第五話 監視
「改めて尋ねますよ。あなたは俺の事を監視していましたか?」
「っっ‼ …………ああ……ま、待ってくれ……」
顔面を真っ青にした男は、震える口調で俺へ必死に訴えかけてくる。
まあ……やってる俺としても、中々に酷な仕打ちを与えている自覚があるが……ここは心を鬼にするしかない。
「それじゃあ十秒待ちますね。十……九……」
時間制限を設けてみた。これで相手も観念するか?
「………………」
だが。相手は確実に怯えているはずなのに……尚も口をつぐんだままだ。
これではしょうがないので、ダメ押しとばかりにほんの一瞬、男を掴む手の力を緩めてみた。
「っ! あああぁっ……わっ、わかったっ! わかったぁっ! た、頼む、もう降ろしてくれっ!」
「何がわかったんですか?」
「みっ、認めるよっ! 俺は君を監視していた!」
ああっ!
とうとう男が白状したぞ!
確かに聞き届けた俺は、男を手早く引き寄せるや電柱をそろそろ降りていき……難なく地面へ着地する。
「それで、どうして俺を監視していたんです?」
「…………さっきは嘘でも「監視してた」と言わなければ、降ろしてくれなかっただろうが」
んんん? ということは。
あくまで先程の発言は本心ではなく、その場を凌ぐための〝出まかせ〟だった……と、男はそう言いたいのか。
「龍太。電柱より『鉄塔』の方が高いわ」
「まっ! 待ってくれぇっ! わかった! 話す! 話すっ! お、俺は……依頼されてやったんだ。〝雑誌記者〟というのも嘘だ」
「じゃあ……誰に依頼されたんです?」
「知らない。……ほ、本当だっ! 私は上司から依頼内容を聞かされただけ。内容は〝霧白龍太の素行調査〟」
そこで白紗季が会話へ加わってくる。
「あなたはどうして、依頼主を知らないの?」
「まさにこういう時のためだ。そもそも俺が知らなければ、依頼主が誰か、相手は聞き出すことが出来ないだろう?」
ようやく観念したように、ぽつぽつ男は事情を明かし始めた。
「それじゃあ……今、上司に電話して」
「無茶言わないでくれ! ただでさえ、こうして話しているだけでもマズイのに……電話なんてしたら、私はクビだ! 仕事を失ってしまう!」
俺としては、男の都合など何ら関係ない事であるし……そちらの一方的な〝自業自得〟というだけなのだが…………。
「けど、俺だって困ります。よくわからない人達に監視なんてされたら――」
すると突然。男は両手で自分の髪を無造作にかき乱した。。
「ああああっ! こうなったらしょうがない! 君の意見は最もだ!」
男はどこか吹っ切れたように大きく一声上げると……真面目な顔つきになる。
「実は我々、三人でローテ―ションして君のことを監視していたんだが……」
どうやら白紗季は監視人数まで的中させたようだ。もはや一般人の域を超え、超能力者である。
「それじゃあ残りの二人を捕まえてくれ。もちろん私が協力する……いや、私が協力しなくても君なら一人で出るか」
「えっ?」
捕まえるだって? そ、それだと……仲間割れになるんじゃ――
「全員捕まれば、さすがに君の監視も中止になるだろう。それに失敗した責任も分散して……私も面目が立つかもしれない」
……。
……。
…………えぇ……。
考えが……せこい……。
「いいんじゃない龍太。それで済むんなら」
「はぁ…………まぁ、いいか……」
○
その後。男を含めた三人でホームセンターを訪れ俺達は、丈夫な縄を購入。
「そろそろ監視の交代時間だ」
男は自身のスマートフォン画面を見ながら俺へ報告してきた。
「交代時間になったら、監視していた人間が次の監視担当へメールで連絡して……それで、引き継ぐことになっている」
どうやら連絡は文章にて行われるらしい。
男が早速メール作成へ取りかかろうとしたところで、白紗季がメール作成画面を俺と一緒に見させろと男へ要求した。
これは万が一、男が裏切って余計な文章を仲間送らないか監視するための請求だったが……その後見た限りだと、問題はなかった。
実際、しばらくすると次の担当が姿を現したので、本当に問題がなかったことを俺は改めて理解する。
――では。
特に勿体ぶる理由もない。
のこのこ現れた別の監視員へ背後から音も無く飛びかかり、ささっと捕獲するや……手際よく全身を縛って自宅へ転がした。ちなみに性別は男だった。
「でも、後のもう一人はどうするの?」
白紗季がもっともな質問をする。
本来は今しがた縛りつけたヤツが、交代時間になればさらなる別の監視担当へ連絡しないといけない決まりのハズだ。
だが。このままでは定められた時刻にメールが来ず、連絡相手は不審に思い、交代の場へ姿を現さないかもしれない……。
しかし、俺のそんな懸案事項は協力者の男の発言がすぐに解決した。
「縛ったヤツのスマホを奪い、それで連絡すればいい。俺達が使っているのは事前に配布された〝仕事用〟で、ロック番号は全員同じだ。教えるから二人でやってくれ」
という訳で。
俺は縛り上げた男のポケットからスマートフォンを強奪し……操作は白紗季に任せることにした。
けして機械がニガテだからと〝丸投げ〟したのではない……けして……。
その後、再び後退の時間がやって来た。
予定通り白紗季が別の監視員へ連絡すると……別の人間がメールを打ってるとも知らず、交代の人員がやって来た。
また今回も男。つまり、俺は男三人組に見張られていたわけだ。
ちなみに。二人を捕まえ縛り上げ、自宅へ運び込む……という一連の不審動作が、誰かに目撃されることはなかった。
まあ、理由は簡単なことで……相手は勝手に俺へついて来る訳なので、俺はわざと我が家の前を通りがかって相手の動きを誘導し……そこで実行したのである。




