第十六話 内容
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私は今監視されています。
思えば、似たような経験が過去にもありました。それは私が白光神援教と……白き光、と出会う少し前のことです。
両親が交通事故で死に、ついに家族は私と兄の二人だけになった時です。頼れる親戚も存在しなかったのですが、兄はすでに成人を過ぎて五年経ち、安定した職にもついていました。
また、私自身大学生で身の回りの大抵のことは自分一人でこなせましたし、両親の残した貯金もあり、生活に関してはとてつもない苦労をする……というくらいヒドイことはなかったと、私自身では思っています。
そんなある日のことです。私が大学から帰っている時、ふと、背後から誰かの視線が突き刺さる感覚に捕らわれました。ストーカーか泥棒か? 私は後ろを振り返るのですが、そこには誰もいません。
自分の勘違いか……当時の私はそう思いました。しかし、それは始まりにすぎなかったことを、その後十分すぎるほど思い知らされることになります。
それからというもの、どこを歩いていても、とにかく視線を感じるのです。ですが……視線の正体がどうしても発見出来ません。何度も何度も……何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、振り返ってもけして誰もいないのです。
私は、自分の頭がおかしくなってしまったと考えるようになりました。
特に、私は直近に両親を交通事故で失っており、そのショックで精神が不安定になってしまったと……それが原因で自分自身に問題が生じたと疑うことに、さして抵抗はありませんでした。
ですが、それは大きな間違い。私の思い込みであったことが証明されるのです。
それはさらに月日が経過したある日のことです。雲一つない綺麗な夜、私が相変わらず何者かの視線を身に受け、怯えながら家路についていた時、前方から随分な速度で走ってくる男が二人。
呆気に取られる私の横を通り抜けていったその二人は、しばらくすると、さらに別の一人の男の両肩をまるで犯人を拘束する刑事のようにしっかりと掴み、私の下にやってきたのです。
二人の説明によると「この男が私の後をつけていたので捕まえた」とのことでした。
その後二人は「自分達はボランティアで困っている人を助けている」と正体を私に明かすと同時に一枚の名刺を渡され「困ったら連絡するように」と確保した男を引きずりながら、去っていきました。
確かに、助けてもらったという事実はあったのですが、それでも疑い深い私は、その時点で二人の話を真に受けることが出来ませんでした。そもそも、そのようなボランティアなど聞いたことがありません。
また、それだけではないのです。突然私の前に現れた点など、怪しむべき個所は複数存在していました。
ですが、私はその考えをすぐに改めることとなります。
その日を境に、私が視線を感じることが一切なくなったのです。
この時、私はこれほどまでに他人へ感謝を感じたことはないというくらい、打ち震える喜びを覚えたことを今でも鮮明に思い出せます。
しかし数日後、私は新たな不幸に見舞われてしまいます。奇しくも、兄が両親と同じく交通事故で死んでしまったのです。最後の家族を失った私の絶望と悲しみといったら、とても言葉で言い表すことは出来ません。
激しく取り乱し……大学にも通わなくなり、家にこもりがちになった私の目にふと留まったのは、ボランティアの人達からもらった名刺でした。
藁にもすがる思いで電話した私を快く受け入れてくれたボランティアの人達は、私にある組織の存在を教えてくれました。その組織には現状の悩みを打破する力があるとのことで。
それが、私と白光神援教との出会いでした。
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「なんだ……これ」
いったん俺は画面から目を離す。
日記……か? このメモリーの持ち主の。
だが、それなら謎が残る。俺は日記を書く基本的なルールをはっきりと理解しているわけではないのだが……少なくとも〝日付〟の記述はあるはずだ。でなくては『日記』という名称の意味がなくなってしまう。
まあ、内容についての結論を下すのはまだ時期尚早か。とにかく先を読み進めよう。
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私はすぐに、白き光の素晴らしさに圧倒されました。
眼の前で死体を復活させられては、さすがの私も白き光の偉大さに気づかないわけにはいかなったのです。
そこから、私の人生は再び始まりました。ある意味で私もその時「復活した」と言っていでしょう。
白き光と真剣に向かい合う毎日。私の全ての能力は、いかに白き光を自身へ取り込むかという課題に対して注がれました。
おそらくこの段階の私でしたら、一生このメモ書きを残すことはなかったでしょう。
……さて、言うなればここまでは全て前置きです。
少し長くなってしまった気もします。文章を削ろうかとも考えましたが……やはり残しておくという選択を取ります。私は誰かに好ましい評価を得たいという意思の下、この文章を書いているわけではないからです。
ある日のことです。その日は、私の隣室の者が『美しき光の部屋』入室に選ばれたものの、優れた人間になれなかった……という報告を私は受けていました。
その日、普段はめったに一人でいない長がたまたま廊下で一人いるのを発見した私は、かねてからの疑問を告げました。それは『復活の薬』の入手方法についてです。
すると長は「白き光から、必要な時にのみ与えられる」と私に教えてくださいました。その話を聞いた私は、白き光に強く感謝の念を送ったことを覚えています。
しかしその時です。
きっかけは何だったのでしょう。これまで一度たりと想像もしなかった考えが、ふと私の頭の中に生まれました。
気になったのです。
長が白き光から薬を与えられる場所は、一体どのような場所なのか、と。
普段の長には確実にお付きの者が傍にいるというのにそれがおらず、廊下に長がたった一人でいる理由。私はそれを長が『復活の薬』をまさに今、取りに行こうとしているためと結論付けました。
気づけば私は、集会がもうすぐあるというにもかかわらず、いつの間にか隠れて長の後を追っていました。
人がどうしたら視線を察知するのか、散々身を持って理解していた私は、その経験を活かし長に認識されないまま、ある扉へと長が姿を消していくところを目撃することに成功します。
一階にある長が姿を消していったこの扉は、けして入ってはならぬと信者の皆が警告されていた、『白き扉』でした。
私は近くの壁に身を隠し、少し距離を保ったまま扉を観察していました。すると、しばしの時間が経過したところで、片手に『復活の薬』を握る長が扉から現れたのです。
集会が後数分後に開始されるという状況。私はその日まで、一度たりとも集会に参加しなかったことはありませんでした。
ですが、私は長がその場から去ってしばらく経つと、集会ではなくその部屋の奥を覗くことを選びました。好奇心という目には見えぬ大きな力が私を突き動かしたのだと思います。
長がカギを開け閉めする様子は目撃しなかったので、おそらく問題ないだろうと予測はしていましたが、やはりというべきか、幸いにも扉には鍵がかかっていませんでした。
意を決して扉を開け放ち奥に進んでいくと、地下へと続くエレベーターがそこに姿を現します。
そのままエレベーターに乗り込み、そのまま地下に降りていった私は……そこで、異様な光景を目にしました。
『復活の薬』です。
壁の側面にある、私の身長を超える背の高い棚。その棚には、長が手に持っていた『復活の薬』と全く同じものがびっしりと並べられていたのです。
その後、私は何事もなく自分の部屋に戻ることができました。
それから二週間が経過したところで、私は『美しき光の部屋』への入室者として選ばれました。かねてから私は「試練は、参加の有無を選択できる」と施設の人達から聞いていました。ですが、どうやらそれはただの噂話だったようで、参加以外の選択肢は私にありませんでした。
そして、私はそのような立場につきようやく気づいたのですが、よく考えてみると私の知る限りで『美しき光の部屋』に挑戦し、生きて帰った者はいませんでした。
もちろん私は優れた人間になるため、試練に対し全身全霊を注ぐという意志に変わりはありません。ですが、恐らく死んでしまう可能性の方が高いでしょう。
試練に選抜されるまでの二週間、私は監視されていました。周囲には誰もいないのですが、視線に敏感な私にはしっかりとわかるのです。
長がどうして、私に嘘をついたのかはわかりません。ですが、その影響により私の白き光への信仰が薄れるようなこともありません。
このメモは私の遺言のようなものです。
理解して欲しいことは、私の得た情報を世に広めて欲しい、というような願いからこのメモを書いているのではなく、言うなればただの気まぐれのようなものです。
自分の死が、もうすぐそこまで迫ってきている。
その事実が、私にこの気まぐれを引き起こさせたのかもしれません。




