最強のコックリさんは、最低のコックリさん
学生時代こんな記憶はないだろうか?
学校の怪談
七不思議
不幸の手紙
コックリさん
解明できない不思議だからこそ、自分が特別になれるチャンスが生まれるのだ。
もし、自分が預言者だったなら?
僕の学校ではオカルトブームが起こっている。
僕の名前は、渡里 薫
小学5年生。
僕の父は、考古学の研究者。
僕の母は、今は幽霊のような存在となり、過保護なまでに僕の生活に関わってくる。
そのため、僕には人ではないものが良く見える。
今の僕には、諸事情により母が憑いてない一人ぼっち。
寂しくないか?と尋ねられれば寂しいのだが、
全校集会で周囲を見回しても霊をつけている人は滅多にいない。
これが普通と思えば、世の中どうってことないものだ。
だけど、面倒ごとは守護霊が不在だからと待ってはくれない。
「渡里……こっくりさんってどう思う?」
と隣の席の関谷が訪ねてくる。
「どうって?」
「信じるか?信じないか?ってこと」
昼休み、教室の一角。
教室の後ろの出入り口傍で4人の女子がコックリさん用のシートを前に真剣な顔をしている。
そしてそれを囲む女子数名の中には隣のクラスの子も混ざっていた。
「当たるか当たらないか?って、言うなら当たらないと思う
けど、動くか動かないか?なら、動くと思うよ」
関谷が興味深そうに、椅子を僕に寄せてくる。
「なぜ、当たらないって思うの?」
「考えてごらんよ。
例えばさ、君のおばあちゃんが君についているとしよう。
で、君のおばあちゃんは、君の未来や好きな人を知っていると思う?」
「思わない」
「でしょ?それにさ、おばあちゃんが傍にいるとするなら、
女子の楽しみのために、君の個人情報流出する訳ないじゃん」
「納得のこたえだよ!渡里君!」
関谷は感心したように大きくうなずいた。
「なら、動くと思う……」
と言うのは?と言う関谷の言葉を止めたのは、
の嗚咽交じりの女子の泣き声。
「違う! そんな事ある訳ないよ!」
気づけば、コックリさんを囲む集団は、男女合わせてクラスの半数まで膨れていた。
それと共に、そこには嫌な空気が渦巻いていた。
怪奇現象には、幽霊・妖怪・妖精・精霊・神・鬼・悪魔・天使、様々な呼び名がある。
しかし、それらは人間がつけた種族訳であり呼び名だ。
実際には、異世界からの来訪者と、人間の思いにより作り出された者に分かれる。
そして今、人間のマイナス感情と言う思いを集め何かが生まれようとしていた。
「あら、事実よ
だってコックリさんが言っているんだもの」
コックリさんの主催者である米原が得意そうに言う。
関谷は、集団に属してはいないが話を聞いていそうな子を選んで話しかけた。
「何があったの?」
「最初はね、昨日の夕食が何か当てるって話だったのが、
途中から吉田さんの母親は不倫しているって話になったの」
小さな声でこそこそ話す。
そこに薫も口を挟んだ。
「夕飯のメニューはアタリ?ハズレ?」
「あたり!」
と、一人の少女が言えば、声を潜めて一人が反論する。
「半々くらいだと思うよ」
周囲で声を潜めても、
あたっている!と言う強い興奮状態
憧れ・尊敬等の感情は抑えきれず声が大きくなる。
「ぇええ~~、ほとんどあたっているよ~
外れたと言っても、日付がずれたとか
カレーと肉じゃがは許容範囲内だと思うの!
それに、田中君のお父さんが昇進したのを当てたり
鈴木さんのお母さんが妊娠したこともあてたのよ!」
そして、その話が聞こえていたのか?
コックリさんの主催者、米原が視線を薫に向けニヤリと笑った。
招き寄せられ、強制的に巻き込まれるかな?と思ったが、視線があっただけで終わる。
そして、米原は別の少女へ視線を向ける。
視線の先の少女はうつむき、顔色も良くない。
自分の意思でいるのではなく、付き合いでいるのは見てわかる。
「コックリさん、コックリさん、山本さんの悩みを教えて下さい」
米原の声が終わるか終わらないかに、4人の少女が指を乗せたコインが素早く動きだした。
コインは告げる。
り・ょ・う・し・ん・の・け・ん・か
わなわなと唇が青くなる山本。
「なぁ、なぁ…これってあたってるの?」
無責任に問われる質問。
さっき、昨日の夕飯? → 惣菜 → なぜ惣菜か? → 不倫
と言う流れだった。
ともすれば次に聞くのは・・・喧嘩の原因が質問となるのは誰もが予測できる。
「もう辞めて!!」
山本が叫んだ。
と、同時にコックリさんをしていたシートが宙に浮く。
いや、浮いたのではなく一人の少女がシートを持ち上げビリビリに破いたのだ。
「きゃぁああああ!!」
コックリさんをしていた一人が叫ぶ。
叫びが連鎖して逃げまどうものも出る。
「何するのよ!」
米原が睨み付けたのは、白守と言う年の割りに小さな少女。
身体に合わない大きな服装と、手入れされていない腰まである黒髪は貧乏臭いと友達もいない。
が、髪に隠された目もとと黒ぶちが大きい眼鏡とで、表情が読めず不気味だとイジメの対象からも除外されるような子だ。
「くだらない…の…よ」
ボソリと呟く。
そして席に戻ろうとしたところ、手入れの無い長く腰まで届いた髪を引っ張られた。
体勢を崩した拍子に椅子が倒れ、その喧騒が一気に鎮まり返った。
人間のマイナス感情と言う黒いモヤは、ますます大きく濃くなっている。
「ちゃんと手続き取らずに終わったコックリさん、責任とってよね」
「責任?」
「そう、私達4人の代わりにアンタが呪われるのよ!」
「呪われるの?」
「そうよ!」
「そう、肝に免じておくわ」
「あなた、狐に呪われて死ぬといいのよ!!」
関谷は薫の顔を見た。
薫の目は宙を泳いだ。
助けられたハズの山本は、逃げ出していた。
誰かがしてくれるはず
誰か早く動いてくれよ
そんな気まずい思いが周囲に溢れていた。
米原に髪を掴まれたまま脅されるような形となった白守。
傍にある机に出しっぱなしにしてあったハサミを掴んだ。
自分に向けられるハサミに米原は、ビクッと身を震わせた。
逃げる暇もない米原。
じゃきん!
白守は、自分の髪を切った。
「で、なんだっけ?」
手の中に残った髪。
そして、怯えた自分に向けられた視線。
「折角材料を提供してくれたし、コレを使って私が直接呪ってあげる!」
「で、そうやって脅せば精神的に弱って学校に来なくなると思っているのかしら?」
白守が首を傾げる。
パラパラと髪が数本落ちた。
「それより……
あなたの母親……大丈夫なの?」
白守が淡々と感情を込めず米原に話しかけた。
「な……なによ」
米原が顔を一瞬硬直させた。
その表情を見て、ニヤリとしながら白守は顔を寄せ言葉を続ける。
「良くないわよ?」
「なにがよ!」
「人のものを欲しがるばかりは良くないわ…
ぁあ、日常的・慣れているのね~」
ふるふると震えながら白守に飛びかかった。
「何を言っているの!何が言いたいのよ!」
何が起こっているのかわからず他の生徒達は見守るしかできなかった。
白守に馬乗りになりながら、げんこつで顔を殴ろうとする米原。
その米原の襟首をつかみ引寄せ、白守が耳元に呟いた。
「あなたの母親噂好きなだけでなく、
盗聴するために不法侵入までしているのね。
わたし、見たのよ?」
その言葉に米原は、力が一瞬抜ける。
その合間を狙い、白守は米原を突き飛ばした。
むくりと身を起こし、口元をニヤリとワザとらしく形作った。
「うわぁあああああああ!!」
米原が狂気めいた叫び声をあげる。
米原の身体から弾き飛ばされるように、目に見えない黒く濃いモヤが発生した。
教室のなかの不安・不満・恐怖・嫉妬・怒り・悲しみ等の様々な感情が増し教室の空気が悪化する。
米原は黙り込む。
勝手な事をいうな とか
証拠がない とか、
名誉棄損 だとか、そんな大人な言葉は出てこなかった。
フルフルと極寒の中に捨てられたように米原は震えていた。
周囲は騒めく。
何があったのか?と、
ただ、今まで誰も白守と仲良くしているものはいなかった。
事情を聴くために「仲良くなりたいの」と言う素振りをする人もいなかった。
「窓、開けて……」
白守は、一言窓際に向かってそういった。
「そ、そうだね」
薫は、慌てて窓をあけると、関谷もそれに続いた。
今日は雨の肌寒い日だが、誰も文句を言う人はいない。
誰もがわかるほどに空気が澱んでいるのだ。
時折雨交じりの風が吹けば、多少なりとも澱みは風に流れていった。
しかし、薫の目には雨に当たった黒いモヤから生まれる小さな虫が見えるのだった。
その虫は小さく呟く
「アスモアメ」
害はないだろうけど……
嫌だなぁ~と薫は、誰にも聞こえないように独り言をつぶやいた。
窓を開けるのを手伝い終わり、関谷は薫に尋ねた。
「で、コックリさんのコインってなんで動くの?」
「コインが動く理由は幾つかあるんだ。
一番多いのは、コックリさんの参加者が動かしている
理由には色々と諸説はあるよ。
催眠術や思い込みによって手が勝手に動いていると感じている。
同じポーズを取って居る事で、手の痙攣が起こる。
後は、本当に目に見えていない何かが原因だね」
「へぇ~~
なら、今回のは?」
と関谷の質問に、薫は考え込み首を傾げる。
「さぁ?わからないけど……
本当にあたる占いなら、僕は小テストの答えが知りたいよ」
そして、僕のクラスのコックリさんブームは終わりを告げた。
あたり過ぎる占いは、逆に怪しいと言うお話