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9 大事な所で噛むのもクオリティ

「はじめまして、黒岩様、白石様。澄人の妹の御崎華憐と申します。こんな汗臭い方達に、挨拶する事になるだなんて、思ってもいませんでしたわ」


華憐のこの言葉に、生徒会室の時間が止まった。

華憐の言葉の意味は、「こんなに沢山汗かいて、風邪ひいちゃうよ! 挨拶なんかより、早く着替えた方が良いと思う」という所なのだが……。


正しくその意味を理解できるのは、いつも一緒に過ごしている生徒会役員と一年生メンバーだけ。

勿論、勇と稔には通じるわけがない。

当然の如く、あまりにも高飛車で高慢な華憐の言葉に、勇も稔も不快な気分にはなったのだが、直ぐには反応出来ない。

それなのに、そんな2人に対して生徒会メンバーである友人たちは、華憐の意見に賛同する様な態度を見せるのだ。


「本当にそうですね。おい、勇、稔。着替えは教室か? なら、先に着替えて来いよ。そのままじゃ風邪ひくぞ?」


新が、そう2人に声を掛けると、他のメンバーたちも「そうだな」なんて納得し、誰ひとりとして華憐の言動を咎める人物が居ない。

友人からも「着替えて来い」と言われてしまった2人は、何を言う事もできなかった。


「「あ、ああ……」」


2人は、噂は真実であったのだと思い、茫然としたように生徒会室から出て行ったのであった……。



2人が生徒会室を後にすると、海斗と陸斗が華憐に近付き頭を軽く撫でてやる。


「それにしても……。華憐ちゃんは優しいねぇ?」

「そうだよねぇ。初対面の相手なのに、風邪の心配をしてやるんだもんなぁ。僕たちなんて、気にもしていなかったよ」


2人は頭を撫でながら、優しく華憐を褒める。

その後、鼻をクンクンと動かし「それにしても、あいつ等のせいで生徒会室が汗臭くなっちゃったな」なんて言いながら、窓を開けようと動き始めた。

しかし、その行動を止める者が……。


「いや、窓を開けると花粉が入り込んでくる。華憐が花粉症になったら困るから、ファブ○ー○゛にしろ」


誠である。

別に華憐は花粉症などではないし、籠った空気を入れ替える為にも窓を開けて換気した方が良い筈なのに、ポンコツな理論でそれを却下したのだ。


「そうですわね! 万一の事がありますものね!」

「そうだよねぇ! ここに置いてるのって、何の香だったっけ?」


だが、誠の華憐バカな発言に、当然のことのように賛同する澄人と美咲。

この二人も、立派なポンコツである。

しかし、生徒会メンバーは全員が華憐バカなので、誰もその事に突っ込んだりはしない。全ては当たり前の会話として流れて行くのだ。


「うーんと、ロ○゛ート・ダウニー・Jrの香だね」


そして、澄人の問いには海斗が小ボケを入れて答えた。


「おまっw どうして、『汗のにおい』を『おっさんの香』で打ち消すんだよ! 誰得なんだよ、それ?」

「オヤジスキーには、たまらないんじゃないの?」


その小ボケに、新がすかさず突っ込みを入れ、陸斗がそれに答えを返す。


「海斗君、新君、陸斗君。それ、すっごく面白いね!!」


こんなやり取は、生徒会室では日常であり、このやり取りをキャッキャと笑って喜ぶ華憐の為に、皆が率先して笑いを取りにくるのだ。

華憐を楽しませる事に成功した3人に、誠も澄人も嫉妬の眼差しを向けていたのは、華憐だけが知らない事実であった……。



そんな寸劇が行われた後、きっちりとダウニーの香で除菌消臭された生徒会室。

そこに、勇と稔が戻って来た。


2人はしっかり汗を拭き、デオドラント用品で汗の臭いを落してから着替えて来た。なのでもう、『汗臭い』だなんて、言わせない。

それに、どうやら生徒会のメンバーは皆、華憐の魔性の虜になっているらしいのだ。

自分たちが、気持ちをしっかり持って、彼らを『華憐の魔性の罠』から救い出さねば!


2人はそんな決意を胸に、独特の甘い香りを放つ生徒会室の中に入り、魔王とでも戦う様な気分で華憐を見据える。

誠たちは、そんな挑戦的な友人たちの態度にも動じることなく、静かに成り行きを見守っていた。

美咲は、“大丈夫だ”とは解っていてもやはり華憐が心配なのか、浮かない表情で勇と稔を見つめ、公人は、華憐の怯える心が読めるだけに、その事が気になってしょうがない。

だが、勇も稔も他の視線を気にする余裕など全くなかった。


この幼女にしか見えない女の子が、自分たちの友人を骨抜きにしているのだと思えば、怒りが沸いてくる。

一体どんな手を使って、この幼女は友人たちを誘惑したのだろうか? 


そう思えば、未知への興味と恐怖が沸いてくる。


しかし、自分たちの友人は、『魔性』などに取り込まれる様な愚かな人間では無い筈。だとすれば、これは何かの計画なのではないのか?

それなら、自分たちがここで華憐に対峙してしまうと、友人たちの計画を狂わせてしまうのではないか……。


そんな入り乱れる気持ちのまま、華憐を睨みつける2人。

一方。

そんな色々な想いが複雑に入り組んだ眼差しを受けた華憐は、とっても怖くなってしまった。


この人たちは、自分をしまっちゃうつもりなのかもしれない……。


そう考えるだけで、華憐の瞳はウルウルと潤み始める。

次に華憐が全身をプルプルと振るわせ始めた所で、2人は現状の異和感に気が付いた。


なんだかおかしい……。

目の前の幼女が、小動物に見えて来たのだ。

その姿には、先程感じた高慢な雰囲気など、微塵も感じない……。

なんだ、これは?

もしかして、自分達はとんだ勘違いをしているんじゃないのか?


そんな風に思い始めた時、華憐がウルウルのプルプル状態のままで、コテンと首を傾げた。

勇と稔の首も、つられる様に傾く……。


「い……」

((い?))


小動物そのままの仕草で恐怖に震える華憐は、それでも何とか言葉を発しようと頑張っていた。

そんな華憐の様子を食い入るように見つめながら、2人は華憐の言葉の続きを待つ。


一体、華憐は何を言おうとしているのか?

自分たちが華憐に感じている異和感の正体は、この言葉によって正されるのではないか?

そして、やっぱり自分たちの友人は『魔性』などに取り込まれる様な、柔な存在ではなかったのだと証明される筈だ!


そんな期待も入り混じった視線を華憐に向ける。

だが、次に華憐が発したのは、そんな全てが吹飛ぶようなものだった……。


「いじめりゅ?」

「「いじめねぇよっ!」」


恐怖のあまり、大事な場面で噛んでしまった華憐。

しかし、お約束なやり取りは無事行われ、更には、今回セリフを噛んだ事で生徒会にいた全員を「ここで噛むとか、可愛すぎる!」と、再起不能なまでに悶えさせることとなった……。


こうして、図らずも生徒会の全攻略を成し遂げた華憐は、次の日曜日、生徒会メンバー全員で買い物に行く事を提案し、『第1回、皆で行こう買い物ツアー』が開催されることとなったのであった……。

本日中にもう一本投下予定です!

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