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3 何かが始まる予感

この3年の間に、華憐に何が起こったのか。


2時間程かけて、澄人に熱く語って聞かせられた。その過程で、いかに誠が“華憐が係るとポンコツになる”という状態なのかも、少々ディスりながら教えてくれた。

そして、そんな澄人自身も、“重度なシスコン”であると言う事をカミングアウトしてくる。

そんな事をカミングアウトされても、皆「ああ、うん……」としか言いようがないのだが……。


そんな澄人の熱い講演を、皆がいたたまれない気持ちで公聴している間、誠は椅子に座った自分の膝の上に華憐を乗せ、人目も憚らずにイチャ付いていた。


「華憐、昨日良い物を見つけたんだ。ホラ」


そういうと誠は、ブレザータイプの制服の上着の内ポケットから、手のひらに乗るサイズのリスのヌイグルミを取り出した。

それを見た途端、華憐の瞳がキラキラと輝き始め、本当に嬉しそうに、両手でそれを受け取る。


「リスの縫いぐるみだぁ! 嬉しい! これ、華憐にくれるの?」

「ああ。小さくて可愛い所が、華憐にそっくりだろう?」

「華憐、可愛いの?」

「あたりまえだろう! 華憐が宇宙で一番可愛い!! なんといっても、俺のお姫様だからな!」

「誠君、大好きっ!」

「華憐……」(デレデレ)


バカップルの会話。

……その筈なのに、なぜだろうか?

愛娘を溺愛してデレデレな父親と、無邪気な幼女のコミュニケーションに見えるのは……。


「華憐ちゃん、ほら。美味しいチョコレートだよぉ。はい、あーんして?」

「チョコっ!」


誠の後ろに立っていた天前寺てんぜんじ あらたが、やにさがった笑みを浮かべて、上着のポケットから取り出したチョコを、華憐の口に入れてやっている。

新の見た目は、きっちり纏められた髪にメタルフレームの眼鏡が似合う、怜悧なイケメン眼鏡と言う物だ。所謂、クールビューティーというヤツだろうか?

学園内での人気も、勿論かなり高い。

なのにそのクールビューティーと評されている新が、只の親戚のオジサンに見えるから不思議だ。

これが、”クーデレ”というものなのだろうか?


教室前後の扉の前に立っている海斗と陸斗も、混ざりたそうな眼差しで誠たちを見ている。

この二人も、「少し癖は強いけど、そこがたまらないのよねぇ」などと女性達から大人気な、“可愛い系”美少年双子だ。それなのに、華憐を見つめる様はやっぱり“幼い従姉妹を可愛がっている親戚のお兄さん”に見えるのだ。


状況だけを考えれば、『華憐を中心とした逆ハーレムが形成されている』と感じて当然なのに、『無邪気な幼女を溺愛するバカ家族』にしか見えないのは何故なのか……。




クラス全員が遠い目をしているのは、きっと気のせいでは無いだろうが、生徒会の面々はそんな事には全く頓着していない。華憐に至っては、ぬいぐるみとチョコレートに夢中で、ここが教室であることも忘れているような気がする。

そして、クラス担任の吉川は、「関わりたくない」とばかりに気配を消し、忍びのごとく教室の隅に潜んでいた。


今の状況を一言で言い表すなら、“カオス”。この一言に尽きるだろう。


誰か、なんとかしろよ。


全員がそう思っているが、この状況に助けが入る事がないであろう事も、哀しいかな、理解できてしまう。

もうこれは、彼らの気がすむまで付き合うしか無いのだ。

例え、今日が“入学式後の親睦会が終われば、帰宅できる”という予定であったとしても、この後に予定があるのだとしても、自分達は逆らう事などできない。

上司の誘いを断れないサラリーマンのように、自分達はこのカオスに身を委ねるしかないのだ……。

世間一般の会社なら、“パワハラ”と声高に訴える事ができるのかもしれないが、自分達のような『名家の子息・令嬢』にとって、この生徒会のメンバー達の家は逆らう事など許されないものなのだから。

だから、例え、死んだ魚の様な瞳で、目の前の光景を何時間も見つめなければならなくとも、大切な社交の一つとして耐えて見せる!



この日、Aクラスの面々が解放されたのは、陽も傾き始め、肌寒くなった頃だった。

ウトウトし始めた華憐が、「クチュンっ!」と可愛らしいクシャミをした途端、速やかに解散となったのであった……。





翌日からは通常授業が始まった。


華憐は、相変わらず高飛車・我儘・高慢に振舞っているが、それが演技である事を、皆知っている。だから、不必要に怯える事も無く、何かのきっかけで突如表面に出てくる“シ◯リス君”を愛でながら、穏やかな学園生活を送っていた。

一週間もすれば、華憐の高慢で高飛車な言葉の裏にある“ホント”の気持ちもわかる様になった。

例えば


「毎日学食で食べるだなんて、貴方の家は使用人を雇えないほどに貧しいのかしら? それとも、教室で他の方には見せられないほど、貧相なお食事なの?」


と、見下して言われた場合、その本当の意味は


「いつも学食だけど、お弁当は作ってもらわないの? もし、お弁当を持って来てるなら、一緒にたべよう?」


と訳される。

これを、高飛車な眼差しにチラチラとよぎる“小動物の眼差し”で見つめられながら言われれば、皆、「喜んで〜!」とばかりにイソイソと、共に昼食の時間を過ごすのだ。


他のクラスの学生達の手前、『女王様と、その暴挙な圧政に怯える生徒達』を演じてはいる。だが実際は、『上司から預かった可愛い小動物の世話をする、会社従業員』というのが、自分達の本当の立ち位置なのである。



放課後になると、華憐は生徒会室へ行く。学業優秀な華憐は、生徒会に入り、手伝いをしているのだ。

今年の一年生からは、華憐と後二人が生徒会に入った。

まず1人はBクラスの男子、五十嵐いがらし 公人きみと。もう一人は同じくBクラスの女子で、西條さいじょう 美咲みさき


公人は政界での影のトップと言われる、五十嵐いがらし 剛三ごうぞうの孫であり、今年の一年の中で一番のイケメンと言われている。

その容姿は、『政治家の秘書』と言われてもおかしくない様な、パリっとした隙のない見た目だ。勿論、頭脳の方も、とっても優秀。


そしてもう一人の女性、美咲は、2年ほど前に西條家の後妻となった女性ーー愛人から正妻になったーーの子供で、中学までは庶民として生活していた。

西條家に入ったからには、と、この学園に入るよう命令され、猛勉強の末、外部入試でこの春入学して来たのだ。

見た目は可憐で穏やかそうな、気の弱さが見てとれるような少女。肩の辺りで切りそろえられたストレートの髪、抱きしめたら折れてしまいそうな華奢な肢体。

思わず守ってあげたくなる様な、テンプレ美少女だ。


華憐より、15cm程身長は高いのだが、か弱い見た目からして、華憐の高飛車で高慢な態度に耐えられる様には見えない。


一年生たちーーAクラスを除くーーは皆、美咲を心配していた。

生徒会は華憐のしもべだと言う噂だ。

きっと、華憐が美咲をいじめても、助けるものは居ないだろう。可哀そうな美咲は、シンデレラの様に生徒会の中で苛められるのだろうか?

それとも、美咲の思わず守ってあげたくなる様な魅力で目を覚ましたメンバーが、華憐より美咲を選ぶのだろうか?


皆、積極的に関わるつもりはないのだが、酷く好奇心が擽られる。


この先、生徒会を中心に何かが起こるに違いない。


皆がそういう目で、生徒会に注目していた。

『知らぬは本人ばかりなり』

生徒会のメンバー達は、自分たちが注目されているなど微塵も思う事なく、マイペースに学園生活を過ごしているのだが……。



何かが起こりそうな学園生活の幕開けであった。

テンプレヒロインが出て来ましたが、はたして……。

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