第二話 転校
結論。
――俺は人見知りだった。
電車の『改札』前でぐねぐねしていた俺は、自分でもこんなに人に話しかけられないものかと内心恐れおののいたものだ。
それと同時に、改札すら知らない自身の無知さ加減に激しく情けなくなった。確かに今まで遠出するときは、父親の運転する車だけで移動していたという事情もあるが……それを加味してもやはり情けなさは薄れない。
ま、まあ……情けないという話はともかくとして、まだその時点では完全に人見知りであるという確信を抱くまでには至ってなかった。
誰もが早足に過ぎ去っていく駅構内で、俺は無意識に「忙しい人の邪魔をしたら悪い」……と配慮した可能性も十分にあったからだ。それに今まで他人と会話することにおいてここまで障壁を感じたこともなかった……という事実もある。
だがその後、俺は身を持って現実というものをひどく痛感させられることとなる。
転校初日。
それは四月ももうすぐ終わろうかという日。
――――――――――
「ど、どうも……、き、霧白、り、龍太、です……」
自分でも信じられない程震える唇。加えて発せられたのは蚊の鳴くよな小さな声な上、意思に反して勝手に早口になってしまう。
「あぁ……終わり……ですか? わかりました。そ、それではみなさん、何か霧白さんに質問したいこと……などは……」
その時のシーンと静まり返る教室。皆一様に俯く生徒達。そして、それら諸々の状況に困った風な若い先生のにが笑い……。
一つ一つ、それらの情景が脳裏に焼き付いて離れない。
都会……怖い!
「霧白君って……どこから来たの?」
都会の高校二年生達の反応に出鼻くじかれ怯える俺に対して、探り探りという具合がこちらにもひしひし伝わってくる女性徒が、転校後初の休み時間に話しかけてきた。
「あっ、え、えっと……その……」
まさか誰かが俺に声をかけてくるとは……転校の挨拶が失敗した俺は予想だにもしない出来事に直面し、思わずたじろぐ。
地名を告げても、きっとわからないだろうから……。
「その、す、少ない……ところ……」
「少ない? 何が?」
「人が……海も見える」
すると、彼女は海に興味を持ったようだ。
「海! へえ……じゃあ夏なんかは毎日泳いだりとか?」
「ま、まあ…………修行でなら……よく」
「修行?」
はっ! 俺は息を呑む。
……そうだ! こんな不甲斐ない俺でも、弾む会話を生み出すためのきっかけの一つとなるものがあるじゃないか。これなら……『白光流』のことなら――饒舌になれる!
「そ、そうなんだ! 『白光流』なんだけど、知らないかな! ありとあらゆる攻撃を素早い手さばき足さばきを駆使してよけてかわして反撃して……一対一だけじゃなくて多対一、複数人を相手にすることまでもれなく想定した実践的な素晴らしい武術なんだ! 歴史はそうとう昔に遡るみたいで、もしかしたら何百年も前から――」
ぽかーん。呆気に取られた顔の女生徒。
「そ、そうなんだ……。あっ、もうそろそろ授業始まりそうだから……」
…………。
しまった! 女子は武術の話に興味を示さない!
そ、そうだよな……。女子――女の子なんだから、殴る蹴るなんて物騒な話題より、お花だったり手芸だったり……おしとやかな話題じゃないと関心なくて当然だ。
俺は…………愚かだった。




