未熟者
矢田と親しく話せるなら何でもよかった。
下地に矢田の事が好きだと言うとクラスの笑い者になると思ったので、クラス内に好きな奴がいると告げた。
「誰なん!? その人は?」
案の定、下地は目を見開き勉強以上に熱心に語りかけてきた。そして下地を中心とした友達も集まってきて、そしてその中に矢田の姿も目に映った。
「森……川……かな!?」
今でもなぜ疑問符で返したのかと思う。森川はクラスの端っこにいて丸眼鏡をかけ、ぽっちゃりとした大人しそうな子だった。失礼な言い方になるが決して可愛くはなかった。それを疑問符で返した理由、本当は矢田が好きだったからだ。
「ええー、マジで!! 凄い!!」
矢田はみんなより一際興奮して寄り添ってきた。目の奥には「恋」に憧れる女の子の純粋さと森川のどこを好きになったのかという好奇心で満ち溢れている。
「学校も違うのに……なんで? なんでなん?」
矢田の設問に僕はたじろぎ、困ったが、本当は嬉しかった。好きな女の子とこんなに近距離でしかも長く話せることが今までになかった。近くで見る矢田の顔は本当に可愛かった。時折笑った口から見える八重歯が、母性心をくすぐった。
「俺、見た目ガリガリやろ!? だからぽっちゃりとした子が好きやねん!!」
たとえそうだとしても理由はどうでもよかった。あなたが本当は好きですと心の中で叫んでいた。「矢田、俺の心の叫びを聞いてくれ、気付いてくれ」その願いが通じるとその時の僕は信じ切っていた。願えば叶うだろうと……
「そうなんやー、応援してるね」
その言葉に僕は傷ついた。僕を見てと身体を引き寄せたかった。でもまたチャンスが来ると僕は思った。矢田と話せる回数が多くなると、いつか矢田が僕の事を好きになってくれるかもしれない。僕は未熟だったのだ。
そして僕は森川にそっとラブレター渡した。横に友達がいても問題なかった。
それは冬の寒い夜、英語科目の授業を終えた後だった。