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白き光よ降り注げ!  作者: YGkananaka
第一章 ――ホワイトアタック――
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第二十四話 報告

 

 ど、どうして……どうして、光道が……ここに?

 まだ白い服に着替えておらず、学校の制服のままだった光道がゆっくり歩み寄ってくる。

「ちょ……ちょうどいい光道! み、見ろこれを……ここにあるの全部『復活の薬』だぞ! 俺が受け取った文章は本当のことが書かれていたんだよ! わかったろ光道!」

「…………」

 光道は俺の興奮気味の言葉に反応して、ぴたり、と立ち止まる。そうしてから、じっと室内の様子を(くま)無く調べるように目を動かしていく。

「霧白君……腹痛はどうなったの?」

 ずるっ! と、予想の斜め上を行く光道の質問に、思いっきりすっ転びそうになるのを何とか耐える。

「い、いや……それはもう平気だ。そんなことより光道。俺の話はちゃんと聞いていたのか? 目の間の光景……お前はどう思う? 長は『復活の薬』を白き光……だっけ? から受け取ったとか言ってんだろ? どう見ても量産されてるぞ。これで俺の言うことを真剣に聞いてくれるな?」

「…………言うこと?」

「そ、そうだ。『白光神援教』を抜けってくれ……てやつだ。よく原理はわからないけど……長は白き光の力なんかじゃなくて、科学的な力を使ってることはわかるだろ?」

「…………」

「こ……光道?」

 光道はどういうつもりか、俺の眼の奥の奥まで覗き込むかのように、大きくて透き通るような黒い瞳でじっと見つめてくる。

「驚いた」

 そうして黙るに黙ってからようやく一言、彼女はそう口にした。

 よかった……。光道がようやく理解を示したことに俺は安堵する。危険を冒してまで実行したかいがあったのだ。

「よし……まあとにかく、いったんここを抜けよう」

 俺は床から学生カバンを拾い上げる。そうしから光道の肩に手を置き、彼女の体をくるりと回転、後ろを向かせる。

 そのまま光道の背中を押し込みつつ、一緒にエレベーターへ乗り込んだ。

 エレベーターは静かに滑り出し、光道と何か会話する暇もなくすぐに一階に到着する。

「…………」

「おい、どうしたんだ光道? 急ぐぞ」

 エレベーターから降り立ち、俺の前をとことこ歩きだしたはずの光道だったのだが……何の前触れもなく、突然部屋の中央で停止したのだ。

「…………ねえ、霧白君?」

「な、なんだよ光道。ほら、早くしないと――」

 ……不思議だ。

 元々、普段からそんなに感情の起伏が激しいやつでないということは重々承知している。

 だがなんというか……俺の眼前で……俺に背を向けている光道の声は……いつにも増して、感情を押し殺している……というか。とにかく、何か様子がおかしい……。


「この部屋って……()()()()()()()()()()…………」

 

 それはもちろん重々承知している。だからこそ、こうして密かに侵入したのだから。

 光道はすぐ近くにある電話機に寄ると、受話器を取り上げ耳にあてがう。

「侵入者侵入者侵入者、『白き扉』に侵入者。侵入者侵入者侵入者、『白き扉』に侵入者」

 な……何をやって……。

 しかし、すぐに光道の意図を察する。わずかな時間差と共に、光道の声がまるで学校の校内放送みたいに鳴り響いてきたのだ。

 ――――建物内に。

 おそらく今の放送により、建物全体へと光道の声によって侵入者情報が伝達されてしまっている。

「こ、光道……やめろ!」

 急いで光道が手に持つ受話器を奪う。

「ど、どうして……こんなこと……」

「…………」

「どうして……何も……答えてくれないんだ……光道」

 昔までとはいかなくても……それでも……だいぶ打ち解けたと思っていた。

 それは……俺の勝手な思い込み……ただの勘違いだったのかよ……。

「……っ!」

 唇をきつく噛みしめ……俺は部屋を飛び出す。

 ――とにかく、今は逃げるんだ。

 『白き扉』から廊下に出るやすぐ右折、そこで少し長めの、左右にたくさん扉のある廊下を直進。そして階段が見えてきたらところでもう一度右折、そのまま直進で出口だ。

 

 …………と。


 そう上手くいけば、どれほどよかったことだろうか……。

 長い廊下……階段の手前に……さっそくいる。

 二十代後半~三十代前半くらいと思われる、二人の男信者。横並びに直立不動で廊下に立っており……しっかり目と目が合ってしまう。

 時が凍り付いたように――ぴたり、と全員の動きが、もれなくまばたき一つに至るまで――――固まった。

「………………」

「「………………」」

 ………………。


「……………………やべっ」

 

「「侵入者だああああああああああああああ!」」

 信者二人が大声で叫んだ。

「…………まじか」

「「捕まえちゃえ・捕まえちゃえ・捕まえちゃえ・捕まえちゃえ」」

 大の男二人が「捕まえちゃえ」という可愛い言葉遣いでゆっくりにじり寄ってくる様といったら、奇妙奇天烈以外の何物でもない。

 その言葉遣いと姿の相容れなさ加減は、現在の追われるという状況を踏まえると、笑いを誘うというよりも……逆に薄気味悪いものを強く感じさせる。

 後ろにあるのは壁だけ。そのまま曲がり角まで後退しても『白き扉』があるだけで行き止まり。

 〝八方塞がり〟だ。

「「捕まえちゃえ・捕まえちゃえ・捕まえちゃえ・捕まえちゃえ」」

 無意識に俺は後退していたらしく、ドンッ……と、背中に壁が接触する衝撃を感じる。

 信者二人は、行き場を失った俺のすぐ眼前……もうほんの一メートルくらいの距離まで真顔で詰め寄ってきたと思いきや……なんと二人はその場で制止した。

 そのまま、二人はサッカーのゴールキーパーのように両手を広げてみせる。俺を捕まえにかかるのではなく、俺をこの場にとどめようとしているのか……。

 …………。

 俺はためしにちょっと右方向に移動してみた。

 すると、すすっ……と少し腰を低くしながら、俺を逃がすまいと絡みつくような横スライド移動でしつこくついて来る。

 俺を取り押さえんと手を伸ばしてくることはせず、こうして目いっぱい手を広げ包囲しているのは……仲間がやってくるのを待っている、と考えるのが妥当だろう。どうやら随分と慎重な二人組らしい。 

 …………ひょっとすると……チャンスかもしれない。

 俺は自分のカバンの中に何が入っていたか記憶をたどり……大してろくなもんはない、と結論を下す。まあ強いて言えばカメラくらいだが……気にしている場合ではないな。

 ということは……。

 つまり、投げてしまっても問題ない……というわけだ。

「なあ、アンタ達……。聞いて驚け、この鞄の中には……『復活の薬』が入ってるんだぜ」

 鞄の中から『復活の薬』を掴みだすと、二人の眼前に堂々と突き出してみせる。

 二人組が興味津々(しんしん)そうに薬を見つめている様子を確認した俺は、薬をカバンに戻す。

「カバンをよく見てろよ…………ほらっ!」

 そして俺はカバンを――宙に放り投げた。

「はぁっ!」

 その瞬間、俺は腰を落としながら軸足に体重を乗せると……そのまま片方の男目掛け、思いっきり右肩から突撃を仕掛けた。

 空中のカバンへ注意がいっていた男は、俺の思惑通り衝撃でわずかによろけ……一瞬の(すき)が生まれる。

 さらに俺は自分の勢いをそのまま利用、包囲の緩まった脇を強引に通り抜けた。

 その直後、ぽすっ、と()()()()、包囲の突破した先へカバンが落下。予想通りに事が進んだので危なげなくキャッチ、無事俺の腕に収まる。

 そして…………もはや一秒たりと振り向いている暇はない。全力疾走開始だ。

 右の足裏に力を込めるや、勢いよく真っ白な廊下を蹴りつける。駆け出した瞬間、風をかき切る感覚が肌全体を伝わってきた。

 !

 しかし、そのような疾走感を得たのはごく一瞬、すぐに俺は両足の運びを急停止せざるをえない状況に追い込まれる。

 階段の前まで何とかたどり着けたまではよし。……だが。

 右――出口に続く通路には白い人達。目の前の短い通路にはスキップ大好きな人達。左には階段があり、しかもその踊り場――一階と二階の中間のスペースにも白い人達。

 そして後方には俺を先ほどまで包囲していた二人の男。

 周囲の人数を合計すると……二十人近くいるか。

「…………」

 俺はいったん肺から息を全て放出するくらいに深く吐き……再び吸い込む。

 そうして深呼吸をしてから……あらためて周囲を見直す。

 階段方面の人数が手薄になっている。この集団包囲網を突破するには、階段方面を狙うしかないようだ。

「指示が出ましたああああ! 『白き光』のなすがままにぃ!」

 いきなり、出口方面の集団が叫ぶ。

「「なすがまま・なすがまま・なすがまま・なすがまま」」

 すると、それをきっかけに今までで一番気合いのこもる大きな唱和が信者たちへ水の波紋のように伝わっていく。やはり人数が多い分これまでよりも迫力が随分違う。

 きたっ……。

 きたきたきたきたきたきた! 全方向から人の群れが一挙に押し寄せてきた‼ 

 こうなったら……『白光流』で学んだこと、存分に発揮させてやる!

 自分を鼓舞するや、俺は魂を燃やすぐらいの気持ちと共に、階段方面へと勇んで駆け出していく――。


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