第四話 信頼
…………はっ?
……ひ、〝百人〟⁉ 百人以上だとっ!
その驚愕の数字は、わずかの間ながらも俺の思考を完全に停止させた。
信じ、られない……信じられない信じられない信じられない……。
そんな……い、一体どうやって……?
……っ‼
違う……違う……そこじゃない!
衝撃的であることは間違いない……が、たった今それ以上の衝撃的発言が長の口から零れたじゃないか!
「い……今の話だと……。アンタらのような存在が、少なくとも百人以上は存在している……そう聞こえるんですが?」
微かに震える喉を気力でどうにか動かし、恐る恐る尋ねる。
「世界中に〝一万人〟いる。数名で一チームを構成し、世界の各地に宗教団体を創設しては信者を集めている」
気が狂いそうな情報だ。突如、軽い目眩に襲われ……ぎゅっと眼を閉じどうにか耐える。
こんなこと、俺が心配してどうにかなるものでもないが……けれど、やはり心配せずにいられない。
果たして〝世界は大丈夫なのか?〟 ……と。
世界の行く末を憂い、ひとしきり思い悩む俺だったが……考えを取り払うように何度か首を振り、改めて長へと向き直る。
取りあえず話を最後まで聞こう。
俺がじっくり心配しても……やはり現状、意味の無い行為だ。
「話を戻そう霧白君。さて、写真の女生徒だが……その父親が我々を狙う『敵組織』と繋がりを持つことが判明した。現状、我々は敵組織の情報をほぼ掴めていない。そこで娘を誘拐し、娘を交渉材料に父親から情報を引き出そうという結論に達したのだよ、霧白君」
ヒドイ話だった。
「どうして……娘を? 聞きたい事があるなら父親に直接聞けばいいじゃないですか」
「二つ問題がある。一つは現段階で父親の居場所が分からないこと。そしてもう一つ、父親は娘以外からの連絡を一切受け付けない『変人』ということだ」
???
イマイチよくわからない父親だな。というかアンタが『変人』という言葉を使いますか……。
「父親は『科学者』だ。我々は、父親は敵組織と共にどこかの施設に籠り、ひたすら研究に没頭している……と、考えている」
なるほど。そんな事情があるわけか。
つまり、どこかに行方をくらましている父親を引っ張り出すため、娘を誘拐したい……と。そういうことか。
「まあ、一応話は分かりました。でも……やはりどうして俺を? 内容はともかく、俺に力を借りようとする理由が思いつかないんですが……」
そこで長は、俺の疑問に答えようとわずかに開口し……どうしたのだろう? 何か思いついたかのよう、不意に固まってしまった。
そして……それから数秒もしない内、再び唇を動かし出す。
「霧白君。ここから先は、依頼を引き受けるなら……続きを話そう」
……そうきたか。
「もし……もしですよ。俺が断ったら……どうするんです?」
「その場合……やむを得ないが我々でやるしかない。少々危険度は上昇するがね……我々も、女生徒も」
どうやら俺が実行した方が、幾分危険度も低下するらしいが……。
「それは絶対、やらなきゃいけないことなんですか?」
「そうだ。計画に変更はない」
……。
……さて。
選択肢は三つだ。
依頼を断り長にはこのまま帰ってもらうか、それとも力ずくでも誘拐を阻止するか、それとも……。
まず、このまま帰ってもらう選択肢は……ダメだな。
女生徒が危険な目に合うのは火を見るよりも明らかというのに、それをみすみす放置するのは……どうもムズムズするというか……。とにかく、ずっと後悔し続ける気がしてならない。
特にあの長が〝危険〟という表現を使用したのだ。危険度は相当高いものと思われる。余計に放置できない。
では、力ずくで阻止という案はどうか?
……まあ、これもないな。
残念なことに現状の俺では力不足だ。出来てもせいぜい、数分程度の時間稼ぎくらいだろう。長に計画の変更を生じさせるのは……まず不可能だ。
となると…………必然的に、俺の選択は一つに絞られてしまう。
「はぁ……」と俺は大きくため息をつき、それから弱々しく天井を見上げた。
「…………わかりました。俺が……俺がやります……」
「そう言うと思っていたよ、霧白君。まずは安心して欲しい。警察には我々が手を回しておこう。万が一通報されても、君が捕まることはない」
それはそれは……随分と配慮の行き渡ってるこった。全く嬉しくないが。
「では……霧白君。君へ依頼する理由を説明しよう。答えは『護衛』だ。敵組織は女生徒に護衛を付け、我々に誘拐されないよう対策を取っている」
「『護衛』? 外国の大統領でも守っていそうな黒服の……『ボディーガード』の人達……ですか?」
「いいや違う、霧白君。『機械』だ……我々は『スカイ』と呼んでいる。直径一メートル程の球体で、自由自在に空を飛ぶ。カメレオンのように表面の色を変化させ風景に溶け込み、放たれる赤い『レーザー』はすでに我々を何人も死に追いやっている」
うっ⁉
き……か、い……? 『機械』……か……。
俺のニガテ分野で、『天敵』とすら言い換えられるだろう。
都会に引っ越して以来、機械関係の記憶に良い思い出がまるでない。自分で言うのも何だが、俺は機械にめちゃくちゃ疎いのである。
「『スカイ』は我々が女生徒の五十メートル以内に近づけば即座に反応、攻撃を仕掛けてくる。だが霧白君が……〝通常の人間〟が近づいたとすると話は別だ。でなくては、女生徒が人と通りすがるたびに死体の山が生まれてしまう。発明者もその点を配慮したのだろう」
なるほどな。そこで、一応は通常の人間扱いに区分されるらしい俺の存在が浮上したわけか。
「何より、私個人としても霧白君はどんな人間より実力が信頼出来る」
そんなことで信頼されても……困るんだが。
「……三つ、質問があります」
ひとまず、俺は頭の隅に引っかかっている疑問を消化しようと、長へ疑問を投げかける。
「まず第一に……どうして、長たちが狙われるんです?」




