第一話 迫る懸案事項
今回は短編なので話数はそこまで多くならない予定です。
六月も中旬を迎え、そろそろ〝定期テスト〟という悪魔の行事を、ぼんやり頭の片隅に意識始めなくてはならない時期になってきた……そんなある日の朝。
俺――霧白龍太は、我が家の隣に住む幼馴染の女子、光道白紗季の家にいた。
肌はとても白く、体の線は細い。綺麗な黒髪は二つ結びにして、おさげのように肩口から前に流している。
そして……個人的には、クラスの中でも容姿端麗な方だと思う。
では、なぜ俺が白紗季の家にいるかというと……。
別に〝課せられし使命〟というわけでもないのに……律儀にも朝に弱く中々起きられない白紗季を学校に遅刻させないため、こうして起こしに来たのだ。
しかも、これは今日に限った話じゃない。
ほぼ毎日……ほぼ毎日だ! もはや日課とすら感じてきた自分がいる。
さて肝心の白紗季はというと……俺の気も知らず、朝食に焼いた食パンをもしゃもしゃ小さく齧りながら、まだ半覚醒という具合にぼんやりした両目でテレビのニュース番組を眺めていた。
「続いては、本日の星座占いです!」
女性キャスターが朗らかな声でコーナー名を読み上げてみせる。
占いねぇ……。
…………さて。果たして世の中には、占いを〝信じる人間〟と〝信じない人間〟、どちらの方が多いだろうか?
ちなみに俺は〝信じている派〟だったりする。
だから「今日は良い日になるでしょう」と言われればちょっと嬉しく思うし、「今日はあまり良くないでしょう」と言われれば落胆してしまう。
そして本日の占い結果はというと……十二星座中、第六位にあたるらしい。
六位か。
どうも中間辺りの順位だと……反応に困る。
〝結局運はいいのか悪いのか?〟……中間辺りの順位だと判断しづらいよな……。
「龍太って占い信じる?」
そんな中。ふっと、まるで俺の心を見透かしたような質問を白紗季に投げかけられる。
そこで俺は、コホンと一つ咳払いをしてから、至って真面目な顔つきで答えてみせた。
「……なあ白紗季。〝占い〟って……紀元前から行われているらしいぞ。知ってたか?」
「知らなかった」
ほお……白紗季も知らないのか。
最近判明したことだが、白紗季はだいぶ頭が良い。
非常に学業優秀で……もうすぐ実施される定期テストでも、相当の上位に食い込む実力は保持しているだろう。
そんな彼女の知識にないとは……少し意外だった。
俺は得意気に胸を張りつつ、意気揚々と説明してやる。
「つまりだ。そんな昔から今に至るまで残ってるってことは…………〝当たるから〟なんだよ! だってもし当たらないんなら、一年も持たず廃れていると俺は思うな」
「…………」
……。
その途端。まるで電源の抜けた機械みたく微動だにしなくなった白紗季は……ただじっくり、俺の顔を眺めてくる。
…………あっ、あれ? 反応がないんだが……。
しかし、しばらくすると……白紗季はゆっくり口を開いた。
「……龍太は天才」
「えっ! そ、そうか?」
何か、白紗季に『天才』って言われると……少し嬉しい。
「ところで白紗季はどうなんだ? 占い、信じてるか?」
「これから信じることにする」
ということは……これまで信用していなかったわけか。
俺より白紗季の方が、よっぽど占いを信じてるだろうと思ってたんだがな……。オカルトっぽい事は、どんなものであれ好きそうなイメージだし。
とまあこんな感じに、俺の朝時間は過ぎ去っていくのであった……。
その後。
遅刻することなく学校へ登校した俺は、現在一時間目〝英語〟の授業を受けている。
「はあ……」
さて俺は……黒板をじっとりした目つき見つめながら、何とも憂鬱な気持ちを味わっていた。
わからないのだ……英語が。
今テストを実施したら、間違いなく『赤点』取る自信がある。
英語苦手なんだよな……俺。
だったら〝勉強しろよ!〟という話であるんだが……どうも英語だけは気乗りしない。
そしてそんなことを考えてしまったせいか。テスト期間が迫っていることを改めて強く意識してしまい、再び嘆きの溜息をつくのであった。
それからさらに時は流れ――――放課後。
白紗季と俺は一緒に下校しており、現在住宅街を歩いているところだ。
ちなみに、白紗季の恰好はワイシャツにスカートであり……まあ、つまり衣替えの時期を迎えたというわけだ。もちろん俺もワイシャツ姿でブレザーは着ていない。
「龍太は英語がニガテ?」
「実はそうなんだよ……テストじゃ酷い点になる予感が……」
よく考えてみれば、転校する前……一年生の頃はよくテストを切り抜けられたものだ。
しかし……学校が変わったせいか、それとも二年生になり内容が難しくなったからか。
……あるいは。ちょっとばかし学校をサボったせいか。
とにかく――今回は〝ヤバイ〟
そんな思考に陥ってしまったせいで、ふと赤点を獲得する絶望の未来が脳裏をよぎり……自分の顔がみるみる青ざめていくのがわかる。
「だったら私の答案を見ればいいわ。隣の席だし、先生の視線がこっちに向いているかいないか私にはわかるし」
「えっ⁉」
…………………………………………………………。
「…………い、いやっ‼ ……その……自分でやる」
激しく心が揺さぶれ――てない! 揺さぶられてない揺さぶられてない揺さぶられてない。
平常心だ。誘いに乗ってはいけない。
俺は『学生』。テストは自身の力で達成しなくては。




