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白き光よ降り注げ!  作者: YGkananaka
第一章 ――ホワイトアタック――
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第十五話 パスワード

 

 

 さて、光道の部屋に入るのも久しぶりだ。さっき掃除するとき入ったけど……それはノーカウントとして。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()――どうやら光道の発言はその通りらしく、現在部屋の中には多くの荷物が残されている。

 部屋全体の印象としては……たぶん、女子らしい部屋なのだと思われる。

 少なくとも光道が住処にしている施設の部屋よりは(いろど)り……華やかさがあるかな。

 光道がパソコンの電源を入れると、カリカリッ、みたい音と共に画面が点灯。久しぶりの起動だったらしいが正常に作動して何よりだ。……ちなみに、壊れていた時のことを想定してなかったのは内緒である。

「霧白君……」

 ちょい、ちょい、と制服の袖を引っ張られる。

「おお……どうした?」

 部屋の中にちろちろと視線を巡らせていた俺は、その一声で視線をパソコンの画面へ移す。

「パスワード忘れた」

「……パスワ」

「自分以外が使用できないようにするためのロック機能。打ち込むことで解除される」

 ………………まだ、何も言ってないんだが……俺。

 別に誰に釈明するわけでもないけど、パスワードという単語は理解してますよ。

「メモ……はないのか? 忘れないために」

「メモ?」

 まるで一瞬で凍りついてしまったとでもいうのか。突然光道が彫像のように固まる。

「メモ……メモ……メモ……」

 ふっと、光道の空気が変わる。これは俺が「昔、隣に住んでいた霧白龍太だけど覚えているか」と、教室で質問をした時と似たような反応だ。

 背の低い簡易テーブル上に置いてあったパソコンのもとから立ち上がった光道は、ふらりとその場を離れ、迷うことのなくすぐ近くにある学習机の引き出し上段を開けた。

「メモ……メモ……」

 「メモ」と、一定の間隔で幾度となく呟きながら、小さなメモ用紙らしき紙をその手に掴んだ光道は、石像のように一ミリたりと微動だにしないでじっと記述された文章へ視線を一心不乱に集中させている。

「お、おい……光道? どうした?」

 光道の突如の変貌(へんぼう)に戸惑い、俺は声をかける。

「…………」

 反応がない。そんな食い入るほどに面白いことが書かれているのかとばかり、とにかくメモ用紙を見つめ続けている。

 困り果てた俺は、制止している光道の右肩を軽く、ぽん、ぽん、と叩いた。

「うぉ!」

 新幹線も驚くだろうものすごい速度で俺の眼前へと首を曲げた光道は、メモ用紙を見つめていた時と同レベルの熱心さで、今度は俺の顔の端から端までまじまじと眺めてくる。

 その瞳がまるで人形のように一度もまばたきしないので……少し怖い。何だか目から光も失われている気がするし。

「そのメモ……見ても……いい、か?」

 ………………。

 光道は何も返答しない。

 だが、返事の代わりという風にメモを片手に握りしめながらようやく動きだした光道は、パソコンの元へ戻り正座するや、カタカタとキーボードを打ち込む。

 どうやら教えてくれるつもりはないらしい。メモの内容に若干の興味はあるが……次の画面に進めたようだし、ひとまずは〝良し〟としよう。

「準備できたよ」

 平時の状態へといつの間にか復帰を果たしていた光道は、自分の座っている位置から左横にずれてパソコン前を開けてくれる。

 俺は空いたスペースに座ると、早速操作しようとマウスを握る――。

「…………」

「…………」

 …………。

「……使い方……わかりません……」

 尻すぼみになっていく俺の声。

「……USBを出して」

 自分の無知さ加減に落ち込みながら、光道に指示されるがままに制服のポケットから白く、長方形の物体――USBメモリーを取り出す。

「フタを外して、銀色の部分を……ここに差し込む」

「わ、わかった……」

 しかし、問題が発生する。中々USBが上手く刺さってくれないのだ。

「たぶん逆さだから……」

「えっ? ……あっ! 入った……」

 自らの愚行を反省しつつパソコン画面に目を戻すと、新たな表示が画面端に現れていた。

「それでそこを……そう。そしたらそこをクリックして……そうそう。で、下にやって……そう、それ」

 光道の丁寧な案内のおかげで比較的スムーズに、にわかには信じがたいがこの小さな棒みたいな物の中に入っているらしい『データ』を閲覧することが出来た。

「これは文章のファイル……みたいね」

「おおぉ……なんか文章が表示された」

 なんだか上手く言い表すことが出来ない謎の感動が、頭の頂点からつま先までを通り抜ける。

「ありがとな、ここまで教えてくれて。で……そんなところ悪いんだけどさ……俺、一人で見てもいいか?」

「いいよ」

 光道は別に気にしていないとばかりに随分カラリとした様子で立ち上がると、タンスから寝巻として着るのだろう水色の服と、ピンクのバスタオルを取り出した。

「じゃあ、私はお風呂入ってくる」

「わかった」

 バタン。光道はさして疑問を挟むこともなくすんなり部屋から退出してくれ、望み通り部屋には俺一人となる。

 ……あのUSBを俺に託し、自殺した若い男。

 施設の人間の目を意識してのことだろう……組織専用の白服を着ておらず、組織の変な挨拶もしない、明らかに宗教関係者ではない〝俺〟に対して渡したのだ。それが意味するのは……施設の人間には、あまり内容を閲覧されたくない……というわけである。

 光道の目に入れるのは控えた方が、若い男としても本望だろう。

 さて……それじゃあ、何が書いてあるのかな……と。


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