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白き光よ降り注げ!  作者: YGkananaka
第一章 ――ホワイトアタック――
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第十話 薬


          ○


「う、ううぅ……」

 途端、周囲の人間が泣き出した。大声で泣き叫ぶものもいれば、必死に目頭を押さえ涙を堪えるもの、近くの人間と抱き合って共に悲しみを分かち合おうとしているもの……様々だ。

「そこのあなた!」

 突如として、俺は長から人差し指を突き付けられる。

「こちらへ……」

 一斉に、辺りの人間が俺に首を向けてきた。

 依然として気息が整ってくれない。額からは変な汗が垂れてくる。……だが、俺はとにかくよろよろおぼつかない足で立ち上がるや、弱々しい力ない足取りで長のもと近寄る。

「どうぞ脈を確かめてください」

 脈……みゃく……。

「はあ……はあ……、はあ……」

 俺は震える手先をどうにか無理やり動かし、倒れている男の首元にそっと手を押し当てる。

 脈が全くない。

 ほ、本当に……死んでる……? 本当に……。

 まだ体温が残っている。死んでから大して時間が経っていないんだ……。

「み、脈……ありま……せん……」

「続いては呼吸を……確かめてください」

 その指示を聞いた俺はいっそう体を強張らせながら、全く感情の色を示していない能面のような長の表情を恐る恐る一瞥。それから言われるがままに、目を閉じたまま一ミリたりと動かない若い男の顔面に自分の顔をじわりじわりと接近させる。

「…………ぁ」

 〝呼吸してない〟 ただその客観的事実を伝え知らせようとするも……言葉が詰まってしまい上手く喉から声を発せられない。やむなく俺は首を横に少し振り、結果をジェスチャーにて伝達する。

「ありがとうございます。どうぞ、お戻りください」

 長に手で促され、まるで現実から目を背けようという意志の表れかとばかりの早足で光道さんの隣へ戻ると、脱力したようへたり込む。

「皆さまの悲しみはごもーっとも! ですが、彼の死を無駄にしてはいけません! 最後に! ……彼が『白き光』に真に愛されている存在か、ここで見守ろうではありませんか!」

 すると長は服の内側にあるポケットから透明な液体が満たされた目薬くらいの大きさの容器を一つ取り出してみせる。

「これは『試練の薬』。もし、彼が死後も『白き光』と共にあるのならば……この液体を垂らすことにより、目覚めるはずです!」

 「では……」と厳かに一言呟くと長は横たわる若い男の口を押し広げ……容器に入っている液体を口内へと……垂らした。


 くいんッ!


 突然――――死んでいたはずの人間が――――動いた⁉

 本当にいきなり、背中を激しく……ブリッジするみたく弓なりに逸らせたのだ。そのまま人間業とは思えぬ猛烈な勢いで上体を起こし上げてみせる。

 そのまま体を微かに左右に揺らしながら、まるで寝起き時を彷彿とさせるかのように、ぼーっと何をするでもなく座っていた。

 「おおっ……」と、辺りの人間から涙に代わり今度は驚嘆の声がいくつも漏れる。

 そ、そんな…………嘘だ。あっ、あ、ありえない……。

 あまりの未知なる恐怖に、俺は戦慄(せんりつ)を覚えずにはいられない。

「し、ろ、い……」

 喋った! そんな馬鹿なっ!

「しろい……白い白い白い白い白い白し白い白い白い白い白い白い白し白い白い白い白い白い白い白い白いああああああああああっぁぁ! 白イイイイイイイ世界がぁぁぁ!」

 カクンッ‼ と操り人形みたくまるで不可視の糸に操作されているみたいな――常人には到底なすことが出来ないであろう、ありえない奇妙な挙動で長へと首を振り向ける男。

「オサ、は……どうして、くろ、イ?」

 ばたんっ。

 一言……そう残すや地面に倒れ伏し……完全に物言わぬようになってしまった。

 それを見計らったかのように、司会役の男がすかさず部屋中に告げてみせる。

「三分十二秒でございます!」

 ……ぱち、ぱちぱち。

 ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち。

 一斉に割れんばかりの拍手が生じ、瞬く間に室内を包み込んでいく。

「彼は『白き光』と共にあること。それがたった今、皆様の前で確認されました。これにて今回の集会は終了となります」

 長が完全に部屋から退場するまで、拍手はけして鳴りやむことがなかった。


          ○


「それじゃあ長のところに行こう、霧白君」

 集会部屋には現在俺と光道の二人のみ。他の人たちはどっかに消えて行った。

「…………」

「霧白君……聞こえてる?」

「…………」

 ゆさゆさと俺の体を軽く揺すられ……心ここにあらずな放心状態のまま光道を見つめる。

「し、死んでたんだ……確かに……嘘じゃない死んでたんだよ……間違いなく……死んでいた……」

「私も驚いたわ。でもさすが長ね。人を『死』から一時的に連れ戻すなんて……。この施設でも一番〝優れた人間〟であることは疑いようも――」

「そ、そうじゃねえよ‼ そうじゃ……ねえだろ……」

 思わず俺は、感情のままに声を荒げる。

「だってあの人。ついさっきまで生きてた……そうだろ|光

《・》()! お前も見ていただろ! なあッ! 俺とぶつかったじゃないか……」

「覚えている。でも、彼は『試練』に失敗したからしょうがない……」

 ……しょうがない…………しょうがないだとぉ! というか『試練』って一体なんなんだよ! 人が死んでるんだぞ!」

「……『試練』は()()()()()()()()()()()って聞いたけど……」

 そんな……そんな話じゃないだろう……。

 というか……なんでコイツは()()()()()()()()()()()()()()! 

 やっぱりここは……この施設はおかしい。異常だ……異常……だ。異常異常異常……。

「はっ……ははっ、ははははははっ! わかったよ……長とやらの元に行ってやるよ光道……」

 意思のこもらない乾いた笑いを乱暴に口元へ滲ませながら、俺は長との対面を決意する。

 ――こんな経験生まれて初めてで、何をどう振る舞えばいいかよくわからない。

 しかし、一体全体どんな経緯で……先ほどの場面に至ったのか、直接〝長〟に問いたださねば気が済まない……そんな気分へと俺は駆り立てられていた。

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