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白き光よ降り注げ!  作者: YGkananaka
第一章 ――ホワイトアタック――
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第二十五話 逃走


         ○


 それにしても、まさかこんな形で『白光流』の技を披露することになるとは。

 階段上に視認されるたのは――四人。

「なっ!」

 飛びかかって来た⁉ 

 コイツら階段から飛びかかるなんて……そのまま落下して大ケガするかもしれないのに、おかまいなしってか!

 しかし、飛来する軌道はわかりやすい。加えて、体の動かし方から、どの方角を目がけているのかも何となく予測出来ていた俺は、身を軽く捻る程度で難なく回避に成功する。

「……っと」

 しかし油断はしていられない。しれっと俺のすぐ真横に一人、前方に一人、肉薄してくる信者達。

 だが、この二人の挙動も予測できる。掴みかかる手を比較的容易に払いのけるや、そのまま包囲を掻い潜れてしまう。

 最後に後方にいた、俺の動きに反応できていない一人の信者の背後へとすばやく回り込むや、強めに背中を押してやる。すると、そんなことされると思っていなかったらしい信者は、何の抵抗なく簡単に階段を落下していき、再度俺を追尾しようとしていた――ついさっき俺が脇を掻い潜った信者達に向かっていき、落下してきた信者を抱きかかえるような図でぶつかっていった。

 階段の上という不安定な足場の影響もあってか、衝突した二人はさらにバランスを崩し、もがく様に両手を回しながら階段下へ足を滑らす。そうなると、下にいる多く信者のもとへ急降下していくこととなり……結果、玉突き事故みたくなっていき、信者たちの足が鈍っていく。

 信者との接触でわかったことだが、正直言って彼らの練度はけして高いものではない。

 確かに現状追いかけられてはいるものの……きっと普段からこれといって誰かを捕獲したり、戦闘したり――というような、荒事的訓練は積んでないのだろう。

 加えて、俺は『白光流』の修行のかいもあって、ある程度ではあるものの、相手の手足や体の運びなどの情報から、相手の次の行動を何となく予測できる。

 ――まあといっても、別に『白光流』に限らず武術の世界……というか、スポーツの世界なら、相手の行動予測というものはわりと重要な要素であると思うが……。

 とにかく……これなら逃げ切れる可能性が出てきたぞ。

 二階は一階と随分異なった景色となっており、階段を駆け上がった先には、左右二方向へと伸びていく、長い廊下が待ち構えていた。

 この建物、なんと腹立たしいというか……面倒くさいことに、全階層の通路構造が異なっており、強制的にまるで迷路の世界へ迷い込んだかのような気分を存分に味わことが出来る。

 そして…………。

 もちろんいるわけだ。俺を捕まえようと目を血走らせた凄まじい意気込みの『白光神援教』の信者達の集団が……。

 彼らが厄介な点は、武術の知識や技術においての乏しい点を十分カバー出来うるだろう多くの人数、それと異常なまでに身体からみなぎらせている〝やる気〟だ。

 俺は三階目指しさらに階段を上るという選択と、左方面廊下への移動という選択を瞬時に切り捨て、右折することを即決した。

 左の方が、一目で明らかに信者の数が多いとわかるのだ。であるのならば、右に行くしかあるまい――。

 そして、さらに上を――三階方面を目指す選択肢を捨て右廊下へ駆け込んだのには……とある考えが浮かんだという事情もあった。

 もちろん脱出の策だ。

 ガチャン!

 いきなり、右斜め前方の白い扉が開かれ、三人の信者が廊下に噴出してくる。

「「侵入者はっけえええええええぇん!」」

 三人の動作が完全に一体となって指さし叫んでくる信者達目がけ、俺は疾駆する速度を全く緩めることなく、弾丸のように一直線に突撃していく。

 また、駆けるのと同時並行で俺は姿勢を低く……低く低く……体勢を変化させていく。

 通路の幅は、人が三人横並びになればほぼ一杯になるくらいで、そこまで広くない。

 これは俺にとって幸運なことだ。道が細くなればなるほど、奴らの利点である大人数を生かしての攻勢に打って出にくくなる。

 やってやる……【(ふた)(さき)(しろ)】!

 俺は出現した三人の内、一番右側にいる一人に狙いを定め――突貫。相手も俺に対応せんと、身構えるように両手を前方へ軽く突き出した恰好で迫りくる。他二人の信者は俺を囲うためか、左側面から円形になるよう接近してくる。

 このままでは、あっという間に取り囲まれてしまう……が。

 俺は、前触れもなくバックステップ。眼前の信者にわずかな動揺が生まれるのを、視界の端でしっかり見逃さない。

 さらに、そこで俺は止まらない。散々技の反復練習をし続けた俺は、こんな状況と言えど勝手に体が動き出すような感覚と共に左斜め前方――()()()()()()()()()に跳躍。

 そして、ついさっきまで俺のいた地点へ群がっていた一人の背中を、階段で信者の背中を押した時のように、周囲を巻き込ませることを念頭に置きながら、本日再びとなるタックルを思いっきりかましてやった。

 【二咲の白】……なんて、ちょっとばかしカッコつけた名称の技だが、実際そんな大げさなことは行われてない。結局はただの体さばき――フェイントだ。

 思い切った低姿勢での接近は、相手にわずかながらも距離感を見誤らせられる。そうしてある一地点に相手を引きつけてからの後方跳躍。

 この後方跳躍が技の要であり、そもそも走っている人間が突然後ろに飛ぶなんて……中々に無茶苦茶な話なわけだ。だからこそ相手の動揺を誘いやすくもあるのだが……。

 とにかく、このバックステップを上手く決めるのにどれほど練習したことか。相手に後ろへ引くことを悟られないよう……後退の気配を漂わせないようにするのは随分と骨が折れたものだ。

 そうして相手を引きつけてから空いたスペースに即座に移動し……後は攻撃するなり、通り抜けるなり、するというわけだ。俺の軌道を俯瞰的に表すとしたら、アルファベットの〝V〟の字みたいな動きとなるか……。

 だが、現状これはほんの応急処置のような技に過ぎない。

 理由は単純、結局はただ横を通り過ぎただけだから。

 これで少しでも気勢を削げればよかったんだが……やはり、向こうのやる気は一味違うらしく、むしろ、さらに意気込んだとすら思えてきた。

 再び俺は四肢に力を込めるや、再加速する。 

 俺は……体力に関してだったら、少しばかし自信があるんだ。

 こうなったら、徹底的に走って走って走って避けて……走って走って走って避けて……。とにかくそれをひたすら繰り返し、絶対に逃げおおせてみせる!

 …………おっと。 

 前か左か……二つの分かれ道が行く手に出現する。だが前方からは追手が五人駆けてくるので、半強制的に左へ曲がらないわけにいかない。

 しかし――俺にとってはある意味好都合だ。どっちにしろ、俺はこの曲がり角を左折するという決断をすでに下していた。

 ……そう。俺はただ、むやみやたらに建物中を奔走していたわけではなく、ある目的地を設定していた。

 集会が行われた場所。

 ゆとりのある大きな部屋。多数の信者が体育座りする中、長が死体の口内に『復活の薬』を投入し、死体の蘇生に数分の時間ながら成功してみせた場所だ。

 あそこなら――あの場所なら…………〝アレ〟が確実にあった。

「っ……」

 ふと……背後から聞こえてくる、まるで地響きみたいに鳴り続けている靴音の量が、やたらと多くなっていることを認識する。

 確かに何人かの追手はいるだろうとは思っていたが…………それにしても……だいぶ音が大きすぎるような……。やむなく、俺は数瞬ばかし振り返った。

 …………。

 いる。

 いるいる。

 いるいるいるいるいるいるいるいるいる!

 めちゃめちゃたくさんいる……。

 もういちいち数えていられない程――たった二、三秒程度確認しただけでは全貌を把握できない膨大な量の追手が、そこには存在していた。

 さすがにあの数をどうにかしてみせるのはまず不可能。もはや俺から〝後退〟の二文字は完全に奪い取られてしまった。両脚の駆動をちょっとでも停止したら終わりだ……。

 だが…………俺の行く手に一筋の光明差す。

 『集会所』

 黒いマジックなどではない、綺麗な文字きちんと印字されているプレートが遠目に窺えた。あれこそ俺が目指していた場所に他ならない。

 ……しかし。

 ヤバい……前方廊下から信者の増援だ。パッと見十人以上いるか……? 

「まっ……にぃあえええぇぇ‼」

 自身を励ますように力の入った叫び上げながら俺は肉体を限界まで酷使、余す力の全てを走ることだけに注ぎ込む。

 手を伸ばせっ……俺!

 触れた。

 ドアノブに触った!

 ガチャンと大きく乱暴な音を立てながら、めいっぱいに扉を開け放つや、勢いよく室内に突入していく。

 あった‼ 『窓』だ! 

 入室した瞬間、明るい外の景色が覗ける窓が……すぐさま俺の瞳に映り込む。

 俺が考えた逃走経路――――〝窓からの飛び降り〟である。

 一度立ち入ったこの部屋になら、確実に窓があるということはわかっていた。

 ここなら二階だ。地面へ落下しても、けして死にはしない高度のはず……。

 急げ……急げ急げ急げ急げ急げ急げ急げ急げ……!

 鍵が……くっそ、もたつく……。

 窓の鍵――開いた!

 後は――――――。


 シャッ! ……という軽快な音。

 

 いきなり、俺が飛び立とうとしていた窓のカーテンが閉まった音。

 白い……純白のカーテンが、出口を――外界をすぐ鼻先にして……突如閉ざされたのだ。

「そこは出口ではないのだよ…………霧白君」


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