第三話 頼み
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というわけで散々に自分の身の程を知り、今に至る。
後でわかったことだが、彼女はこのクラスの学級委員という役職の人らしい。その役職が何をするのかよく知らないけど……とにかくそうらしい。
それにしても不思議だ。今まで住んでいた土地の人達とはなんの気兼ねもなくしゃべれていたというのに。もしかしたら過疎化という現象はその土地を衰退させるだけでなく〝土地の人間を人見知りにする〟という弊害を生み出す原因ともなっている……かも、しれない。
「霧白君……」
過去の出来事に思いをはせていた俺は、担任の教師の呼びかけにより意識を現実に引き戻される。
「今日の放課後、職員室の私の席まで来れないかな?」
「…………はあ……わかりました」
何の用事か定かではない。ただ一つ断言できるとしたら、俺はけして先生に注意されるような〝不良的行い〟はしていないということだ。
ならば、どのような用事だというのか……不安は募る一方である。
「ごめんね呼び出しちゃって。それで、早速なんだけど……」
放課後、先生と会話を交わす生徒というのは案外いるらしく、俺同様に何人かの生徒が職員室で先生と話をしていた。又、この学校では職員室の清掃は生徒が担当しており……職員室内は生徒達でにぎわいをみせている。
「霧白君の隣の席……光道さんのことなのだけど……」
おもむろに話を切り出す先生。瞬時に俺の脳裏へ自分の席位置……廊下側一番後方の席の図が浮かぶ。
そして、その隣に座る生徒こそ、光道さんだ。
異常なほどに白い肌。肩よりはちょっと長い、二つ結びにした黒髪はおさげのように後ろから前へ流している。瞳は丸くて大きい、可愛らしい容姿。身長は低い……いや、女子としては平均くらいか?
人と会話している姿は未だ見せず、大人しい印象を受ける。もちろん、俺と会話をしたことは一度たりともない。
そして。
「霧白君……光道さんと最近何か話しをした? 自宅がお隣のようだけど」
――そして、俺の幼馴染である。
もともと小さい頃この都会の地に住んでいた俺は、今回の転校を機に長年無人となっていた、ほこりの積もるかつての住み家であるところの一軒家に帰ってきたわけなのだ。
「いえ、特には……」
だが、そんな俺の返答にさしたる失望の様子を示さなかった担任教諭は、俺の手元に一枚のプリントを差し出してくる。
「悪いのだけど……このプリントを彼女の家に届けてくれませんか? 進路調査票なんですが……」
進路調査票? 俺も持っているが、そもそも昨日クラス全員に配っていたと思うのだが……ああそうか、そういえば昨日隣が空席だったっけ。
「わかりました」
これといって断る理由もない俺は、特に反抗心もなく了承する。
すると、俺の返事を聞いた若い女先生は心なし安心したようにほっと胸をなで下ろしてみせるのであった。
そんな先生の様子は、わずかながらにも俺に安心感を与えるのであった。
『ああ、俺だけじゃなく先生でも会話する時に緊張することがあるのか』と。
ピンポーン。
庭には雑草生えまくり、ポストにはチラシが詰まりまくり……と、もはや空き家同然の光道家の門をくぐった俺は、インターホンの前で数十秒ほど逡巡してから、観念するようにゆっくりインターホンを鳴らした。
「出ない……か」
たっぷり時間をかけて待ってみたが、誰か現れることはなかった。いやそれどころか、もはやここに人は暮らしているのか? そう疑問を呈するぐらいに人の生活する気配を感じ取れない。
しょうがない、ポストに……いや、この中身ぎゅうぎゅう詰めのポストに入れても回収してくれる確率は低いか。
「明日渡そう……」
いや、だがよく考えてみろ俺。これはクラスの生徒と話しをするよい〝きっかけ〟……というものになるんじゃなかろうか。しかも相手は幼馴染、かつてはたくさんのたわいもないことを語りあった……ことも、あった……と思う。だからきっと緊張しないで済む……気が、しなくもない。
とにかく今のままじゃダメだ。
こんな現状、俺に白光流を教えてくれた師匠――『先生』にはとても報告できない。それにこれでは多くの経験を得ることだって到底出来ないじゃないか!




