第二十八話 拘束
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あれよあれよという間に、俺は『長の部屋』まで信者達の手で輸送されてしまった。
室内へと俺を粗雑に放り投げた彼らは「「おつかい・おつかい・おつかい」」としきりに唱えながら去っていったのを眼球を動かして確認する。
「再び出会うことになるとは……思っていなかったよ」
投げ込まれた直後、横たわる俺にそう告げてきたのは長だ。まるで白中を鏡で映したみたいにほぼ同じ顔、遠目からでは間違いなく見分けられないだろう。声に至っては完璧なまでに差異がない。
いかにも値の張りそうな素材が使用されているのだろう木製の机に両手を置き、椅子に深く腰かける長。それと付き人みたいな二人の男がいる。二人の内の一人は白中だ。
二人の男は倒れている俺に近寄ってくると、ワキに手を差し込んで無理やり起こされる。そのまま引きずるようにして運ばれた俺は、いつの間にかセッティングされているひじ掛けがある椅子に座らせられた。
わずかに体を動かすだけで胸部及び背部がするどい痛みに襲われる。未だに、白中にやられた痛みが俺から消えてくれないのだ。
「霧白君、君は今…………疑問を抱いている……」
!
付き人二人が、いきなり俺の両腕をベルトのようなものでひじ掛けに拘束してきた。俺が動揺していたこと、二人とも無駄のない動作だったこともあり、文字通り抵抗する間もなかった。
解除できないかと手を少し動かしてみるも……両腕ともに固定が非常に強固なものであることを、身を持って体感する羽目になっただけの結果となる。
長は厳かな雰囲気をその身に漂わせながら、話を続けていく。
「それは大きな疑問か……はたまた小さな疑問なのか……私にはわからない。……だが、疑問を抱いている…………。ところで……なぜ人は疑問を抱くと思う、霧白君?」
……謎かけか……?
部屋のカーテンは完全に閉じられており、天井の明かりが煌々(こうこう)と室内を照らしている。
長の真意を図りかねた俺が黙り込んでいると、長はこれといって癪に障った様子もなく、淡々と会話を進めた。
「〝好奇心〟だよ。誰しも好奇心という眼に見えない誘惑に抗うことは……難しい……」
いまいち長が何を訴えかけているのかわからない。何らかの哲学的な意味合いの込められた問いかけなのだろうか? それとも、どう反応するかで俺を試しているのか?
「さて、君をここに連れてきた理由だが……霧白君。君が我々に対しいくつかの疑問があるのと同じように……我々も君に疑問があるからだ。それを答えて貰う為、ここに来てもらったわけだよ」
…………確かに長の指摘通り、俺の中で疑問が渦巻いているというのは正しい。……だが、逆に俺に対してどんな疑問があるというのか――見当がつかない。
「『復活の薬』……君はあの部屋を見たのだろう? どこであの部屋の存在を知ったのか……我々に教えてもらおう」
なるほど……そういうことか。〝情報の流出源特定〟……今後俺のような存在を生まないため、予防策を立案するのには必要なことだろう。
「……おっ……俺の、解放と交換……だ」
『交渉術』なんて高度な技術、もちろんのこと俺に備わっていない。だが、わずかでも脱出の望みを繋ぐためには……やるしかない。
「そう言うと思っていたよ……だからこそ、君の両手を拘束したのだ、霧白君」
俺は深くうな垂れながらも、虚ろになっている瞳だけぎょろりと動かし長を見上げる。
……施設内の逃走劇のように、またもや俺の選択は誘導されていたというのか……。最初から、俺にこの条件を提示させるために、わざと腕を拘束した……しかし、なぜそんな回りくどいことを?
どこまでが計算づくなのか――背筋に寒気が突き抜けるような不安と、あまりにも相手の思い通り動いてしまったことへの煮えたぎるような腹立たしさが心の中でぐちゃぐちゃに入り交じる。
「答えはイエスだ、霧白君。では聞かせてもらおうか」
俺は口を開き……かけたところである可能性に気づき、一度閉じる。……それから思い付きを整理して再び口を開く。
「…………アンタ達を信用できない」
さすがに俺も学習する。俺が暴露したところで、はたしてすんなり解放してくれるのか……その保証はまるでないではないか。
しかし、これも想定の範囲内なのか。長の表情に翳りはない。
「そうか……それは困ったものだな。では、霧白君の知り合いに尋ねることとしよう」
白中が長の一言を合図に、部屋の扉を開け放った。
…………ここで……そう来るか……。
廊下から俺の眼前に姿を現したは――光道白紗季その人であった。




