と廊下に尻もちついた。

 ……しかし。

 これは彼女がバランスを崩したわけでなく……かと言って、長やその付き人二人が何か危害を加えたわけでもなく……。

 周囲の視線が一斉に、ある箇所へと集約される。


 ――――死んだ霧白龍太が、勢いよく()()()()()()()()()()


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