第二話 ツーショット
「だったら私の答案を見ればいいわ。隣の席だし、先生の視線がこっちに向いているかいないか私にはわかるし」
「えっ⁉」
…………………………………………………………。
「…………い、いやっ‼ ……その……自分でやる」
激しく心が揺さぶれ――てない! 揺さぶられてない揺さぶられてない揺さぶられてない。
平常心だ。誘いに乗ってはいけない。
俺は『学生』。テストは自身の力で達成しなくては。
これ以上テストの話題は危険と判断した俺は、慌てて他の話題を彼女に振っていく。
「そっ、それにしてもっ! テスト中先生がこっちを見てるかわかるってのはスゴイなっ!」
「そう?」
「ああっ‼ 俺だったら例え凝視されてても……全然気づけないよ。まっ、わかりやすく見つめられていたら……別かもしれんけど」
白紗季は〝人の視線を察する能力〟が非常に長けている。
誰かに目線を向けられていたらすぐ気づくし、さらには相手に感づかれないよう動くことも可能という……『スパイ』みたいなヤツなのだ。
実際、いつの間にか俺の背後に立たれていたことが何回もある。その度、俺はビックリ仰天させられてしまい……心臓に悪いことこの上ない。
「そこまでスゴイことじゃない。私以外にも施設にいた人なら――――」
????
突然。隣を歩いていた白紗季が、何の前触れもなく立ち止まってしまう。
「…………」
「どうしたんだ?」
これといって面白いモノもなさそうなのに……白紗季はじっと道の先を見つめている。
つられて俺も白紗季と同じ方向へ視線をやるが……やはり、これといって注目を引くようなものはないように思われた。
「盲点だった」
すると突然、白紗季はポツンと意味不明な事を呟いた。
………………盲点?
「龍太、帰ろう」
「…………あ、ああ……」
どうもこの場で、事情を説明してくれるつもりはないらしい。
そうして。再び帰宅路を歩み出した俺達だったのだが……。
しばらく時間が経ったところで、やっぱりどうしても気になった俺は彼女に尋ねてみることにした。
「なあ、さっきはどうしたんだよ?」
「デザインが良い家を見つけたの。将来、龍太と同棲するならあんな家がいいと思って」
‼
はっ⁉ はああああああぁっ⁉
「なっ! ななっ! 何バカなこと言ってるんだお前はっ!」
時々、白紗季はこのような〝問題発言〟を平然と口にするから恐ろしい。
「ちなみに外壁は、白一色に塗り直す」
「汚れたら目立ちそうな家だな……」
というかやっぱり『白』が好きだな……白紗季は。
その時だ。
おもむろに白紗季は鞄からスマートフォンを取り出してみせると、慣れた手つきで画面を操作していく。
「龍太、一緒に写真撮ろう。ツーショット」
「と、突然だな……。一体どうしたんだよ」
「そういう気分だった」
どういう気分なんだそれは……。
ちなみに。俺はこの『スマートフォン』なる機械が写真を撮ることも出来るという驚愕の事実を、つい最近知ったばかりだったりする。
白紗季は〝俺の意見など求めてない〟とばかり、有無を言わさず勝手に俺の体へ自分の体をぴったり密着させてくる。
さらには左腕を俺の肩へと大胆に回してくるや、ぐいっと引き寄せられてしまう。
「龍太、ここを見るのよ」
「えっ⁉ ああ……もうっ! わかった! わかったよ……」
どうせ俺が「やめろ」と言ったところで、彼女がその通りにする確率など……間違いなく〝ゼロ〟であろう。変なところで押しが強いのだコイツは。
……ち、近い……なんでこんな近いんだ。
やたらと近いわ良い匂いするわで俺はだいぶ緊張しながら……それでも大人しく、白紗季の指示通りにしてやった。
…………。
…………。
カシャッ!
数秒ほどの間があった後、スマートフォンがカメラのシャッター音を高らかに周囲へ響かせた。
ふぅ……これで白紗季も満足し――
カシャッカシャッカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャッ‼
「うわっ!」
何だ何だっ‼
なんでこんなシャッター音が鳴ってるんだ⁉ 壊れたのかっ‼
「〝連写〟した」
激しく狼狽している俺へ、白紗季がすかさず解説をする。
「れ、れんしゃ……?」
「連続して写真を撮れる」
へえー。なんかよくわからんが……とにかくスゴイ能力があったもんだ。
文明の進歩というのは、このように驚愕的なことまで可能と――――
「……って! どうして何枚も撮る必要があるんだっ!」
「龍太の写真なら、いくつだって欲しいのよ」
そっ……そんなに俺の写真なんぞ集めて…………どうするつもりだ白紗季よ。
嫌な汗が額からつつーと流れ出す俺であった。
翌日の放課後。
下校途中、俺と白紗季が小さな公園のそばを通りかかった時のこと。
「龍太、公園で一緒に写真撮ろう。ツーショット」
……。
俺の記憶が間違いでなければ……つい昨日も、同じようなことを聞かされた気がするんだが……。
「ここがいいわ」
すかさず俺の腕を問答無用で確保した白紗季は、自分で決めた写真撮影ポイントまでぐいぐい連行していく。もちろん俺の意志は何ら尊重されない。
「あー、はいはい。わかったよ」
こうなったら……白紗季の気が済むまでとことん付き合ってやろう。別に、大した手間でもないし。
俺は写真が撮りやすくなるよう、さっさと白紗季の横へ並び立つ。
「龍太、体をもっと近づけないとダメ」
「ええっ……! もう十分近くないか……」
「昨日と同じくらいじゃないと」
ま、また……あんなにくっつかなくてはならんのか……?




